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間質性膀胱炎の膀胱水圧拡張術 脊椎麻酔で安全性が増し術後の痛みも軽減

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の治療法の一つとして挙げられるのが、膀胱水圧拡張術です。膀胱水圧拡張術は、全身麻酔か下半身麻酔(脊椎麻酔)のもとで行われます。手術中は、麻酔の影響で血圧や心拍数が上がる場合があります。また、使用する麻酔によって術後の痛みが異なることも知られています。今回の研究では、膀胱水圧拡張術には脊椎麻酔のメリットが大きいことがわかりました。

手術中の麻酔で血圧・心拍数は変動

学術顧問の望月です。間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の記事を前回書いたのは、2023年3月のことです。今回は、久しぶりに間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の研究情報をご紹介します。ピックアップしたのは、2023年に『Scientifc Reports』に掲載された「Autonomic responses during bladder hydrodistention under general versus spinal anaesthesia in patients with interstitial cystitis/bladder pain syndrome: a randomized clinical trial」という論文です。

これまでにご紹介してきたとおり、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群は病因のすべてが解明されていない難病です。尿路上皮表面を覆うグリコサミノグリカンの欠乏、免疫反応、活性化マスト細胞、神経変化、炎症などが関わっているとされており、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群になると、頻尿・夜間頻尿、尿意切迫感、残尿感、膀胱の不快感、膀胱痛などの症状が起こります。

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の治療は、主に5つに分類されています。具体的には、「第1の選択肢(食事や行動の見直しなど)」「第2の選択肢(経口治療)」「第3の選択肢(膀胱内の物理治療)」「第4の選択肢(神経調節)」「最後の選択肢(外科的アプローチ)」です。

本論文では、第3の治療である膀胱水圧拡張術が取り上げられています。膀胱水圧拡張術は、生理食塩水を注入して膀胱を拡張する治療法で、薬物療法や行動療法といった保存的治療に抵抗性のある患者さんに有効です。過去の研究では、膀胱水圧拡張術を受けた患者さんの約半数に効果が認められており、治療効果が長く続くことも報告されています。

膀胱水圧拡張術には、麻酔を使用します。全身麻酔か脊椎麻酔のもとで行われる膀胱水圧拡張術では、血圧上昇など顕著な自律神経反応が観察される場合があります。麻酔が効いている間も自律神経は活動しているため、手術中は血圧や心拍数の変動にも注意しなくてはなりません。また、選択する麻酔によって手術後の痛みの程度が異なることも知られています。

脊椎麻酔による入院期間の短縮にも期待

今回の研究では、全身麻酔と脊椎麻酔が自律神経に与える影響や術後の痛みの程度の違いが検証されました。試験に参加したのは、36人の患者さんです。36人を全身麻酔群18人(男性2人、女性16人)、脊椎麻酔群18人(男性3人、女性15人)の2つのグループに分けて、血圧と心拍数を継続的に測定し、膀胱水圧膨張術を受けている間の収縮期血圧の変動の最大値などをグループ間で比較しました。手術後の痛みについても、両群の違いが評価されています。

早速ですが、結果を簡単にご紹介します。脊椎麻酔群と比較して全身麻酔群では、収縮期血圧の上昇が大きく、かつ膀胱水圧拡張後の心拍数変動の連続差の二乗平均平方根が大幅に低くなり、手術後の疼痛スコアが有意に高いこともわかりました。

これらの結果は、膀胱水圧拡張術を受けるさい、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の患者さんにおける収縮期血圧の急激な増加と術後の痛みを抑えるには、脊椎麻酔が優れている可能性を示しています。術後の痛みは患者さんの満足度の低下につながるほか、入院期間の長期化をもたらすことも少なくありません。なお、ほかの泌尿器科手術を対象とした先行研究でも、脊椎麻酔は全身麻酔よりも痛みからの回復時間が短く、満足度が高いという結果が得られています。

ただし、今回の研究には注意も必要です。脊椎麻酔を用いた水圧拡張術後の痛みは軽いことが明らかになったものの、再発を含む症状の長期的な変化について追跡調査は実施されていません。麻酔のメリット・デメリットを事前に知ることができれば、患者さんの心理的な不安は軽減されるはずです。今後のさらなる研究に期待したいところです。

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