数学ダージリン〜夢はネコ型ロボットを作ること〜
「夢物語だな」
ネコ型ロボットを作ることは、年齢を重ねるごとに馬鹿にされた。
否定されればされるほどムキになるのが人の性だ。
定員オーバーの車内から景色を眺める。
荘厳な山脈が広がり、麓には青々と茂った葉が一面を埋め尽くしている。
歩く速度で走る蒸気機関車の窓から入る心地よい風が頬を撫でる。
ダージリン・トイ・トレイン。
観光列車だ。
走る音が止まった。
終着駅だ。
「すみませーん」
初老の男性が笑顔を見せる。
天才数学者だ。
建物が密集している中でも開けた場所にいる彼は、茶葉の入ったポットをじっと見つめていた。
「お知恵を貸していただけないでしょうか」
「無理じゃ」
放心する青年に初老の男性は目元を和ませた。
「周りからできないと言われ意固地になってるんじないか?」
目元の皺を深くする。
「わしも同じじゃ。解けないと言われ意固地になった」
青年は小首を傾げた。
肩をすくめた男性は笑みを深くする。
「茶葉を見つめ心穏やかにすることで、見落としていたものが見えてきた。おぬしはどうじゃ?」
青年は目の前に広がる茶畑に目を向けた。
頬を撫でる風も澄んだ空気も聞こえる音も、どれも新鮮で、ロボットのことを忘れていた。
「囚われていては、アイディアは出てこない。頭を空にすることも必要じゃ」
そう言って数学者は紅茶を飲んだ。
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