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リバース 湊かなえ著

〈きっかけ〉
会社の後輩のYさんにおすすめの本を聞くと
「リバースのドラマめっちゃ面白いんです!」と言われ、原作を読むことに。)

〈感想〉
めっちゃおもろい感動しました。
最後の句の「殺したのは俺だったのか。」は本作を描く前から固定だったとのこと。
まさに最後の1ページのための小説だった。
主人公である深瀬の常に感じている劣等感と、ある種の責任感の強さ、常に諦めているけど期待しているというその人物像にリアリティを感じた。
作中ですでに亡くなっていた広沢は深瀬とは反対で運動もできて勉強もできて、目立つ生徒たちとつるんでいるが、実は主体性がなく常に受け身で周りの人間にかなり気を使う性格。
この立場が大きく違うが性格の似ている2人の特殊な関係性が物語をより引き立てたと思う。
その他にも友人の軽薄さや、深瀬/広沢の彼女の強かさなど、それぞれのキャラが立っていた。
特に面白いと思ったのはこの小説が終わった後のこと、元々「3人で酒を飲んでいる広沢に運転をさせたかも」という、殺人ではないが意識的にはそれくらい罪が重いよねというくらいの秘密、罪悪感だった。
しかし結末は「深瀬が広沢に蕎麦が入った蜂蜜を食べさせたためアレルギーが原因で事故を起こした。」というもの。
3人の過失だったものが、1人の殺人となってしまったことでより重い業を背負ってしまうことになる。
そして今の自分の彼女が、事故当時広沢と付き合っていたことから、結果的に動機も出来上がってしまう。
この全てを1人で背負ったまま暮らしていけるのかというこの物語の未来が見たくなる小説だった。
主人公が昔、酒を少しだけ舐めて救急車で運ばれたというエピソードも、事故当時の広沢のアナフィラキシーショックの症状を想像させるというテクニックは圧巻であった。

〈要約〉
学生時代からうだつの上がらない人生を送ってきた深瀬。過去の経験から悲観的な性格だったが、趣味のコーヒーを通じて1人の彼女ができた。
誰でもできる仕事をしている自分と夢を叶えた友人との間に劣等感を感じつつも、今までの人生と比べれば上々の生活を送っていた。
そんなある日彼女の職場に1枚の手紙が届く。
「深瀬和久は人殺しだ。」
この1枚のFAXを元に物語が急変していく。
彼女にこのことを問いただされた深瀬は、昔5人でいったキャンプでの出来事を彼女に打ち明ける。

大学生の同級生だった5人はある日キャンプへ向かう。内1人の村井の親が裕福で山奥の別荘を貸してくれることになったからだ。村井は遅れて参加するということで、深瀬、広沢、浅見、谷原の4人で先に出発した。
道中のサービスエリアで昼ごはんを食べようということで、深瀬が調べてきた美味しい蕎麦屋に行くことに。しかし無類のカレー好きである広沢は1人で近くのカレー屋に行くと言い出し、広沢のみカレーを食べる。
また最近ハチミツとコーヒーの組み合わせに凝っていた主人公は、個人販売のラベルのないハチミツを購入する。
その後天気が悪くなりそうな中、運転の難しい急カーブの多い山道を抜けると別荘に到着する。到着と同時に大雨が降り、室内で過ごすことに。
夕飯の準備をして、村井が用意した絶品のステーキを食しながら飲み会が始まる。
深瀬と広沢が酒を飲まないことに、谷原の機嫌が悪くなる。深瀬は昔、酒を飲んで救急車で運ばれたことがあったことを話したため、逃れたが、広沢は「広沢はみんなで蕎麦を食べようとしている中、1人でカレーを食べに行ったり、協調性が欠けているのではないか」と指摘を受けてしまい、仕方がなく少し飲むことに。
その後村井から電話があり「駅に着いたから迎えに来い」という。
免許未取得の深瀬、谷原、運転は上手いがかなり酒を飲んでいる浅見、運転の腕は怪しいが少しだけしか酒が入っていない広沢と全員が運転できない状況だったが、消去法で広沢が車で迎えにいくことに。
申し訳なくなった深瀬は自慢のコーヒーに行きの売店で買ったハチミツを溶かしたボトルを広沢に渡す。
その後1時間経っても広沢と村井が帰って来ず3人が不安になっていると村井から「遅すぎる」と連絡が来る。
駅まで片道20分、あまりにも遅いと心配した谷原、浅見が自転車で様子を見にいくとガードレールを突き破り、山の下で炎上している車を発見した。
それを聞いた深瀬は走って現場まで向かった。

「4人で広沢を殺したかもしれない」
その後、美穂子とはなんとなく疎遠になってしまったタイミングで他の4人にも美穂子の元へ来たイタズラと同種の嫌がらせが届く。
犯人探しをすることになった4人だが、広沢という人間に友人として特別な感情を持っていた深瀬が犯人探しを行うことに。
深瀬は広沢の実家を訪ねたり、友人から話を聞く中で、広沢の心の広さに気づく。
サービスエリアで1人でカレーを食べに行ったのは、カレーが食べたかったからではない。
自分は蕎麦アレルギーだが、それを言ってしまうと蕎麦屋を調べてきた深瀬の努力が無駄になる。だから1人身勝手なふりをしてカレーを食べに行ったのか。
またその後広沢と彼女の美穂子が同じ高校出身であったことが判明。事件当時、広沢と美穂子は恋人関係だったのだ。
美穂子が復讐のため、真相解明のために4人にイタズラをしたのか。行きつけの喫茶店で美穂子と会い、話を聞くことに。
自分と付き合ったのは、広沢の事件の真相を解明するため? 他の3人とも付き合っていたのか?
そのような問いに対して美穂子は広沢にとって深瀬が特別な友人であったからだと説明する。
一件落着となり、2人の仲人である喫茶店のマスターが蜂蜜入りのコーヒーを作ってくれた。
美味しい…と思ったタイミングでマスターの奥さんが1つ問題を出す。
「このハチミツ、なんのハチミツだと思う」
ハチミツを舐めると思い出した。自分はこのハチミツの味を知っている。色、粘度、コーヒーに合うと感じたこと。
このハチミツはサービスエリアで購入したハチミツ。
雨の中車で村井を迎えにいく時に広沢に渡したコーヒーに入れたハチミツ。
「このハチミツ、蕎麦のハチミツなのよ!」
蕎麦。
「広沢を殺したのは、俺だったのか…」

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