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80歳になるまで

神奈川県に住んで2ヶ月ほどになるけど、この一週間は仕事で地元の名古屋に帰ってきている。
昨日の仕事の帰り道、思いついて、慣れ親しんだカメラ屋さんへ。

接客してくれたのは、御年80歳の店員さん。
少なくとも50年ほどはカメラを触ってきた人生のよう。
80歳になった今も、カメラに囲まれて働く姿がとても素敵で。
そのようなことをお伝えしたら、店の奥から、一つの詩の書かれている色紙を持って来られた。
そして私にその詩を読んで聴かせてくれた。

旅に来て
小雨の窓に遠く聞く
蓄音器にこそ悲しかりけれ

“旅に出た先のホテルで、窓の外から蓄音器の音楽が聴こえてくる。
その音楽は、目の前の景色とともにそこにある。”

「ここに来る人は、よく写るレンズとか、
綺麗に撮れるレンズとか
そういう物を求めてやってくるけど、
私は今は、こういう景色が写せるレンズを、
探しているんですよね」

そう話したあと、屈託のない、満面の笑みを私に向けてくれた。

接客をしながら、これまでの彼の”写真と過ごした人生”のかけらを聴かせて下さった。
そして80歳の今になって欲しいレンズは、その美しい様子をそのまま写しこめるレンズなのだと言う。
80歳になってなお、写真やカメラに求める情熱があるなんて。
それは若い時の燃え盛るような情熱ではないかもしれないけど、胸の奥に灯されている松明や、焚火のような、消えないやわらかな情熱のように聞こえた。

カメラをずっと売ってきたこの人が、カメラに求めているのは機能や性能ではなく、「写真を撮る」ことの本質で。
なんだかそれに凄く感動してしまい、彼が話し終わると同時に、涙がぼたぼたっと出てしまった。

写真に関わるちょっとした事で、密かに不安になる事が沢山ある。
目が少し特殊な悪さで、矯正してもピントを合わせるのがとても難しい。
腰が弱くて、一日中撮影した日の夜は座っているのも辛い。
私の身体はいつまでもってくれるのだろうか。
いつまで写真を撮る仕事ができるのだろうか。
そんな”終わり”を、何かが起こる前から考えて不安になっていたけど。

80歳になっても、写真やカメラにも関わることはできるし、終わることのない情熱は確かにあるんだと、見せてもらったようで。

私もこんな風に、80歳になるまで写真やカメラと関わりたい。
せっかく写真と縁のある人生なんだから。

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