抗炎症食の摂取で症状が改善 間質性膀胱炎・膀胱痛症候群と食事の関連を検証
患者さんを対象として食事療法の効果を検証
学術顧問の望月です。今回は、『Methods Protoc』という学術誌に2022年に掲載された「Anti-Inflammatory Diet for Women with Interstitial Cystitis/Bladder Pain Syndrome: The AID-IC Pilot Study」という論文をチェックいたしました。
これまでの記事でも取り上げてきたとおり、膀胱痛・頻尿・尿意切迫感などの症状が見られる間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の原因のすべては明らかになっていません。間質性膀胱炎・膀胱痛症候群では、ガイドラインに基づき行動療法・理学療法・薬物療法・膀胱内治療・外科的治療といった治療が選択されます。しかし、治療効果が得られない人は少なくありません。
病気の原因がわからない一方で、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群を悪化させるトリガーは明らかになりつつあります。食べ物や飲み物は、その一例です。具体的には、コーヒー、紅茶、ソーダ、アルコール、柑橘類、クランベリー、トマト、トウガラシ、人工甘味料などは病状の悪化に繋がると考えられています。これは、2014年に報告された調査の結果です。
2021年1月から11月までの期間に実施された今回の研究では、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の食事療法の可能性を探っています。間質性膀胱炎・膀胱痛症候群に限らず、慢性炎症を伴う疾患には飽和脂肪酸、コレステロール、たんぱく質、砂糖、塩分の取りすぎや、加工食品の継続的な摂取が関わっていると考えられています。
間質性膀胱炎・膀胱痛症候群との関連で注目されているのが、飽和脂肪酸の摂取量です。近年の研究では、膀胱内皮の機能障害に関わる炎症や血管の変化に対する飽和脂肪酸の摂取量の影響が報告されています。また、ほかの研究では飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換えることで、女性の頻尿と尿意切迫感が改善する可能性があると報告されています。
抗炎症食への切り替えで症状が改善
試験には、著者らが設定した条件に該当した間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の患者さん12人(女性)が参加しました。12人は「グループ1」「グループ2」の2群に分けられ、グループ1には治療食を、グループ2には対照食を10週間取ってもらいました。その後の2週間はふだんどおりの食事を取ってもらい、次の10週間ではグループ1には対照食を、グループ2には治療食を取ってもらいました。
治療食は、抗炎症作用のあるプロビタミンA(カロテノイド)、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンEのほか、ニンニク、ショウガ、オレガノ、ローズマリー、タイムといったスパイスが豊富に取り入れられたもので、調理の油にはオリーブオイルのみを使用しています。ボリューム的には、2オンス(約56g)のたんぱく質、プレートの半分の野菜、4分の1の全粒穀物(カロリーの28%が動物性食品で赤身の肉はなし)。スナックは新鮮な果物で構成されています。一方の対照食は、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群を悪化させる食品を除外したレシピが組まれました。
試験の結果を見ていきます。試験期間中、12人のうち2人がドロップしました。分析対象となった10人については、治療食を取っていた期間は固形脂肪、飽和脂肪、精製穀物の摂取量が大幅に減少し、魚介類とビタミンB12が大幅に増加しました。ほかの主要栄養素や微量栄養素の摂取量に有意差はありませんでした。
間質性膀胱炎・膀胱痛症候群に伴う症状については、生活への関心、社会生活、家庭での責任を果たす能力が大幅に改善。陰部や膀胱の痛み、排尿時の痛みや灼熱感、性交中・性交後の不快感などが軽減されていることがわかりました。残念ながらTNF-α、CRPといった炎症性バイオマーカーの分析はうまくいきませんでした。サンプルの汚染などが原因だったようです。
参加者の主観的な評価では、7人(70%)が生活の質の改善を実感したという結果が得られています。介入前の食事のパターンに戻ったときに、病状を悪化させる食品を特定することができたという声も寄せられており、介入後も治療食を取り入れている人も少なくないとのことです。
著者らは、「食事療法の一般化を図るには、より大規模で多様なサンプルが必要である。レシピや調理法の改善による抗炎症食の最適化にも取り組みたい」と話しています。取ったほうがいい食品、取らないほうがいい食品など、食事の習慣は意識的に変えることができます。病状を悪化させる食品をまずは押さえて、不飽和脂肪酸への置き換えなどを進めていくといいかもしれません。
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