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クジラは潮を吹いていた。 佐藤卓著

〈きっかけ〉
QuizKnockの山本さんが、本を紹介するYouTuberのほんタメとコラボした際に、「人生を変えられた」と絶賛していた本。
デザインというものは享受するも、能動的に触れたことがなかったことに気づき、読むことに。
新品2000円程度に対して、相場4500円〜5000円と謎の高騰を見せていた。
ちょうどメルカリで2000円で出品されており、えいやと購入した。

〈感想〉
身の回りに溢れている身近なものについて学ぶということ久しぶりにした気がする。
デザインというものは奥が深いと漠然と感じていたが、その深さを単位で知った感覚。
マリアナ海溝の底に何があるかは知らないが、1万mくらい深いということを数字で知った感じ。
本書は彼が独立してから手掛けたデザインを時系列順に並べて説明していく解説書であるが、
読み進めていくうちにこれが解説書ではなく、哲学書であることに気がついた。
全体の半分が製品写真で構成されている本書は、デザイナーの哲学に触れることができる最もカジュアルなフォーマットだと思った。

感心したことの1つ目は全く同じ用途のものでも流通経路によってデザインを変える必要があるということ。
例えば化粧水でも、ORBISなどの通販限定のものや無印良品などの決まった店舗でのみ購入できるものについては最近流行しているミニマルなデザインが求められる。
反対にチェーンの薬局などで量販的に販売されているものについては、以下に消費者の目に留まるかということを考慮して、色使いを派手にすることが必要なデザインもある。
しかし同様に量販店で販売されているLOTTEのCOOLMINTやS&Bの調味料シリーズなど、長期的に愛されていたデザインの刷新については、派手なデザインではなく継続的に購入している人が安心できるデザインが大切だという。
このように商品の用途以外にも歴史や流通経路に応じたデザインが必要であることは驚いた。

2つ目は工夫によってデザインする媒体以外のものを間接的にデザインすることが可能であるということ。
口紅の本体をデザインする際に、通常の回転繰り出し式の出し方から違うものに変化させることで、「女性の仕草をデザインした」
日本酒についても同様で、瓶の形状を伝統的で大変不便な’’徳利’’から着想を得ることで、「コミュニケーション」をデザインした。

3つ目は未来をデザインすることができるということ。
デザインの一部を改変できるようなフォーマットを用意することで、以後新商品が出るたびに過去のデザインを踏襲し、以降デザイナーが介在することがなくとも、新たなデザインを生み出し続ける。
ミニマルで刺激的でないデザインはいつまで経っても古臭くならない。
これは著者デザインではないが、万年筆のLAMY2000などは発売から60年経った今も全く古臭くない。

デザインというものは商品のパッケージだけではない。
解釈の軸をどこに置くかによって、過去や未来、仕草や性格、過去や未来なども自由に「デザイン」する力があるのだと感じた。

〈要約〉
かの有名な「明治 おいしい牛乳」のパッケージのデザインも手掛けている、グラフィックデザイナーの佐藤卓。
本書は彼が独立してから最初の仕事である1993年の商品から、自身が携わった商品を通じて、それぞれのデザインにどのような意味があるのかを解説している本である。
既記のおいしい牛乳をはじめとして、ロッテのガムCOOLMINTなど、日常生活で彼のデザインに触れたことがない人はいないかもしれない。
読み進めるにつれて、デザインを通して伝わってくる彼の哲学は後半へ向かうにつれて濃度を増していく。

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