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L. plantarumの抗炎症作用のメカニズム 制御性T細胞が過剰な免疫反応を抑制

発芽そば発酵エキスには、「Lactobacillus plantarum(以下、L. plantarum)」をはじめとする数種類の乳酸菌が含まれています。L. plantarumは、プロバイオティクスに用いられている乳酸菌の一つです。近年の研究では、過剰な炎症反応を抑制する「制御性T細胞」に働きかけることで、炎症を伴う疾患を改善させる可能性が示唆されています。

プロバイオティクスのメカニズム

学術顧問の望月です。今回の記事では、プロバイオティクスとしてのL. plantarumの働きを整理していきたいと思います。ご紹介するのは、2018年に『SCIENTIFIC REPORTS』に投稿された「L. plantarum WCFS1 enhances Treg frequencies by activating DCs even in absence of sampling of bacteria in the Peyer Patches」という論文です。L. plantarumとTreg(制御性T細胞)の関係がまとめられています。

プロバイオティクスには免疫応答を調節する働きがあり、アレルギー疾患や自己免疫疾患、糖尿病や脂質異常症、炎症性腸疾患や過敏性腸症候群など、炎症を伴う疾患に対する効果が研究されてきました。動物実験やヒト試験でこれらの疾患に対する有効性が実際に報告されていることは、過去の記事でもご紹介してきたとおりです。

プロバイオティクスの研究は、現在も国内外で進められています。多岐にわたる効果が報告されているものの、免疫系をどのように調節しているかについては明らかになっていないことも少なくありません。今回の論文は、L. plantarum摂取後の制御性T細胞の働きにフォーカスしています。制御性T細胞は、T細胞というリンパ球の一つです。

獲得免疫に不可欠であるT細胞には、いくつかの種類があります。よく知られているのが、特異的な抗原を持つ細胞(異物)を攻撃するキラーT細胞、免疫系のほかの細胞を活性化させることで異物への抵抗力を発揮するヘルパーT細胞、免疫系の過剰な働きを制御する制御性T細胞です。ヘルパーT細胞は、産生するサイトカインのパターンでさらに「Th1」「Th2」「Th17」などに分類されます。

「Th1」「Th2」「Th17」のバランスが崩れると、炎症を伴う疾患が生じます。例えば、特定の抗原に対する過剰な免疫反応が起こるアレルギー疾患は、Th1とTh2のバランスを見たときに、Th2の働きが過剰となっています。また、潰瘍性大腸炎や関節リウマチなどの炎症性疾患では、Th1とTh17が活性化している状態にあるといわれています。制御性T細胞には、各種ヘルパーT細胞のバランスを調節する役割があるのです。

プロバイオティクスには、どのような働きがあるのでしょうか。論文の引用となりますが、プロバイオティクスは2つの経路を介して免疫系を調節しているといわれています。

・プロバイオティクスは、パイエル板のM細胞によって取り込まれて、上皮の下に存在する樹状細胞を調節する。
・粘膜固有層またはパイエル板にある特定の腸の樹状細胞は、樹状細胞上にあるパターン認識受容体(PRR)によってプロバイオティクスを感知する。

整理すると、いずれかの経路を介して樹状細胞がプロバイオティクスを認識することで抗原提示細胞の成熟が調節され、影響は免疫系のほかのエフェクターにも及んでいきます。その結果、抗原に特異的なT細胞応答をTh1、Th2、Th17または制御性T細胞に導くと考えられているのです。

増加した制御性T細胞が免疫応答を調節

こうした仮説の検証は進められてきましたが、多くは試験管での細胞実験にとどまっています。著者らがマウス実験でL. plantarum摂取後の全身および腸の免疫効果を検証したところ、L. plantarumのパイエル板のM細胞への定着は見られないものの、PRRという受容体を介して樹状細胞がL. plantarumを感知して、免疫システムに顕著な影響を与えていることが確認されました。

具体的には、5 日間のL. plantarumの投与後、制御性T細胞の数が増加していることが明らかになっています。この結果は、プロバイオティクスが樹状細胞と接触するだけで効果を誘発していることを示唆しています。

また、L. plantarumが腸粘膜だけでなく全身の免疫効果を誘発したことがわかっています。全身の免疫効果はマウスの脾臓の状態で検証されているのですが、脾臓に浸潤している制御性樹状細胞と制御性T細胞の数の増加が認められました。さらに、脾臓のヘルパーT細胞によるサイトカイン応答の低下も確認。Th2の抑制には、L. plantarumによって増強された制御性T細胞が関与していることが実証されたのです。

Th2の抑制は、L. plantarumによってTh2 への分化を抑制するIL-12とIFNγがTh1から誘導された結果と考えられています。同様の結果は、別のグループから報告された先行研究でも確認されています。L. plantarum の摂取によるTh1とTh2のバランスの改善は、アレルギー疾患の改善につながると考えられています。

一方、ほかの研究では、PRRを介して認識されたL. plantarumによって増えた制御性T細胞が、Th1とTh17の過剰な働きを抑制することも報告されています。前述のとおり、Th1とTh17のコントロールは潰瘍性大腸炎や関節リウマチなどの炎症性疾患の改善に不可欠です。なお、Toll様受容体(TLR)というPRRが関与していることも特定されています。具体的には、L. plantarumがTLR2/TLR6を刺激して、そのシグナル伝達によって制御性T細胞の産生が増強されていたのです。

私たちが研究対象としている間質性膀胱炎も、その名のとおり炎症性の疾患です。発芽そば発酵エキスにはL. plantarumなどいくつかの乳酸菌が含まれており、静岡県立大学や中村病院で実施された臨床試験では、間質性膀胱炎の病状のスコアや痛みなどの改善が確認されています。

発芽そば発酵エキスの作用機序は明らかにできていませんが、間質性膀胱炎に対する効果の背景には、プロバイオティクスで増加した制御性T細胞による免疫調節作用があるのかもしれません。今後もメカニズムの解明に向けた研究を続けていきたいと考えています。いずれにしても、L. plantarumが全身の免疫系に大きな影響を与えていることは間違いなさそうです。

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