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長井伸晃『公務員のはじめての官民連携』(2022年)を読んで。

私も官民連携、官民共創で、地域課題や社会課題を解決する事業に携わっていることから、常々この分野の情報をリサーチしています。
本書は、官民連携で全国的にも先進的なケースとして知られる神戸市役所で、この部門を牽引する当事者が執筆されたものです。

本書は、公務員の方がどのように、民間企業と連携して(官民連携)課題に向き合っていけばよいのかを、丁寧に説明している良書だと思います。

行政内部の調整が十分に進まずに、プロジェクトが走らないことが現場ではときどきあるのですが、そうした問題を実際に何度も経験し乗り越えられてきた当事者だからこそ、書ける実例が豊富に記載されています。またノウハウとして体系化されている点も読みやすいと思います。

官民連携や官民共創にこれから取り組みたい、もしくは取り組んでいるがなかなかうまく進まないという方にとっては、「ソーシャルX」とともに読んでおいて損はない一冊だと考えます。

以下、私が気になって付箋を貼った個所です。

なぜ「通訳者」が必要かといえば、行政と民間(特に外資系企業や新興企業、いわゆるスタートアップ)の間には、普段使っている用語や物事の考え方や進め方、組織風土や文化など様々な点でギャップがあるからです。(p19)

日常業務を持たない点がやはり特徴的であり、課題が浮上してきたまさにそのタイミングから、機動的かつ集中的に取り組むことができる環境が整備されていました。その環境が物事に対してしっかり向き合うことができる時間や心理的余裕を生み出しました。さらに、課題の本質にたどり着くだけの取材活動の量が確保され、それに基づくアイデアや政策提案を生むことにつながったのではないかと思います。(p21)

思った結果が得られなかったとしても、課題の本質に向き合い、「何がダメだったのか」「何を改善すればよいのか」という課題を考えることができるー。それは、次のステージに進んでいるといえます。何もやっていない人には見えない景色であり、到達し得ないステージなのです。(p69)

実証事業は、まさに新たな価値を実社会に生み出すプロセスなのです。そのプロセスを官民一体となって「エラーも含めた実験」と捉え、どんなことが起こっても楽しむぐらいの気持ちで乗り越えていくマインドを、周りを含めて醸成させることが大切です。(p74)

素敵な縁をつなぎ合うことが官民連携の第一歩であるとともに、その輪が広がっていく原動力になっていくのではないかと信じています。(p81)

引き出しに入れておくかどうかの判断基準としては、あるサービスに関する情報を見たときに、行政がそのサービスを活用したり関わったりすることによって、公共の福祉や地域の活性化につながりそうなイメージを持てた場合には、「引き出し」としてストックしておくとよいでしょう。
そして、もし関連のある話題になったらすぐに取り出せるように、そのサービスに関するWEBサイトのリンクや資料をフォルダにまとめて保存しておく。この一連の行動を習慣として身につけておくことをおすすめします。(p111)

行政側でイチからオリジナルのプラットフォームを開発するとなれば、非常に膨大なコストと時間を要します。(中略)スピード感を持ち、かつ費用を抑えながら対応する方法を考える場合、民間サービスとして提供されている「プラットフォームを活用する官民連携」は有効な手段の1つです。(p123)

自治体が行う施策に、公平性が求められることは間違いありません。しかし、特にコロナ禍のように緊急を要し、かつ対象となる市民が非常に広範囲にわたる場合は、1つの施策で100%の公平性を担保することは困難であるという視点のもと、複数の施策を組み合わせて解消していく手法も考えていくべきでしょう。(p127)

関係者に少しずつ当事者意識を植え付けていくことができる力を「巻き込み力」と呼ぶのではないかと考えています。(p132)

関係者調整で必要なもう1つの要素が「通訳力」です。(p132)

私はスピード感を通じて、相手にプロジェクトに対する本気度を伝えています。(p137)

アイデアの賞味期限を3カ月と想定し、その期間内に小さくても実現できないか走り切ってみるのです。そうした短期間のゴール設定があるほうが集中して取り組むことができます。(p140-141)

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◇プロフィール
藤井哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/SOCIALX.inc 共同創業者
1978年10月生まれ、滋賀県出身の43歳。2003年に若年者就業支援に取り組む会社を設立。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地域課題・社会課題に取り組む。3期目は立候補せず2020年に京都で第二創業。2021年からSOCIALXの事業に共同創業者として参画。現在、社会課題解決のために官民共創の橋渡しをしています。
京都大学公共政策大学院修了(MPP)。京都芸術大学大学院学際デザイン領域に在籍中。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。グッドデザイン賞受賞。著書いくつか。

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