デートのあとの秘密計画(ダイエット大好きJK⑥)
「最近、調子どう? そういえば、今日も何かの撮影だっけ?」
居酒屋での会話はいかにもありがちなもので始まった。
「そうなんですけどねー、けっこう大変だったんですよ。被写体の子がガリガリに痩せてて」
「ガリガリって、どれくらい? あ、写真見せてもらったほうが早いか」
カメラごと渡された先輩カメラマンの永山は、自分で再生してみる。さっきのカフェでの編集者の行動と似た流れだが、その反応は、
「へぇ、この子、なかなかいいじゃない。一般の子なんだよね」
「えっ、永山さんってこういう子が」
と言いかけて、カメラマンの頭には別の女性の姿が浮かんだ。この先輩がここ数年、何かと重用している30代の女性だ。
もともとはスタイリストで、彼女もかなりの痩せ型。ただ、自分が先輩のアシスタントをしてた頃、女の子の撮影も多かったけど、こういう子が趣味だとか、そんな話を聞いた覚えはないんだよな。
そこで「好みなんですか」という言葉は飲み込み、
「でも、この子、ちょっと病気っぽいじゃないですか。それこそ、拒食症とか」
「あぁ、それは見ればわかるよ。でも、こういう子にしかない魅力というのがあって、ちょうど今やってる仕事に、もしかしたら、ハマるんじゃないかと思ってね」
永山は今、次の個展を準備中で、そのテーマが「肉体」。過去に撮ったものも含めて、最近はボディビルダーやアンコ型の力士を撮ったり、試行錯誤をしているが、いまひとつしっくりこない。
その一方で、拒食症の痩せ方に以前から興味があり、今、後輩に見せられた写真はまさに、貴重なヒントにつながるものだった。
そんな事情を説明された後輩は、永山の思いがけず真面目な調子に、心の居住まいを正し、姫那についてのレクチャーをした。今日の撮影での一部始終はもとより、彼女を前回撮ったときの話もして、そのときの写真も見せ、永山の質問にもわかる範囲で答える。
ただ「こういう子にしかない魅力」については、最後までピンとこなかったが。
「うん、ありがとう。だいたいわかったから、あとは俺のほうで動くよ」
そんな計画が秘密裡に進行していることなど、想像もしない姫那は家路の途中。
街をぶらぶらしたりしながら、デート企画の撮影という、人生初の経験の余韻のなかにいた。
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