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新型コロナウイルスとアスタキサンチン 抗酸化・抗炎症・免疫調節作用による重症化予防の可能性

新型コロナウイルスの感染拡大で、「サイトカインストーム」という言葉を耳にする機会が増えました。新型コロナウイルスは、過剰な炎症反応によって重度の肺炎や急性肺損傷、急性呼吸窮迫症候群を引き起こすことがあります。炎症反応が強い場合、抗ウイルス薬だけでなく、抗炎症薬や免疫抑制薬、免疫調整薬を用いた治療が必要です。IL-6 阻害剤、JAK 阻害剤、TNF-α阻害剤などの使用が提案されているほか、アスタキサンチンの抗酸化作用や抗炎症作用に注目した研究も報告されています。

サイトカインストームには酸化が関与

学術顧問の望月です。過去数回の記事では、アスタニンの原料であるアスタキサンチンの研究情報を整理してきました。『Biomedicine & Pharmacotherapy』という学術誌に投稿された「Potential of natural astaxanthin in alleviating the risk of cytokine storm in COVID-19」では、新型コロナウイルスによって引き起こされるサイトカインストームに対するアスタキサンチンの有効性が検証されています。

サイトカインストームとは、簡単にいうと、ウイルス感染によって大量に放出されたサイトカインが原因で過剰な炎症反応が続くことです。サイトカインによる炎症応答はウイルス感染に対する防御反応ですが、“免疫の暴走”とも呼ばれるサイトカインストームは全身レベルで重度の組織損傷を引き起こす可能性があります。新型コロナウイルス感染症に伴うサイトカインストームで懸念されているのは、重度の肺炎や急性肺損傷、急性呼吸窮迫症候群などです。

新型コロナウイルス感染症と炎症の関係を見ると、重症患者さんでは炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-2、IL-6、IL-8、IL-17、TNF-α)とケモカイン(MCP-1、IP-10、MIP1-α、G-CSF、GM-CSF、CCL-3)が著しく高いと報告されています。そのほか、CRPやフェリチンといった炎症に関わるマーカーも高値を示すことが明らかになっています。

新型コロナウイルス感染症で炎症反応が強く見られる場合は、抗ウイルス薬だけでなく、抗炎症薬や免疫抑制薬、免疫調整薬を用いた治療が必要になります。具体的には、IL-6 阻害剤、JAK 阻害剤、TNF-α阻害剤などの使用が提案されています。

これらの薬を用いた治療が一般的ですが、レビューではアスタキサンチンの抗酸化作用や抗炎症作用、免疫調整作用などがサイトカインストームの組み合わせ療法の選択肢になりうるか検証されています。新型コロナウイルスに対するエビデンスは十分ではないため、炎症性サイトカインのリスク軽減に関する既報(炎症が関与する各種疾患に対する効果)と関連づけながら、アスタキサンチンの可能性を探っています。

酸化ストレスは、新型コロナウイルス感染症に伴うサイトカインストーム、血液の凝固障害、低酸素症に関わっています。今回の主題であるサイトカインストームとの関連では、酸化ストレスはNF-ĸB、JAK/STAT、NLRP3、IL-6-JAK/STAT3をはじめとする炎症性シグナルの伝達経路の活性化における重要な要因であると報告されています。

一例をご紹介します。NF-ĸBシグナル伝達経路は、マクロファージにおける活性酸素と炎症誘発性サイトカインの放出を増加させて炎症を促進します。一方、Nrf2シグナル伝達経路は抗酸化酵素の産生を刺激して、酸化ストレスを軽減。Nrf2はNF-ĸBに関連するマクロファージの炎症反応を抑制して細胞内の活性酸素を低下させ、炎症誘発性シグナルを阻害しています。ほかの炎症経路の活性化やシグナル伝達の詳細は省略しますが、サイトカインストームの川上には酸化ストレスの関与があるのです。

アスタキサンチンが炎症反応をブロック

強力な抗酸化作用があり、炎症性メディエーターの活性を抑制して抗炎症作用を示すアスタキサンチンは、TNF-α、IL-1β、IL-6などの炎症誘発性サイトカインの発現を阻害します。これらは先述のとおり、新型コロナウイルス感染症の重症患者さんにおいて著しく高くなっているサイトカインです。

アスタキサンチンが炎症性サイトカインを調節する根底にあるメカニズムは、広く研究されてきました。さまざまなシグナル伝達経路への関与が確認されている中でも、NF-ĸB経路が重要な役割を果たしているという報告があります。Nrf2のシグナル伝達経路も同様です。アスタキサンチンには、これらに伴う過剰な炎症反応を防ぐ働きがあることが報告されています。

アスタキサンチンは、抗酸化作用、活性酸素除去能、抗炎症作用を備えており、人間の免疫系や病原体に対する耐性に影響を与える可能性があるという報告もあります。参照されている論文が多いため詳細は省略しますが、試験管内試験や動物実験はもちろんのこと、人間を対象とする前臨床および臨床試験で免疫調節作用が確認されているのです。

今回のレビューでは、アスタキサンチン研究に関する147本の論文が参照されています。動物モデルでは、アスタキサンチンがサイトカインストームを相殺して、その後の線維症の発症を抑えて生存率を高めるとともに、 急性肺損傷や急性呼吸窮迫症候群を軽減することが実証されています。これまでの研究実績も勘案して、レビューでは「アスタキサンチンは、新型コロナウイルス感染後のサイトカインストームを管理するためのサプリメントとして臨床効果を検討する価値がある」と結論づけられています。

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