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暴力を伴う外交⑦「終戦と戦後処理」

戦争が勘違いと愚かさで始まるなら、恐怖と怒りで拡大し、疲労と諦めで終わるだろう。そして審判も公式ルールもない戦争を終わらせるには双方が納得できる降伏条件が必要となる。

降伏条件の内容は、政治体制や経済や領土といった開戦原因の解決、あるいは賠償金の支払いの2つに大別できる。あまりに強気な内容だとなかなか降伏してもらえずに戦争が長引いてしまうし、逆に弱気な内容だと国内の不満が高まって次の選挙で落選したりする。そのため戦勝国と敗戦国の双方が納得できる妥当な降伏条件を探す必要があるが、利害関係の調整に気が遠くなる程の時間と労力がかかる。だからこそ戦争中でも敵国大使館や有力者などを経由して、早めに降伏条件の交渉を進めるのが重要である。こういった準備を怠り、何も考えずに戦争を終わらせると様々な問題が発生し、場合によっては次の戦争が始まったりする。目の前の敵兵を倒したからといって政治的勝利につながるとは言えない。敵国の首都を吹き飛ばしてから降伏条件を考えても遅いのだ。

降伏条件のうち、賠償金は影響範囲が大きいため支払い期限や金額には注意が必要である。敗戦国が賠償金を支払うには外貨の獲得が必要だが、それは敗戦国が生産する大量の安価な商品が戦勝国に流れ込むことを意味する。あるいは敗戦国の産業を過剰に接収したり賠償金が重すぎると、敗戦国で悪性インフレが発生し経済は混乱、破壊された市民生活は救いを求めて極右政権の誕生に繋がりうる。また敗戦国の支払いは戦勝国に対する賠償金だけではない。道路や緩衝地帯として占領した関係国政府へ、その際に犠牲になった関係国市民へ、そして敗戦国自身の自国民へ、といった各所への補償金が必要である。

対する戦勝国も楽ではない。決定した降伏条件を相手に履行させなければならないが、契約履行には敵国の統治が必要である。終戦の段階で敗戦国の政府や国体を破壊していた場合は直接統治という地獄が待っている。かつての敵国軍人が警察官として市民活動を取り締まることに納得する住人は少ない。さらに無政府状態となった敗戦国ではあらゆる治安が悪化し、下手すれば武装解除に失敗してゲリラ兵と化した敵軍との戦闘が再開する。戦闘訓練だけ施された軍人が、異文化の中で敵視されながら、不慣れな治安維持活動を実施しなければならないのだ。多発する様々なトラブルは戦後処理に悪影響を与えるだろう。

間接統治を想定して終戦したとしても、敗戦国にまともな政府機能が残っているとは限らない。敗北を目前にした政府首脳陣が自殺したり逃亡したり、あげく内戦が始まって治安維持機能が崩壊したり。そうなればやはり戦勝国側が直接統治せざるを得なくなる。

複数の国が連合を組んでいた場合、戦勝国が複数発生することになる。領土を蹂躙された隣国は大きな賠償を求めるが、発言力が大きいのは大量の兵士や武器を供給して勝利へ貢献した国である。すると賠償金や領土の分割統治など降伏条件の策定に大変な手間暇がかかるが、統治が遅れるとやはり内戦やゲリラ戦で賠償金の請求どころでは無くなる。

また戦勝国側も一枚岩ではないどころか、敵の敵だから利用しているに過ぎない場合がある。戦争が終われば協力関係は解消され、棚上げされていた諸問題が復活すれば昨日の味方が今日の敵になったりする。こうなると破壊した敵国の産業と軍事力を急いで復活させて新たな敵への防波堤にする、といった二度手間が発生しかねない。

そうでなくとも、大量動員した戦力を帰国させて、余剰な兵員は退役させて民間での仕事を与えなければならない。未亡人や傷痍軍人への年金支給や戦時国債の支払いのためにも財源を確保しなくてはならない。そのためにも大急ぎで生産ラインを民需に切替えて、生産力の拡大によって配給制を終了し、早々に健全な経済活動を取り戻す必要がある。戦争を始めるのは簡単だが、正しく終わらせるのは大変な重労働である。

新訳 平和の経済的帰結(ジョン・メイナード・ケインズ)
敗戦後日本の巨額の戦時 国債はどのように処理さ れたのか
歴史問題Q&A 関連資料 日本の具体的戦後処理(賠償、財産・請求権問題)|外務省
戦争賠償 - Wikipedia
第一次世界大戦の賠償 - Wikipedia
世界恐慌 - Wikipedia
第二次世界大戦後におけるドイツの戦後補償 - Wikipedia
日本の戦争賠償と戦後補償 - Wikipedia


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