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抗酸化・抗炎症・免疫調節作用を持つケルセチン ウイルス感染症の予防・改善に有効

フラボノイドの一種であるケルセチンは、ウイルス感染症の予防・改善に役立つことがわかっています。直接的な免疫調節作用と、抗酸化作用・抗炎症作用による間接的な免疫調節作用が関与しており、体内へのウイルス侵入後の感染・発症のプロセスで、さまざまな効果を発揮しています。近年の研究では、ケルセチンの分子レベルのメカニズムも明らかになりつつあります。

体内に侵入したウイルスに対抗するケルセチン

学術顧問の望月です。前回の記事では、脳に対するケルセチンの効果を解説しました。今回は、2023年に『Molecules』に掲載された「Quercetin: A Functional Food-Flavonoid Incredibly Attenuates Emerging and Re-Emerging Viral Infections through Immunomodulatory Actions」をご紹介します。この数ヵ月、インフルエンザによる学級閉鎖のニュースが増えました。ケルセチンは、インフルエンザなどのウイルス感染症の予防・改善に有効かもしれません。

フラボノイドの一種であるケルセチンは、不二バイオファームで製造している発芽そば発酵エキス(発酵そばの芽)にも含まれている機能性成分です。以前の記事でもご紹介したとおり、ケルセチンには抗ウイルス作用があり、濃度依存的にウイルスの感染力を低下させることや、免疫応答メカニズムを調節してウイルスの活性を抑制することなどが報告されています。

ケルセチンは、体内蓄積性がないため高濃度で投与しても副作用を引き起こしにくいことが確認されています。安全性が高いのは大きなメリットで、薬との併用を含めたウイルス治療の領域におけるケルセチンの研究が国内外で続けられています。これまでの研究で、ケルセチンの分子レベルのメカニズムも明らかになりつつあります。

ケルセチンはウイルス侵入後のいくつかのプロセスで、さまざまな効果を発揮します。簡単にいうと、ウイルスのノイラミニダーゼ、プロテアーゼ、DNA/RNAポリメラーゼといった酵素の阻害、ウイルスたんぱく質の修飾というのが、ケルセチンの抗ウイルス作用の主なメカニズムです。特定のウイルス酵素を阻害する働きは、免疫応答の最適化に関連している可能性があるといわれています。

本レビューでは、A型インフルエンザ、C型肝炎、デング熱(2型)、エボラウイルスに対するケルセチンの働きや効果が検証されています。さらに、抗ウイルス薬の探索への応用や、抗ウイルス作用と免疫調節作用による抗ウイルス剤(栄養補助剤)としての可能性について考察されています。

研究では、「フラボノイド」「ケルセチン」「抗ウイルス化合物」「抗ウイルス作用を持つ植物化合物」「天然化合物の抗ウイルスメカニズム」といったキーワードを用いて、A型インフルエンザ、C型肝炎、デング熱(2型)、エボラウイルスに関する文献をリストアップしています。膨大な数の論文が引用されているため、今回の記事ではインフルエンザに対するメカニズムの一部を抜粋してご紹介します。

直接的・間接的に免疫を調節してウイルスを撃退

ウイルス感染症の最初の段階は、ウイルスの侵入であるといえます。ウイルスの侵入時に重要な役割を果たしているのが、2つのサブユニットで構成されているHAというたんぱく質です。ケルセチンは、ウイルスのHAたんぱく質を阻害することで、インフルエンザウイルスの侵入を防ぎます。具体的には、HA2サブユニットと相互に作用して、ケルセチンがH5N1ウイルスの侵入を防ぐことが明らかになっています。

そのほか、ケルセチンはウイルス表面にあるNAたんぱく質に結合して感染の成立を防ぎ、ウイルスの細胞変性を抑制することもわかっています。レビューでは、ケルセチンがmRNAの転写やウイルスの複製に必要な酵素を作るRNA ポリメラーゼをブロックすることにも触れられています。PA、PB1、PB2のサブユニットで構成されるインフルエンザウイルスRNAポリメラーゼは、抗インフルエンザ薬開発の標的とされている酵素の一つです。

ケルセチンには、直接的な免疫調節作用のほか、抗炎症作用と抗酸化作用による関節的な免疫調節作用もあります。これは、これまでの記事でも解説してきたとおりです。簡単にまとめると、マスト細胞の働きを安定化させ、免疫と炎症のバランスを調節することが明らかになっており、樹状細胞機能に対して免疫抑制効果を発揮することもわかっています。レビューでは、ケルセチンは抗炎症性サイトカインのIL-27の合成を促進する一方、炎症誘発性サイトカインのTNFの産生を減少させる可能性にも触れられていました。

近年は、新型コロナウイルスに対するケルセチンの効果についても研究者の関心が高まっています。ある研究では、ケルセチンはウイルスのスパイクたんぱく質の受容体に結合して人間への感染を防ぐ最も効果的な物質であると報告。抗マラリア剤、全身性・皮膚エリテマトーデスの治療薬であるヒドロキシクロロキンよりも効果は強く、新型コロナウイルスの主要なプロテアーゼ活性部位にも結合することが明らかになっているのです。

ウイルス感染症は、新たなウイルスを原因とするものが出てきたり、流行を繰り返したりします。今回の研究で整理されたケルセチンのメカニズムは、未知のウイルス感染症に対する有効性の検証や、効果的かつ安全な抗ウイルス薬を探索するのに役立つものと考えられます。また、臨床試験などを重ねることで、ケルセチンが抗ウイルス剤としてのポジションを確立する日もくるかもしれません。さらなるメカニズムの解明など、今後の研究にも注目していきたいと思います。

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