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間質性膀胱炎・膀胱痛症候群に対する幹細胞治療 最新の研究情報をレビュー

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群は、膀胱の激痛や頻尿などが起こる難病です。背景には慢性炎症があり、尿路上皮の損傷がさまざまな症状を引き起こしていると考えられています。近年、自己複製能と分化能を持つ幹細胞を体内に取り入れることで損傷した尿路上皮の修復を試みる研究が進められています。今回ご紹介するレビューでは、実用化の可能性や安全性などの問題点が整理されています。

幹細胞による膀胱修復の可能性

学術顧問の望月です。今回の記事では、2022年に『BMB Rep』という学術誌に投稿された「New therapeutic approach with extracellular vesicles from stem cells for interstitial cystitis/bladder pain syndrome」をご紹介します。日本語では、「間質性膀胱炎・膀胱痛症候群に対する幹細胞由来の細胞外小胞による新しい治療アプローチ」というタイトルです。

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群は、恥骨上部の痛みや尿意切迫感、夜間頻尿を含む頻尿などの症状を特徴とする慢性の炎症性疾患です。簡単にいうと、損傷した尿路上皮のバリア機能障害によってカリウムイオンなどの尿溶質が尿路上皮から浸透して、痛みなどが生じると考えられています。痛みは、膀胱に尿がたまる過程で悪化することがわかっています。治療の詳細は割愛しますが、薬物療法の効果が認められない場合、負担の大きい手術が選択される場合もあります。

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の治療で重視されているのが、炎症の抑制はもちろんのこと、組織に弾力を与えるグリコサミノグリカンや尿路上皮層の修復・再生です。近年では、幹細胞治療に関する研究も進められています。幹細胞は、さまざまな細胞や組織に成長することができる万能の細胞です。幹細胞治療では、幹細胞を体内に取り入れて自己再生力の失われた特定の組織の修復・再生を目指します。

安全性の確保が大きな課題

今回のレビューは、「間葉系幹細胞(MSC)」について記されています。MSCを用いた治療では、サイトカインの放出による炎症の抑制、成⻑因子の発現による治癒の促進、免疫調節因子の分泌による免疫応答の改善、内因性の修復細胞に対する応答の増強のほか、骨細胞など成熟した機能細胞としての働きが得られると考えられています。免疫の調節においては、炎症性疾患、自己免疫疾患などの改善に有益であるとする研究結果が報告されています。

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の幹細胞治療では、尿路上皮や平滑筋を含む膀胱細胞への直接の分化、いくつかの経路を介する分化細胞の移植、病状の改善に関するシグナル伝達経路の活性化など、さまざまなメカニズムによって膀胱組織の修復・再生が進むと考えられています。前臨床レベルの過去の研究では、膀胱疾患の治療に幹細胞を応用できる可能性についても言及されています。

しかし、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の分野において、MSCの効果を検証した臨床試験の結果は報告されていません。これは安全性などの問題がクリアになっていないことを意味します。実際の副作用のリスクも指摘されています。具体的には、黄斑変性による視力低下や免疫系の機能不全、腫瘍形成などが考えられるそうです。また、効果的な幹細胞の投与量や移植経路などについても、いまのところ明らかになっていません。

MSCによる組織修復は、MSCから分泌された微小な物質によるパラクライン作用によるものであることがわかっています。パラクライン作用とは、細胞の分泌物が、直接拡散などにより近接する細胞や組織に働きかけることをいいますが、この作用を担っているのが、MSCから分泌される各種生理活性物質や遺伝物質を含む細胞外小胞(EV)であると考えられています。多くの試験管での試験および関連する前臨床疾患モデルにおいて、MSCは腫瘍形成のリスクが少なく、培養MSC由来のEV はMSCと同等の治療活性を有することが報告されています。

現在、EVの最適な分離方法やパラクライン作用のメカニズムに関する研究が進められています。実用化は先になりそうですが、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の治療法の新たな選択肢になる日がくるかもしれません。

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