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官民共創の課題と可能性

▮ 「官民共創」とは

行政だけ、又は民間企業だけでは難しかった課題へのアプローチに、官民が手を携えて解決策を生み出し、プロジェクトを推進しようとする「官民共創」や「官民協働」の考え方が普及してきています。(代表的なサービスには「逆プロポ」などが挙げられます。)

いうまでもなく、右肩あがりの時代には経済と同時に、行政サービスを支える財政も右肩あがりに伸びてきたのですが、それも遠い昔です。振り返ると1980年代半ばから、行政による公共サービスの提供は高コストであるとして、民間活力を公共サービス分野にも導入しようという動きが出てきました。いわゆる「小さい政府」論。

行財政改革として、シーリング予算の導入や、民間でできることは民間でと、指定管理や民間移管、民営化などが進んできました。

一方でその弊害も出てきています。人口減少が顕著に進む山間部では、公共交通網が弱体化し、若者のみならず、医療介護を必要とする方や買い物弱者となった方が移動困難地域から都市部へ移り住み、さらに利用者が減った山間部ではスパイラル状に公共交通網や公共サービスが届けられにくくなっています。つまり、民間でできないことも「小さい政府」の流れの中で、縮減されました。

「小さい政府」の弊害を乗り越えようと、市民協働や官民連携が進んできました。しかしこれらは「連携」とは名ばかりのもので、本来は公共が担ってもおかしくない取り組みを、市民や地域、民間企業のリソースに頼るものにすぎませんでした。自治は確かに行政だけが担うものではなく、住民も担うことが必要です。(団体自治と住民自治の考え) でも、それにも限界がありますよね。

そこで出てきた考え方が、「官民共創」。
連携は「コラボレーション」である一方で、共創は「コ・クリエーション」。コラボレーションはもちろん重要ですが、上記述べたように公共サービスの担い手を擦り付け合うような関係性になっても意味がありません。共創関係では、互いの長所短所を補うべく、「新しい価値」を生み出すことに焦点を当てて協働することを述べます。

「官民共創」。すなわち、行政と民間がそれぞれの長所短所を生かし合いながら、社会課題や地域課題、行政課題の解決に向けて、互いに協力し、新たな価値を作り出そうという動きが、この数年で徐々に広がりつつあります。

山口周さんの著書「ビジネスの未来:エコノミーにヒューマニティを取り戻す」に、経済成長の「高原」に達した私たちは、「真に豊かで生きるに値する社会」へ移行していく必要があると述べられています。そのためには、多様化する価値観の中で行政だけで様々な社会ニーズに対応していくことは困難であるものの、社会から求められる公共性をカバーしていくためには民間と協働して埋めていくことが述べられています。民間企業は、「三方良し」という言葉があるにせよ、売上利益を重視してきたことは否めませんし、もちろん売上利益がなければ、会社も存続できず雇用も維持することができないのは確かではありますが、これからは「真に豊かで生きるに値する社会」に向けた諸活動も、社会体責任として求められる事柄になってきています。

行政と民間企業が協働し、新たな価値を生み出していく原動力となっているのが、「テクノロジー」です。民間の持つテクノロジーを使って、公共サービスを塗り替えていく。そんな官民共創の姿が、いよいよ本格化してきています。

▮ 画期的な官民共創プラットフォーム「逆プロポ」の誕生!

逆プロポ説明図

行政が民間と一緒に、新しい取り組みを始めようとするとき、「公募提案型プロポーザル」というスキームが一般的となっています。確かに面白い取り組みも見られる一方で、このスキームの問題点としては、①提案してくれる民間企業との接点の少なさ、②行政が知らない課題や解決策には展開しづらい、③行政が発注者、民間が受注者という関係性の中からは新しい価値を生み出しづらい、ということが挙げられます。

そうした問題点を克服するために、生み出された官民共創プラットフォームが「逆プロポ」というものです。私もそのプラットフォームの運営に微力ながら参画しています。

「逆プロポ」は、従来の行政が行ってきた「公募提案型プロポーザル」を、民間企業が行うというスキームです。民間企業が自社が取り組みたい社会課題や地域課題を、全国の自治体へ公募をかけて、前向きな自治体から提案があがってくる、というものです。

①提案してくれる民間企業との接点の少なさ、②行政が知らない課題や解決策には展開しづらい、③行政が発注者、民間が受注者という関係性の中からは新しい価値を生み出しづらい、という3つの官民共創の「不」を、この「逆プロポ」という仕組みは乗り越えることができます。

つまり、東京都や大阪府など著名な自治体であれば、民間企業との接点も多いと思いますが、名も全国に知られていない数多の自治体にとって、自分からエントリーすることで官民共創のフィールドに立つことができます。自治体の知名度や民間企業との関係知がなくとも問題ありません。また、課題や解決策については共創関係の中で考えていくので、必ずしも自治体だけで考える必要がありません。逆プロポの事務局(私も含む)には、民間企業のことも自治体のことも知っているスタッフがいますので、両者の立場を尊重した上で、課題解決に向けた取り組みを進めることができます。さらに、行政と民間企業が対等な立場で協働しますので、住民や地域のために役立つ解決策を一緒に作り出すことができます。

