拒食の可能性と、ダイエットの不可能性
拒食時の最低体重が、19.8キロだという女性を見つけた(身長はたしか、154センチ。今はかなり回復したようだ)。
人間は、骨と臓器だけでも20キロ前後はあるそうなので、まさに、極限まで痩せたことになる。
それでも、死なずに済んだのは、人間が飢餓というものに、極めてしぶとく対応できる仕組みを持っているからだろう。タモリあたりが、テレビでもよく言ってることだけど、人間の歴史はとにかく、飢餓との戦いだったから、栄養状態が悪いなりに、体が必死にやりくりして、生き延びようとする。不幸にして、食欲の中枢が壊れかけたその女性も、その仕組みによって、生き延びることができたわけだ。
逆に、この仕組みが、ダイエットをする場合は足枷となり、ちょっとでも栄養が足りなくなると、体がどんどんカロリーを取り込もうとする。そんななか、自分の目指す体型を手に入れ、維持することは容易ではない。いわゆるリバウンドは、そうやって起きるわけで、ダイエットがほとんどの場合、失敗に終わるのは、そういう理由からだ。
人間が本能的に飢餓を怖れなくなるのは、飽食の時代が、あと何万年も続いたあとのことかもしれず、その前に、人間は絶滅しそうな気もする。
すなわち、人間は、拒食に陥っても、死なずに済む可能性を持つかわり、ダイエットに関しては、その不可能性というものに縛られ続ける、ということでもある。
それでもなお、ダイエットをしようとする女性に、僕は強く惹かれる。
(初出「痩せ姫の光と影」2010年5月)