見出し画像

喘息に対するニンニクの効果をレビュー 抗酸化・抗炎症作用で症状が改善

ニンニクには、有機硫⻩化合物が豊富に含まれています。有機硫黄化合物には、炎症と酸化ストレスを調節する働きがあります。慢性呼吸器疾患の一つとして知られる喘息の病態には、炎症と酸化ストレスが関わっています。ニンニクに含まれる有機硫黄化合物は、喘息の改善にも有効です。効果やメカニズムに関する研究情報を精査したレビューをご紹介します。

喘息治療の課題の一つは副作用

学術顧問の望月です。前回の記事では、血圧に対する発酵黒ニンニクの効果を解説しました。今回は、2022年に『Int. J. Mol. Sci.』に掲載された「Role of Sulfur Compounds in Garlic as Potential Therapeutic Option for Inflammation and Oxidative Stress in Asthma」というレビューをご紹介します。喘息に関わる炎症や酸化ストレスに対する有機硫黄化合物の効果が検証されています。

喘息は、アレルゲン物質、タバコ、細菌、ウイルス、周囲の温度、呼吸器感染症など、さまざまな原因によって引き起こされる慢性呼吸器疾患の一つで、病態には炎症と酸化ストレスが関わっています。慢性炎症によって活性酸素種が増加することで気道の正常な構造が損なわれ、肺の機能は低下します。酸化ストレスが気道の炎症の発生・進行の中心である可能性についても報告されています。

喘息の治療の中心は、コルチステロイドです。しかし、ステロイドによる治療には副作用を伴います。また、治療を受けても病状が改善しない患者さんも少なくありません。喘息の代替療法に挙げられるのが、クルクミン、亜鉛、セレン、ビタミンDといった抗酸化作用のある食品です。これらの抗酸化物質は、気道の炎症の軽減に役立つといわれています。抗酸化作用に加えて抗炎症作用を持つ食品も同様で、喘息の進行を抑制するのに有益であると考えられています。

著者らが注目している抗酸化・抗炎症食品の一つがニンニクです。ニンニク中の有機硫黄化合物は、肺疾患の一般的なメカニズムにも関わる炎症と酸化ストレスを調節することにより、病状改善に有益な効果をもたらすことが報告されています。肺疾患に対する効果が報告されている一方、喘息を対象とする研究は限られているのが現状です。本レビューでは、有機硫⻩化合物の喘息に対する効果の検証やメカニズムの解明が進められました。

熟成ニンニク抽出物(AGE)、ニンニク抽出物、ジアリルスルフィド(DAS)、ジアリルジスルフィド(DADS)、ジアリルトリスルフィド(DATS)、アリシンなどの油溶性化合物、S-アリルシステイン(SAC)などの水溶性化合物を対象としたレビューでは、まずニンニクに含まれる硫⻩化合物が無毒(低毒性)であるか、喘息のモデル動物において副作用がないことが示されています。喘息に対する効果やメカニズムについては、いくつかのポイントを簡単にご紹介していきます。

炎症と酸化ストレスの悪循環を遮断

いくつかの動物実験では、ニンニクに含まれる有機硫⻩化合物が粘液分泌、肺壁の肥厚、細胞浸潤を減少させることが確認されています。有機硫⻩化合物は、一般的にTh2サイトカイン(IL-4、IL-5、IL-13)の産生を抑制し、IgEとIgG1といった免疫グロブリンを減少させることにより、炎症反応を抑制することが明らかになっています。

さらに、これらの化合物は、免疫反応の中心的な役割を果たすNF-κBをはじめ、iNOS、COX2、MMP-9、IL-1β、IL-6、TNF-αといった炎症反応に関する遺伝子やケモカインの発現を阻害します。有機硫⻩化合物は、IFN-γ、IFN-β、IL-10、IL-12のレベルを上昇させ、自然免疫を強化。Th1サイトカインの発現および遺伝的な素因を持つ患者さんのアレルギー性呼吸器疾患の治療において極めて重要な役割を果たすことが確認されているのです。

Th2サイトカインの抑制作用とは対照的に、有機硫⻩化合物はIFN-γ、IFN-β、IL-10、IL-12のレベルを上昇させ、自然免疫を強化し、Th1サイトカインの発現において極めて重要な役割を果たしているとともに、遺伝的な要素を持つ患者さんのアレルギー性呼吸器疾患の治療にも寄与しています。

喘息を含む呼吸器疾患では、サイトカインが炎症細胞の活性化を引き起こすことで慢性炎症の状態が維持されています。喘息の患者さんの喀痰や気管支肺胞洗浄液に炎症誘発性サイトカイン(IL-1β、IL-6、TNF-α)が見られるのは、慢性炎症の状態の裏づけでもあります。

喘息における炎症反応は酸化ストレスを増加させ、病状を悪化させることも知られています。ニンニクの有機硫黄化合物は、強力な抗酸化作用をもつグルタチオンの形成と活性酸素の除去といった直接的な抗酸化剤として働きうるものであり、かつ抗酸化酵素の発現増加に寄与するシステム(Nrf2/Keap1)の刺激といった間接的な抗酸化剤として働きうるものであると考えられます。具体的には、酸化ストレスによって誘発されるNF-κBの活性化の抑制などにもつながっているのです。

レビューでは、細菌性、ウイルス性、ダニなどの吸入性アレルゲン物質によって誘発される喘息に対する有効性に関する研究情報も整理されています。細菌の増殖の阻害、ウイルス量の減少などによる効果で、気道の上皮細胞からの粘液分泌の刺激が減少することによって肺の損傷が緩和されるのです。

そのほかの研究も含めて、期待される効果を簡単に整理しておきましょう。ニンニクの有機硫⻩化合物による防御機構には、血管拡張、抗菌、抗ウイルス作用、抗酸化作用、抗線維化作用などが挙げられ、これらが炎症反応の調節に関与していることが明らかになってきています。今後、喘息の治療における補助剤としてニンニクを実用化するには、効果をもたらす用量の特定、人間を対象とした副作用の検証などが必要です。さらなる研究に期待しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?