課題解決には、プロダクトアウト思考だけでも、マーケットイン思考だけでもうまくいきません。得てして民間企業は自社が持っているサービスやプロダクト(製品)を自治体に導入しようと、営業活動をしようとしますが、必ずしもそれが自治体や地域住民の「不」の解消につながるかは別問題ですし、行政が住民満足度調査などを通じてマーケット状態を掴んだとしても、それを解消する術や選択肢に偏りや限界があるならば、それは地域や住民のために役立つ解決策にはなりえません。

この「逆プロポ」は、2020年秋。東京渋谷で、伊藤大貴さんと伊佐治泰幸さんのディスカッションがキッカケとなって生まれました。2021年はじめに私もジョインをさせて頂き、4月から本格的に動き始めた官民共創プラットフォームです。
とはいえ、すでに数は少ないものの、優れた事例が生み出されてきています。

イーデザイン損保の交通安全をテーマとする逆公募には、神戸市と滋賀県日野町の提案(地域課題)が採択され、ワイヤレスゲートの通信技術をテーマとする逆公募には、大阪府枚方市と奈良県生駒市の提案(地域課題)が採択され、それぞれ動き始めています。
これ以外に、地域医療をテーマにドクターメイトが、関係人口をテーマに電通国際情報サービス、子育て支援をテーマにファミワンが逆公募を行い、それぞれ自治体マッチングが成立しています。(まだ自治体名は非公表ですが、近々プレスリリース予定です) こうした企業様以外にも、いくつかの逆公募がはじまろうとしています。私自身が関わるプロジェクトに「画期的」というのもおかしなものとはいえ、行政の施策や、企業の新規事業開発を知る立場としては、このスキームは「画期的」だと評価しています。

▮ 「三方良しのイノベーション」を実現する官民共創の可能性

逆プロポ③

「官民共創」の潮流はすでに社会に一般化しつつあり、そのスキームとしては従来の「公募提案型プロポーザル」や、国が進めているプラットフォーム事業のほか、私も関わっている「逆プロポ」などがあります。

社会課題をビジネスにしようということで、さまざまなお引き合いを頂戴することが増えており、さまざまなご提案をさせて頂いているものの、とりわけ困るケースとしては、自社が持っているサービスやプロダクトを単に行政に売りたいだけ、横展開したいだけというケースです。言い換えると、販売代理店になってほしいと。(ストレートには言われないものの)

そもそも私は、特定の会社の営業を支援するということに価値を置いておらず、どちらかといえば、社会課題を解決するために、自治体と民間企業とのマッチングを支援し、新たな価値(解決策)を見つけるためのお手伝い(伴走サポート)を行っているのです。

近年、SDGsやESGの考え方が広がってきて、民間企業も財務指標(売上利益など)ではなく、社会課題にもビジネスの視野が広がってきています。前掲の山口周さんの著書には、「経済合理性曲線」の話が出てきます。行政だけで担うには高コストとなる公共サービスについて、テクノロジーを持った民間企業等が参画することで、これまでは主に行政が担ってきた社会課題や地域課題を民間もビジネスとして検討する余地が広がってきたのです。

公共機関の窓口業務を、オンライン化したりする動きはその一環で、民間が持つテクノロジーを使って、行政は効率性を高めることができます。過疎地の公共交通網の維持に関しても、デマンドタクシーや客貨混載などの民間との共創により生み出すサービスで補完性や代替性を持たせることができます。

「課題」というのは、生来的にそこに存在するものではなく、あくまで「人」が「課題」だと認識したものが「課題」になるわけです。そう考えると、価値観の多様化やSNSなどの普及によって、「課題」はどんどん生成されるわけだと思いますし、多くの人がその問題を「課題」と認識することよって、「社会課題」や「地域課題」になっていくと思います。多くの人が課題ととらえる「不」を解消するために、公共サービスで担いきれない部分を行政と民間が協働して取り組むことは、地域の活性化やまちづくりはもちろん、一人ひとりの生活の向上にもつながっていくと思います。そこにマーケットを生み出せるかは、アイデア次第であり、そこに官民共創の必要性というか、存在価値があるように思います。

世の中、残された市場は少ないと言われています。「レッドオーシャン」ではなく「ブルーオーシャン」を探せという話です。
でもスキマ産業って、「ブルー」そうに見えているんですが、LTV(製品のライフタイムバリュー)はそんなにないんですよね。
しかし、新しく生み出された課題を市場にするのであれば、それは大きな市場になる可能性を秘めています。いわば「グリーンオーシャン」です。この「グリーンオーシャン」を作っていくのが、”官民共創”です。”官民共創”は、社会にも地球にも、なによりサービスを享受できる人たちや地域、さらにサービスのプロバイダーにもプラスになりうる、「三方良し」そのものをアップデートした「三方良しのイノベーション」を実現するためのツールになりえるものだと考えています。

※「逆プロポ」はこちらから

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◇藤井 哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/ 株式会社SOCIALX共同創業者取締役
1978年10月生まれ、滋賀県大津市出身の42歳。2003年に急増していたフリーター・ニートなどの雇用労政問題に取り組むべく創業。人材紹介、求人サイト運営、職業訓練校運営、人事組織コンサルティングや国・自治体の就労支援事業の受託運営等に取り組む。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地方の産業・労働政策の企画立案などに取り組む。東京での政策ロビイング活動や地方自治体の政策立案コンサルティングを経て、2020年に京都で第二創業。京都大学公共政策大学院修了(MPP)。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。国際Aマッチ通算0試合出場0得点。1メートル68、66キロ。利き足は右。

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