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間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の臨床管理 治療の流れ・選択肢を整理

膀胱痛症候群の原因は、完全には解明されていません。さまざまなメカニズムの関与が示唆されており、各国で異なるガイドラインが策定されていることも特定の病因への対処を難しくしています。適切な治療法の確立には、より質の高い研究が必要です。今回の記事では、膀胱痛症候群の概念や定義、原因や治療の流れを整理していきます。

膀胱痛症候群の概念・定義

学術顧問の望月です。記事を担当するのは、2ヵ月ぶりになりました。この間、発芽そば発酵エキスの新たな論文の投稿準備を進めたり、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の研究情報を集めたりしていました。情報収集を進める中で、A型ボツリヌス毒素を用いた新たな治療法についてまとめられた海外の論文が見つかりました。A型ボツリヌス毒素をリポソーム封入やヒドロゲル包埋して薬物送達強化を図って膀胱内投与したり、A型ボツリヌス毒素単独膀胱内投与と恥骨上エネルギー衝撃波を組み合わせたりした治療の効果を検証したものです。

A型ボツリヌス毒素の最新情報の詳細は次回ご紹介させていただくこととして、今回の記事では膀胱痛症候群の情報を改めて整理していきます。2020年に、『Research and Reports in Urology』という学術雑誌に投稿された「Clinical Management of Bladder Pain Syndrome/Interstitial Cystitis: A Review on Current Recommendations and Emerging Treatment Options」という論文では、膀胱痛症候群の治療の流れや選択肢などがまとめられています。

主要テーマである膀胱痛症候群は、膀胱に起因する骨盤痛や骨盤圧などを特徴とする慢性疾患です。症候群という名のとおり、膀胱痛症候群にはいくつかの症状が見られます。具体的には、頻尿や尿意切迫感、夜間頻尿など1つ以上の排尿症状を伴うものと定義。尿路感染症や腫瘍、膀胱結石などが確認された場合は、膀胱痛症候群から除外されます。膀胱痛症候群の有病率は、3〜7%という報告があります。

膀胱痛症候群の原因は完全には解明されていません。慢性細菌感染症、膀胱尿路上皮のグリコサミノグリカン層の損傷、膀胱の尿路下層における肥満細胞の異常な活性化、自己免疫の暴走、自律神経の機能不全などが関与しています。それぞれに対応する治療法は開発されているものの、背景にある原因などが複雑で、最適な治療法を選択するのは簡単なことではありません。全身性疼痛症候群や過敏性腸症候群、慢性疲労症候群、線維筋痛症との関連も指摘されており、膀胱痛症候群の診断そのものを難しくしているという事情もあります。

実際に、膀胱痛症候群の概念や定義は同じでありながら、世界中で異なるガイドラインが推奨されています。例えば、間質性膀胱炎、過活動膀胱、慢性骨盤痛、有痛性膀胱症候群は、 膀胱痛症候群を説明するために使用されています。これらは、いずれも膀胱痛症候群であるという認識です。一方で、間質性膀胱炎については、膀胱にハンナ病変があれば間質性膀胱炎、ハンナ病変がなければ膀胱痛症候群とするのが一般的となってきました。ハンナ病変を特定することで、各側面を同時に治療対象とすることが可能となります。

A型ボツリヌス毒素など治療法は進歩

いずれにしても、患者さんの病態に応じた治療が必要となります。現在、治療がどのように進められているのかを整理していきましょう。病気に関する教育、食事や生活(行動)のアドバイス、ストレス解消、理学療法といった保存的治療は、すべての患者さんにとって不可欠な初期の対策となります。

保存的治療で改善が見られない場合は、神経伝達物質であるセロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害するアミトリプチリンという抗うつ薬などによる経口治療が効果をもたらす可能性があります。膀胱痛症候群での使用は認可されていないものの、プラセボ群との比較では有効性が示されています。最近では、アミトリプチリンとほかの経口薬との組み合わせも研究されています。

膀胱鏡検査が必要となることもあります。ハンナ病変が認められる場合は、患部の切除を同時に行うことが可能です。それでも症状が改善しない場合は、DMSOまたはリドカインの膀胱内注入、A型ボツリヌス毒素の排尿筋注射、および神経修飾が使用できます。DMSOは、FDA(食品医薬品局)で承認されている唯一の膀胱内投与薬です。日本における有効性も報告され、2021年4月には国内での販売も始まりました。確固たる結論を導き出すには長期研究が必要ですが、A型ボツリヌス毒素の排尿筋注射の有効性も複数の臨床試験において報告されています。

そのほか、免疫抑制剤であるシクロスポリンが経口投与されることもあります。使用経験がある人のみというのが条件で、重大な有害事象を伴うため、徹底的な監視が必要とされています。最後に、検討されるのが根治的手術です。手術は、生活の質に深刻な影響を与えます。前述の治療で改善されない場合、または重度の症状が続く場合に手術は選択されます。

膀胱痛症候群の正確な病因を理解するためには、より質の高い研究が必要です。研究の継続、データの蓄積によって、効果的な新たな治療法の開発が可能となります。実際に、有望な経口投与や、リポソームなどの利用により膀胱内薬物送達を強化し、排尿筋注射と比較して侵襲性が低い膀胱内投与による治療法がいくつか出てきているようです。次の記事では、各種薬物送達手段とA型ボツリヌス毒素の組み合わせによる治療法の最新の研究情報をご紹介します。

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