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怖いのは、人か幽霊か

この仕事をしてて、よく聞かれる質問の一つ。
「夜勤、怖くないの?」

私は、あまり怖いと思ったことがない。
もともと霊感を持ち合わせておらず、何も感じないからかもしれないが。
でも、これは、同じ看護師でも人それぞれだと思う。

そんな私にも、不思議な体験はいくつもある。
突然、電気がつく・消える。
突然、ラジオがかかったことも、TVがついたこともある。
誰もいない部屋のナースコールが鳴ったこともある。
閉めたはずの窓が開いていることもある。
謎の物音は、しょっちゅう聞こえてくる。

でも、なぜだか怖いと思わない。
電気がつけば消す、消えればつける。ラジオもTVも同様だ。
ナースコールが鳴れば、とりあえず確認に行き、誰もいなければ帰ってくる。
窓は閉める。
物音は確認にいくが、問題なければそのまま仕事に戻る。
それだけのことだった。

そんな私にも、一度だけ本当に怖かった思い出がある。
今日は、そんなお話。


まだ、病棟で夜勤をしていた頃の話。
消灯後は、2時間毎にライトを持ち病室を巡回する。
患者さまの安全確認を行うためだ。
ある日、夜中の2時の巡回をしていると、個室に入院されている患者さまの姿がベッドになかった。
どこに行ったんだろう?
自分で動けるような方ではないのに…。

その患者さまは、大腿骨頸部骨折の診断で手術を受けられていた。
股関節の痛みが強くて、自分で起き上がったりできない。
いつも、看護師の介助で車椅子乗車しているような患者さまでした。

あれ?なんでいないんだろう?
部屋を出て、他のスタッフに確認する。
誰も知らない。
皆んなで、必死に探すが見つからない。

もう一度、私はライトを持ち、部屋を開けた。
キラーン。とベッドの下で何かが光った気がした。

何が光ったんだろう?
私は、ベットの下を覗き込んだ。

次の瞬間。

「バッ」と何かに腕を掴まれた。
私の腕に、血で手の跡がついた。

人は、本当に驚くと声が出ない。

私は、ただ、その場所に座り込んだ。

何秒経ったのか。
たぶん、数秒だけ。
とてもゆっくりと時間が流れていた気がした。

少しずつ、
私を掴んでいるのが誰かの手だと認識でき、
その手には血がついていると認識できた。

そして、手から腕へと、腕から肩へと視線を移すと、
そこには、探していた患者様がいた。

私の手を掴んで、じーっとこちらを見ていた。

「小田さん!」(仮名)
私は、ようやく声が出た。

「小田さん!もう、ビックリしたー!
なんでベットの下にいるのよ〜。
点滴のルートも抜けて、血が出てますよ。
あぁ。本当にビックリした。」

小田さんは、認知症を患っていた。
ほとんど話をしない。表情もあまりない。

「小田さん、いたのー?」
と、先輩が部屋に入ってきた。
そして、電気を付けた。

「うわ!なんでベッドの下にいるの!?」

そういって、私と先輩は、大笑いした。
小田さんは、そんな私たちを黙ってみていた。

病院は、毎日色んなことが起こります。

ふじこ



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