宇宙の世界へようこそ⑫「プラズマロケット」
ガスではなく、高速でプラズマを噴射するロケットエンジンのことをプラズマロケットと呼び、特に電気により推進剤をプラズマ化して加速させるタイプを電気推進と呼ぶ。プラズマロケットは高比推力だが小推力な傾向がある。そのため軌道変更には長時間の噴射が必要だが、少ない推進剤で大きなデルタVと短い移動時間を達成できる。
しかし大質量の宇宙機にはそれなりの推力も必要になり、特に電気推進などで高推力を試みた場合は発電システムに必要な質量の増大が激しいため比推力が低下し始める。これは太陽光が薄くなる小惑星帯より遠い宇宙でより顕著になり、特に原子炉と発電機と放熱板の質量が大きいからである。
電気によるプラズマを利用したロケットは(電気推進)は主に、パルスプラズマスラスタ(PPT)、イオンエンジン、ホールスラスタ、MPDスラスタ、比推力可変プラズマ推進機(VASIMR)などがあり、概ね後者ほど大出力化が可能となる。PPTは固体推進剤の利用が可能なため、温度管理の容易さやバルブなど可動部の削減ができ、消耗機材かつメンテナンスが難しい軌道機雷などに適している。イオンエンジンやホールスラスタは人工衛星の姿勢制御・リブーストや空気抵抗のキャンセル・軌道投入や離脱・中型以下の惑星間宇宙機に適している。また大気取り込み式イオンエンジンは推進剤に大気を使って低軌道での軌道維持ができる。ホールスラスタはイオンエンジンの10倍の推力密度を達成できる。MPDスラスタやVASIMRは大電力が必要だが比較的大型の宇宙機のメインスラスタに必要な推力を出せる。
核融合プラズマロケット(FPR)は核融合反応によって得られるプラズマを直接噴射して推進力とするロケットであり、その制御や点火方法は磁場核融合炉とレーザ等による慣性核融合炉に大別できる。中性子は磁場で制御できないため得られる反作用が少なく、プラズマ推進用の核融合反応には中性子の発生量が少ないものが適しており、核融合燃料にはDHe3(重水素-ヘリウム3)かpB11(陽子-ホウ素11)が望ましい。こうして得られたプラズマ(荷電粒子)を磁場ノズルから噴射して推力を得る。
磁場核融合炉は、点火にあたって超伝導コイルの起動や比較的大量の燃料をプラズマ化する必要あり出力増加の応答性が乏しいが、一旦点火できれば反応の維持に必要な外部エネルギの供給を少なくでき、融合炉の重量出力比を大きくできる等のメリットがある。なお、供給する核融合燃料を減らすことで、出力を減少する際の応答性は確保できる。
慣性核融合炉は反応がパルス制御なため負荷追従性能が高く、万が一の停止時にも再起動に必要なエネルギーは比較的少ない。しかし核融合炉の運転を維持するにはレーザ等の点火装置にエネルギを供給し続ける必要があり、反応エネルギの何割かを流用して常に発電機を駆動する必要がある。この変換ロスや発電機質量などにより重量出力比は小さくなりがちである。
なお核融合プラズマロケットは推進機であり、核融合で得られるエネルギよりも核融合を維持するエネルギが多いといったエネルギ収支がマイナスの状態でも許容される。これは他の電気プラズマ推進では投入電力の数十%が変換ロスで損なわれており、それよりも変換効率が高ければ核融合プラズマに置き換えるメリットが生まれるからである。なお外部点火核融合プラズマロケットロケットは、核融合プラズマロケットではなく電気推進に分類される。
参考資料
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・イオンエンジン(wiki) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%B3
・ホールスラスタ(英語wiki) https://en.wikipedia.org/wiki/Hall-effect_thruster
・MPDスラスタ(英語wiki) https://en.wikipedia.org/wiki/Magnetoplasmadynamic_thruster
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・核融合ロケット(英語wiki) https://en.wikipedia.org/wiki/Fusion_rocket
・ダイレクトフュージョンドライブ(英語wiki) https://en.wikipedia.org/wiki/Direct_Fusion_Drive
・大気吸込式イオンエンジンの検討(pdf) https://www.jstage.jst.go.jp/article/stj/4/0/4_0_21/_pdf
・ESA、大気を吸い込んで動くイオン・エンジンの開発に成功(techplus)
https://news.mynavi.jp/techplus/article/20180309-597327/
・次世代ロケットエンジンの現状と課題(大坂大学)(pdf) http://www.eie.eng.osaka-u.ac.jp/le/archives/pss2010/files_presentations/Yamamoto.pdf
・プラズマ・核融合学会誌バックナンバー(公式サイト) http://www.jspf.or.jp/journal/bn.html
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・Realizing "2001: A Space Odyssey": Piloted Spherical Torus Nuclear Fusion Propulsion(NASA)https://ntrs.nasa.gov/api/citations/20050160960/downloads/20050160960.pdf
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