生まれゆく場所
the living room
この世界を生きるためには支えや、よりどころが必要だ。
その支えがなんなのか。それはそれぞれの立場や、生きかた、あり方によって違うだろうけれど、でもきっと誰かに必要とされているという感覚や、家族や、大切な人、共に築こうとする誰かと描く未来のビジョンが、その支えになるのだろう。
そんな支えがある日突然消えてしまったら、一体どうしたらいいんだろうか。きっとおろおろして、一歩も動けなくなって、ぽろぽろ泣いて、自分も消えてしまいたくなるかもしれない。大切なものが失われた世界。その世界で生きるということはどういうことか、考えたくもないことだけれど、「そのとき」はいつか必ずやってくる。
それを結果的に、ぼくたちに予行演習をさせてくれるのが、大好きなミュージシャンや、俳優や、作家や、憧れのあの人や、恩師などの、お世話になった近しい人の「死」、なのかも知れない。
あなたのいなくなった世界。
そこを生きるのは少し不安で、そして、なんだかひどくつまらなくなったような気がするけれど、だからと言って投げ出してしまうわけにもいかない。そんなふうに不安になり、けれど奮い立たせ、揺れ動きながら日々を暮らす自分。
その自分もまた、いつかこの世を去ることになる。
いつか死にゆく場所。
それはきっと天のどこかにある一箇所のはずだから、俺はそこに行き着くまでの間に、この世に何かが「生まれゆく場所」をつくりたい。それはイメージやアイディアといったぼやけたものを、試行錯誤とテクノロジーで形にしていくための場所だ。人の思考は脳に、心は胸にあるのだとしたら、魂はきっと人の仕事と成果にこそ宿る。
多くの人に支えられ、この世を必死に生きた意味を見出すとしたら、それはどれだけの魂をこの世に遺せたかではないだろうか。
【地域情報誌フジマニvol.127(2017年4月)掲載の編集長コラムからの転載です】
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