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抗酸化・抗炎症作用を高めるナノ化技術 ケルセチンの効果的な摂取法の確立に向けて

ポリフェノールの一つであるケルセチンには、抗酸化作用、抗炎症作用、抗ガン作用、抗ウイルス作用、抗菌作用などがあることが知られています。近年、生体内におけるケルセチンの働きを最大化するために、ナノテクノロジーの技術を活用したカプセル化の技術や有効性ついても研究が進められています。ガンなどを対象とした研究では、ナノ化の技術によってケルセチンの効果が高まることが確認されています。

生物学的利用能の向上が課題

学術顧問の望月です。前回の記事に続いて、今回の記事でもケルセチンの研究情報をご紹介します。ピックアップしたのは、2023年に『Molecules』に掲載された「Quercetin: A Potential Polydynamic Drug」というレビューです。このレビューでは、生体内におけるケルセチンの働きを最大化するための技術に関する研究が紹介されています。

タマネギやブロッコリーなどに含まれているケルセチンは、フラボノイド類に属する有機化合物です。不二バイオファームで製造している発芽そば発酵エキスにも、ケルセチンは豊富に含まれています。発芽そば発酵エキスとは、そばの新芽の青汁を乳酸発酵させてできるエキスのことです。

これまでの記事でもご紹介してきたとおり、ケルセチンには抗酸化作用、抗炎症作用、抗ガン作用、抗ウイルス作用、抗菌作用などがあります。詳細は省略しますが、本レビューでも、「精神活動」「紫外線(UV)活動」「抗ウイルス活性」「抗ガン活性」「抗炎症作用」「神経活動」「抗酸化活性」「抗心血管疾患」「皮膚の過敏症」「抗結核」「抗糖尿病作用」「抗マラリア活性」「抗シャーガス病活性」「抗真菌作用」「抗鼻炎作用」「抗薬物耐性」という項目を立てて、それぞれの領域での研究成果が簡単に整理されています。

このようにケルセチンはさまざまな分野で研究されており、効能効果も多岐に渡ります。一方、親油性のケルセチンはバイオアベイラビリティ(生物学的利用能)や溶解度が低いのが課題であると指摘されています。生物学的利用能とは、簡単にいうと、投与された薬物のうち、どの程度が全身循環するかを示す指標のことです。静脈投与の場合は100%であるのに対し、経口投与の場合は生物学的利用能が低下します。消化・吸収や代謝の影響などを受けているからです。

生物学的利用能や溶解度の向上、すなわち生体内におけるケルセチンの有効性を最大化するには、どのような方法があるのでしょうか。レビューでは、シクロデキストリンやカリックスアリンといった高分子へのカプセル化、アミノ酸の組み込みによるケルセチンの化学修飾、ナノ粒子へのカプセル化、複数のポリフェノールとの組み合わせを挙げています。いくつかご紹介していきましょう。

ポリフェノールの組み合わせも効果的

環状オリゴ糖とも呼ばれるシクロデキストリンは、グルコピラノース単位で構成される環状高分子です。外表面は親水性、内部は疎水性で水に溶ける性質を持ち、薬物の生物学的利用能を向上させることがわかっています。実際に、シクロデキストリン内にカプセル化したケルセチンは、溶解度が増すことが確認されています。アミノ酸の化学結合によって修飾されたケルセチンの前立腺ガンに対する阻害効果は、さらに強化されるという報告もあります。

ナノ粒子化も、ケルセチンの効能効果を最大化させる手法の一つです。シクロデキストリンと同様、ナノ粒子にカプセル化することで、ケルセチンの生物学的利用能と溶解性は高くなります。試験管を使った実験では、ケルセチンの抗酸化活性がポリマー内部に保持されることが確認されており、ナノ医療や抗酸化薬の開発につながる可能性が示されました。

ある研究では、ケルセチンとシリカのナノゲルを合成。銅による酸化ストレスの影響を受ける環境下に、神経細胞およびグリア培養物といっしょにナノ粒子を曝露させたところ、抗酸化剤として働くケルセチンが効果的に放出されることが実証されました。これは、ケルセチンが神経変性疾患の治療剤になりうることを示しています。さらに、カプセル化するさい、レスベラトロールとケルセチンとカテキンを一定の割合で組み合わせることによって効果が増すことも確認されているのです。

より実践的な研究も進められています。試験管での細胞実験、動物実験では、さまざまなガンのモデルに対してケルセチンやそのほかの薬剤を充填したナノ製剤の抗腫瘍効果が検証されました。その結果、ケルセチンが膜輸送体たんぱく質を下方制御することで、ほかの化学療法化合物の細胞内濃度の増加につながり、治療結果が高くなることが明らかになったのです。

ガン治療の分野においては、FDAによって承認されたガンの化学療法薬である5-フルオロウラシル(5-Fu)とケルセチンによるキトサンナノ粒子が、肝臓ガン、結腸直腸ガン、子宮頸ガンの細胞に対して有効であること、腎臓の細胞に対して毒性を持たないことなどが報告されています。そのほかレビューでは、リポソームにカプセル化されたケルセチンが虚血治療の候補になることなども紹介されています。作用機序なども明らかになりつつあり、今後、ケルセチンの活躍の場はさらに広がっていくものと思われます。

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