司法試験予備試験 民訴法 平成28年度
問 題
次の文章を読んで,後記の 〔設問1〕及び 〔設問2〕に答えなさい。
【事例】
Xは,XからY₁,Y₁からY₂へと経由された甲土地の各所有権移転登記について,甲土地の所有権に基づき,Y₁及びY₂(以下「Y₁ら」という )を被告として,各所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えを提起した。(以下,当該訴えに係る訴訟を「本件訴訟」という 。)本件訴訟におけるX及びY₁らの主張は次のとおりであった。
Xの主張︓
甲土地は,Xの所有であるところ,Y₁らは根拠なく所有権移転登記を経た。 Y₁らが主張するとおり,XはY₁に対して1000万円の貸金返還債務を負っていたことがあったが,当該債務は,XがY₂から借り受けた1000万円の金員を支払うことによって完済している。
仮に,Y₁らが主張するように,甲土地について代物弁済によるY₁への所有権の移転が認められるとしても,Xは,その際,Y₁との間で,代金1000万円でY₁から甲土地を買い戻す旨の合意をしており,その合意に基づき,上記の1000万円の金員をY₁ に支払うことによって,Y₁から甲土地を買い戻した。
Y₁らの主張︓
甲土地は,かつてXの所有であったが,XがY₁に対して負担していた1000万円の 貸金返還債務の代物弁済により,XからY₁に所有権が移転した。これにより,Y₁は所有権移転登記を経た。
その後,Y₂がY₁に対して甲土地の買受けを申し出たので,Y₁は甲土地を代金1000万円でY₂に売り渡したが,その際,Y₂は,Xとの間で,Xが所定の期間内にY₂に代金1000万円を支払うことにより甲土地をXに売り渡す旨の合意をした。しかし,Xは期間内に代金をY₂に対して支払わなかったため,Y₂は所有権移転登記を経た。
〔設問1〕
本件訴訟における証拠調べの結果,次のような事実が明らかになった。
「Y₁は,XがY₁に対して負担していた1000万円の貸金返還債務の代物弁済により甲土地の所有権をXから取得した。その後,Xは,Y₂から借り受けた1000万円の金員をY₁に対して支払うことによって甲土地をY₁から買い戻したが,その際,所定の期間内に借り受けた1000万円をY₂に対して返済することで甲土地を取り戻し得るとの約定で甲土地をY₂のために譲渡担保に供した。しかし,Xは,当該約定の期間内に1000万円を返済しなかったことから,甲土地の受戻権を失い,他方で,Y₂が甲土地の所有権を確定的に取得した 」。
以下は,本件訴訟の口頭弁論終結前においてされた第一審裁判所の裁判官Aと司法修習生Bとの間の会話である。
修習生B:証拠調べの結果明らかになった事実からすれば,本件訴訟ではXの各請求をいずれも棄却する旨の判決をすることができると考えます。
裁判官A:しかし,それでは,①当事者の主張していない事実を基礎とする判決をすることになり,弁論主義に違反することにはなりませんか。
修習生B:はい。弁論主義違反と考える立場もあります。しかし,本件訴訟では,判決の基礎となるべき事実は弁論に現れており,それについての法律構成が当事者と裁判所との間で異なっているに過ぎないと見ることができると思います。
裁判官A:なるほど。 そうだとしても,それで訴訟関係が明瞭になっていると言えるでしょうか 。 ②あなたが考えるように,本件訴訟において,弁論主義違反の問題は生じず,当事者と裁判所との間で法律構成に差異が生じているに過ぎないと見たとして,直ちに本件訴訟の口頭弁論を終結して判決をすることが適法であると言ってよいでしょうか。検討してみてください。
修習生B:分かりました。
(1) 下線部①に関し,証拠調べの結果明らかになった事実に基づきXの各請求をいずれも棄却する旨の判決をすることは弁論主義違反であるとの立場から,その理由を事案に即して説明しなさい。
(2) 下線部②に関し,裁判官Aから与えられた課題について,事案に即して検討しなさい。
〔設問2〕(〔 設問1〕の問題文中に記載した事実は考慮しない 。)
第一審裁判所は,本件訴訟について審理した結果,Xの主張を全面的に認めてXの各請求をいずれも認容する旨の判決を言い渡し,当該判決は,控訴期間の満了により確定した。
このとき,本件訴訟の口頭弁論終結後に,Y₂が甲土地をZに売り渡し,Zが所有権移転登記を経た場合,本件訴訟の確定判決の既判力はZに対して及ぶか,検討しなさい。
関連条文
民訴法
115条1項1,3号(1編 総則 5章 訴訟手続 5節 裁判):
確定判決等の効力が及ぶ者の範囲(当事者)
149条1項(2編 第一審の訴訟手続 3章 口頭弁論及びその準備 1節 口頭弁論):釈明権等
247条(2編 第一審の訴訟手続 5章 判決):自由心証主義
306条(3編 上訴 1章 控訴):第一審の判決の手続が違法な場合の取消し
312条3項(3編 上訴 2章 上告):上告の理由(to高等裁判所)
民法
94条2項(1編 総則 5章 法律行為 2節 意思表示):虚偽表示
弁論主義
意義
訴訟資料の収集・提出(事実の主張・証拠の申出)を当事者の権能および責任とする建前
根拠
明確な条文はない
当事者に訴訟資料の自由な処分を認める以上、裁判所が判決の基礎とできる事実の範囲を当事者が限界づけられることにある
機能
不意打ち防止機能・手続保障機能
第1テーゼ
当事者の主張しない事実を裁判所は判決の資料として採用してはならない。
→ 訴訟資料と証拠資料の峻別:当事者が主張していない事実は、証拠調べから心証を得ても、それを判決の基礎としてはならない
第2テーゼ
裁判所は、当事者間に争いのない事実は、そのまま判決の資料に採用しなくてはならない(自白の拘束力)
第3テーゼ
裁判所は、当事者間に争いのある事実を認定するには、当事者の申し出た証拠によらなければならない(職権証拠調べの禁止)
一言で何の問題か
1(1) 主要事実に限定される弁論主義、譲渡担保の主張可能性と位置付け
1(2) 法的観点指摘義務(積極的釈明、釈明義務)
2 口頭弁論終結後の承継人
つまづき、見落としポイント
弁論主義違反について具体的な事実から判断する
固有の抗弁権を有する承継人
答案の筋
1(1) 弁論主義が適用されるのは主要事実のみ。所有権に基づく物権的請求において、譲渡担保権の設定および被担保債権の弁済期到来は所有権を喪失させる事実、所有権の来歴となり、主要事実に該当するため、判決の基礎とできない。
1(2) 再々々抗弁の主要事実となる譲渡担保権の設定という法律構成を積極的釈明をせずに採用した場合、当事者にとって不意打ちとなるだけでなく、被担保債権の弁済の抗弁等の主張立証(再々々々抗弁)の機会を与えないこととなり手続保障としても不十分であるため、釈明義務違反となる。
2 「口頭弁論終結後の承継人」としては、紛争の当事者たる地位を受け継いだ者のほか、民法94条2項の「善意の第三者」としての抗弁を有するような固有の抗弁権を有する者も該当する。
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