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旧司法試験 民法 昭和61年度 第2問


問題

 甲会社の従業員Aは、甲の工場で就労中、同僚Bが操作する機械に巻き込まれて死亡した。Aの妻乙は、甲から労災補償を受けたので、甲に対してそれ以上の請求をすることができないと思っていたところ、事故後4年を経て、知人から、甲に対して損害賠償の請求をすることができるのではないかと教えられたため、その請求をしたいと考えている。
1 乙は、甲に対し、契約上の責任を追及することができるか。
2 乙は、甲に対し、不法行為上の責任を追及することができるか。

関連条文

民法
1条2項(第1編 総則 第1章 通則):基本原則(信義則)
166条(第1編 総則 第7章 時効 第3節 消滅時効):債権等の消滅時効
415条(第3編 債権 第1章 総則 第2節 債権の効力):債務不履行による損害賠償
623条(第3編 債権 第2章 契約 第8節 雇用):雇用
709条(第3編 債権 第5章 不法行為):不法行為による損害賠償
710条(第3編 債権 第5章 不法行為):財産以外の損害の賠償
711条(第3編 債権 第5章 不法行為):近親者に対する損害の賠償
715条(第3編 債権 第5章 不法行為):使用者等の責任
724条(第3編 債権 第5章 不法行為):不法行為による損害賠償請求権の消滅時効
724条の2(第3編 債権 第5章 不法行為):
 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効
896条(第5編 相続 第3章 相続の効力 第1節 総則):相続の一般的効力

一言で何の問題か

安全配慮義務、使用者責任、被害者近親者の請求

答案の筋

1 被害者Aの配偶者乙は甲社と契約関係にはないが、Aが有する甲との雇用契約上の請求権について相続する。信義則上、使用者は被用者の生命身体の安全を保護する義務を負い、直接の加害者Bのなした安全配慮義務違反であっても、甲の行為と同視できる。なお、即死の場合でも損害賠償請求権が発生するため、乙は甲に契約上の責任たる債務不履行に基づく損害賠償責任を追及することができる。
2 甲は免責事由なき限り、Aに対して使用者責任を負うところ、即死の場合でも行使の意思表示なくして慰謝料請求権が発生し、発生後は単なる金銭債権となり、乙により相続される。また、乙自身は配偶者として固有の慰謝料請求権も有する。時効についても消滅していないため、乙は甲に対して、不法行為上の責任を追及することができる。

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