ジュンタン、「ブン」の冒険

「これは内緒の話なんだけど、、」ジュンタンが 小さな声で言いました。「僕のばあちゃん、魔法の杖をもってるんだって。でも、それは、一度しか使えないんだって!」

雪がとけてラッパ水仙が 黄色の小さな花びらをふるわせて「はるだよ~!」と告げる季節になったある日、ばあちゃんが ジュンタンに言いました。「この春 ジュンタンは小学一年生になるんだねえ」「うん、そうだよ」ジュンタンはうれしそうに言いました。「一度、ミツバチブンに なってみないかい」「なんで、ミツバチブンなの?」それは、ばあちゃんにもわからない。 じいちゃんが 天国に召される時「ジュンタンが一年生になったなら、ジュンタンがミツバチブンになって 広い世界を見られますよに!」って、この杖を渡されたんだって。

ミツバチブンに変身した日、とてもいいお天気で青い空が 眩しかった。 ちょっと、怖かったけれど思い切って羽をフル回転させ 1、2の 3! ブーンと飛び上がってみた。うわ~、あ! ロケットみたいだ~!   「山の向こうの街を見といでね~」手をふるばあちゃんが 見る見るうちに、小さくなっていきました。

山はすっかり、緑の季節。黄緑の葉や濃い緑の葉をつけた大きな木々が「街はこっちだよ」っと風と一緒に手招きしてくれ、ジュンタンはどんどん山をこえていきました。  緑の山がなくなって、急に沢山の家といろんな形のビルが背くらべするように、ぎっしり並んで見えました。「あ!あれが街なんだ」ワクワクすると羽がぶんぶんなりました。「細長いのも四角いのもある。あれは、何だ?お!丸いビルか?あそこへ 行ってみよう!」ジュンタンは 丸いビルをめがけて、一直線。するとどうでしょう。そのビルは何とドーナツ型をしているのです。ドーナツの中は? そう、ドーナツの中には大きな樹の枝が広がり緑がいっぱい。樹の根本には赤や黄色、白や紫の花が咲いて「ブンちゃん、よく来たね」と花びらを振って迎えてくれました。 「ここは ミツバチにとって 小さな天国なのよ」赤い花が言いました。「そうなのよ。ほら、あそこにミツバチのお城があるでしょ?」と白い花がいいました。見ると、ミツバチの巣箱が幾つも並んでいるのです。「このビルの人たちは みんなお仕事をしているの。でも みんなやさしくて親切なのよ」紫の花が言いました。そう言えばドーナツの外側のビルには人が行ったり来たり。でも、静かでブンの住んでる所とちっとも変わりません。  ブンはミツバチのお城をのぞいてみたくなりました。

そっと近づくと、甘い香りが体中を包みます。なんて幸せな香りでしょう!働きバチは 朝はやくから 遠くまで蜜を集めに出かけ、お城には留守番バチが女王蜂を守るように、群がっていました。「おい!どこから来たんだい?」と怖い顔でブンを取り囲みます。「あ、あの~」すっかり怖くなってふるえるブン。と、その時「どうしたの?」女王バチが大きな体をゆすりながら 現れました。「子供じゃないの。放してあおげ」そしてやさしい声で「お名前は?と聞きました。「ジュンタン、イ、イエ、ブン」と答えると女王バチはちょっと笑ったように目くばせし「いいお名前ね。子供はたくさん冒険するものよ。そうすれば、大きな夢がうまれるわ。そして、又冒険にでかけるの。今度はその夢をかなえるためにね」女王バチは静かに言いました。「ここは人とミツバチが仲良く生活出来ているところなの。人の都合で森や山や林が少なくなってきたけれど、人はそれに代わるこのような場所を作ってくれたわ」「でも、ここにある樹や花だけでは 蜜はあつまるの?」ブンがたずねると「そうね。働きバチは ずいぶん遠くまで行かねばならないけど、ビルの上に庭や畑を作ってくれる人たちがいるから 助かっているのよ」と言って、ふ~、と溜息をつき「もっとたくさんの人が気づいてくれると、いいのだけれど、、」と、さびしそうにいいました。「ぼく、人間、あ、イエ!大きくなったら庭や道路に樹や花を植えます。そして、たくさんのビルの屋上に畑や花壇をつくって、森を守ります」思わずブンは大きな声で言っていました。

帰り道、ビルの上を飛びながら「あなたの思いが広がれば、私達ミツバチはどんなに助けられるでしょう。そして、地球ももっとやさしい豊かな地球でいてられるわねえ」そう言った女王バチのやさしいまなざしを 思い出していました。(なんて、やさしい目なんだろう、、)「ぼく、大きくなったら、、、」「なんだい?どうしたの?」 え? その声は、、?     あれは夢だったの? 寝ぼけまなこで目をこするジュンタンを のぞきこむばあちゃんは あの女王バチのような目で「み~んな、わかってるよ!」と言うように「うん、うん」うなづいてくれました。

                        おしまい

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?