【2】隠された子どもの行方は

1-2.

「おい。ここにあった俺のジュース知らないか?」
「私がとっておいたお肉もない」
「あれ? 俺のフルーツは?」
 小さな騒ぎ声で微睡んでいた斎の意識が浮上した。
「どうしたんですか?」
 川で遊んでいた雛乃が騒がしさに気づいて戻ってきた。
「なんか食い物がなくなってて……」
「捨てた、なんてことないよな?」
 少しずつ片付けていた清香が間違って捨てたのではないかと疑いの目を向けられる。
「ここはまだ片付けていません。置かれていた食べ物や飲み物には触れていませんよ」
 泣きそうな顔で清香は訴える。
「雛乃、あそこ」
 雛乃に近づいた斎は声を潜めながら木陰を指さした。その先には頭がひとつ見えている。木々たちが食べ物の行方を教えてくれたのだ。
雛乃はオカルト同好会のメンバーと一緒にそっと覗き込む。
子どもが一人、飲み食いしていた。
「俺のフルーツ! どこの餓鬼だ!」
 子供はびくりと反応して恐る恐る振り返る。鬼の形相の男性を見て瞳が潤んていく。
「ご、ごめんなさい」
「人の物勝手に取るな!」
 顔をくしゃくしゃにして大粒の涙を流す。泣き声が一帯に響く。
「わ、悪かった悪かった」
 なだめようとするが泣いて聞く耳を持たない。
「ねえ、どこから来たの? お母さんやお父さんは?」
 雛乃が膝を折って子どもに目線を合わせた。ぐずりながらも彼女の言葉に耳を傾けた子どもは、少し考えてきょとんとする。周りを見た子どもは知らない場所、知らない人たちに再び泣き出した。
「迷子か」
「みたいですね」
 困り顔で笑顔を作る雛乃は斎に視線をやった。子どもの服装を見る限りただの迷子ではない。夏だというのに厚手のトレーナーを着ている。靴は戦隊もののヒーローが描かれていた。しかし十年ほど前にやっていたキャラクターだと斎は記憶している。
「とりあえず、警察呼ぶか」
 騒ぎを聞きつけたオカルト同好会長が警察に連絡し、保護を求めた。
 斎は子どもの特徴を知り合いに連絡した。本来であれば警察と一緒に来て欲しい人物ではあるが、オカルト同好会のメンバーがいる手前、警察関係者以外を呼ぶのは不自然だ。
 片田舎の警察から連絡が入るかわからないので、すぐに動いてほしいとメールをした。


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