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旧司法試験 民法 平成16年度 第2問__

問 題

 Aは、Bに2000万円の金銭を貸し付け、その担保としてBの父親Cが所有する甲不動産(時価2500万円)に第1順位の抵当権の設定を受け、その旨の登記をした。Bは支払期限までにその債務を弁済せずに行方をくらませた。
そこで、Cは、この抵当権の実行を避けるため、Aに対して複数回に分けて合計800万円をBに代わって弁済するとともに、残りの債務も代わって弁済する旨繰り返し申し出たので、Aはその言を信じてBに対して上記貸金債権について特に時効中断の手続をとらないまま、支払期限から10年が経過した。他方、その間に、Cに対してDが1000万円、Eが1500万円の金銭を貸し付け、その担保として、甲不動産につきそれぞれDが第2順位、Eが第3順位の抵当権の設定を受け、いずれもその旨の登記を了した。
 以上の事実関係の下で(Cが無資力である場合も想定すること)、Aが甲不動産に対して有する第1順位の抵当権設定登記の抹消を請求するため、Eはいかなる主張をし、他方、Aはこれに対していかなる反論をすることが考えられるかを指摘し、それぞれについて考察を加えよ。

関連条文

民法
1条2項(第1編 総則 第1章 通則):信義則
145条(第1編 総則 第7章 時効 第1節 総則):時効の援用
146条(第1編 総則 第7章 時効 第1節 総則):時効の利益の放棄
152条1項(第1編 総則 第7章 時効 第1節 総則):承認による時効の更新
166条1項(第1編 総則 第7章 時効 第3節 消滅時効):債権等の消滅時効
423条1項(第3編 債権 第1章 総則 第2節 債権の効力):債権者代位権の要件
474条1項(第3編 債権 第1章 総則 第6節 債権の消滅):第三者の弁済

一言で何の問題か

時効の更新・援用の当事者、代位行使の可否

答案の筋

Cによる800万円の弁済は「承認」にあたり、時効が更新され、時効は完成しないとの主張について、物上保証人が主債務を第三者弁済していたとしても、自ら債務を負担する当事者ではない以上、Cは承認をなし得る地位になく、Aの主張は失当となる。
一方、後順位抵当権者であるEは、順位上昇の期待を有するものの、先順位抵当権者が消滅することによる反射的・間接的利益にとどまるため、「正当な利益を有する者」にあたらず時効の援用はできない。
次に、Cが無資力である場合について、EはCが有する時効援用権の代位行使を主張するが、一身専属権にあたり許されないとも思えるも、債務者の援用権不行使が債権者を害する場合にまで、債務者の自由意思を尊重する必要は無く、一身専属権にはあたらない。また、支払期限後に代位弁済したCが時効援用権を行使するのは、信義則に反するとも思えるも、Aにこそ時効の完成猶予・更新措置を怠ったという瑕疵があると言え、Cのかかる行為は背信的とはならない。


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