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移行している最中の世界を体験し、新しい世界を描く 〜教育〜

「移行している最中の世界を体験し、新しい世界を描く」 、6分類目の「教育」について見ていきます。

写真:https://finlandabroad.fi/web/sau/frontpage

子どもの心の病

香港では、試験で高得点を獲得しなければならないというプレッシャーが一部の生徒たちを自殺へ追い込んでいます。
「2013年から2016年までに71人の生徒が自ら命をたった」とサウスチャイナ・モーニング・ポスト紙は報告しています。
国際学力テスト(PISA)で群を抜いているシンガポールでは、2016年に11歳の少年がアパートの17階から飛び降りて死亡しました。彼はテストの結果を両親に告げることを恐れていました。審問により、少年の両親は学校で良い成績をとるように、しつこく強要していたことが分かりました。シンガポールでは2015年に10歳から19歳までの子供の自殺者は前年対比2倍の27人という記録的な数にのぼったことが報告されました。

では日本はどうでしょうか。
文部科学省のまとめによると、2018年度に自殺した小・中・高校生は前年比33%増の332人で、1988年に現在の方法で統計を取り始めて以来、過去最多となりました。自殺率は2006年の10万人あたりに1.2人から、18年には2.5人まで上昇しました。

自殺や自殺未遂は、子供の苦悩を明らかにする生々しい叫び声です。
子供のこのような苦悩は心を蝕み、自殺に至らないまでも、慢性的な心の病になる子供たちも多数います。
世界保健機関(WHO)によると、精神神経系症状は世界中で25歳以下の若者の障害主要原因になっており、世界的にみると10〜20%の「青少年が精神障害を患う」に該当し、すべての心の病の75%は人が18歳になる前に発症し、50%は15歳になる前に根付くことが調査によって明らかになっています。

現在の教育は競争と苦悩

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写真:毎日新聞 大学入試センター試験の開始を待つ受験生たち=東京都文京区の東京大学で2019年1月19日午前9時16分、竹内紀臣氏撮影

多くの若者にとって、教育は競争と苦悩の代名詞となっています。
学校や大学は画一性が要求され個人性が否定されます。学校は、プレッシャーとストレスが満ちた場所になっています。多くの教師が最善の仕事をしているにもかかわらず、多くの国の高等教育機関の目的は試験に合格し上位の成績を収めることです。

これは、本来の教育の中核と相反するものです。
教育は、個人の生来の才能を発見し、自分自身を探求し、ゆっくりと、ぎこちなくでも、それを表現することが出来る場所を提供することです。
つまり、間違ってもOKであり、失敗が許され、独創的な思考が奨励され、社会や自然環境に対する責任感が生み出される、情熱的で養育的な場です。

今まで整理してきた「意識・在り方」「生活様式」「経済」「政治」「環境」と同じように、「教育」も協力の代わりに競争が奨励され、人々は互いに敵対することを強いられています。

こどもの頃から、集団の幸福を犠牲にして、個人的な成功が推奨され、人生は欲望と快楽の追求によって支えられた戦場のようになっています。
この不幸のパラダイムの中においては、物質的な成功と地位や物の蓄積に焦点が当てられます。

企業化した政府の教育制度

文科省

人類の大多数がこのような生活様式の中で、健康に生きようともがき苦しみながら生きている一方で、経済的には難なく利益を得ている人たちがいます。彼らは裕福で「支配的なエリート」であり、金と権力によって、彼らの築いた不健全で不平等なシステムを強化する政策をつくります。

現状を維持するために、思想の自由や、個人ごとの特徴は尊重されず、社会への順応が強調されます。学校や大学の方針は政府によって設定されます。さらに政治家は蔓延するイデオロギーと一致するように、順応と競争が確実に実際の教育方法に組み込まれるようにします。

生徒たちは、生徒同士と自分自身との競争に組み込まれ、☓☓の科目についてどのくらい知っているか、覚えているかを評価する筆記試験を定期的に受けることを強要されます。
試験を受けその結果で、子供の進路が決定づけられます。その進路、つまり極端に言えば大学名で就職が決まり人生が決まります。

人の能力と知識を評価する手段としてテストは古くから活用されています。受験はとてつもないプレッシャーを強います。うまく対処できて「成績が良い」子供もいますが、大多数は息苦しく感じています。

イギリスでは、「チャイルドライン」(いじめや児童虐待等の影響を受ける児童・青少年に対する電話カウンセリングを行う慈善活動)による調査で、2016年〜2017年に「試験のストレスに関するカウンセリングを3,135回行った。その結果、過去2年間に11%の増加」と国家自動虐待防止協会が発表しました。同じく国家自動虐待防止協会によると、12歳から18歳までの青少年にとって、試験のストレスが「絶望や不安、パニック発作、低い自己評価、自傷、自殺願望」を引き起こしていると報告しました。
この傾向は多くの先進国や途上国で見られます。そうした国々では、イデオロギーに駆り立てられ、生産性にとりつかれた企業化した政府が、子供の幸福を意図的に損なう手段を追求し続けています。

これらを見ると、競争に根ざした方針の代わりに、教育のあらゆる面で協力と分かち合いが奨励されるべきで、標準試験のシステム自体見直す必要があるのは間違いありません。
子供たちがお互いを支え合い、自分特有の才能をグループで分かち合い、グループの一員であるという意識から、自然に社会的責任の感覚を養うことが奨励されていく必要があります。
ではどのような方法でそれを推奨していくことが可能なのでしょうか?

新しい教育へのアプローチ

フィンランドに新しい教育へのアプローチをしている例が見られます。
フィンランドでは子供が7歳になるまで学校に通いません。学校は能力別学級編制や選抜がないため、様々な能力を持つ子供が隣り合って学習します。宿題は出されず、学校の休業期間は長く、標準テストは高校の最終学年に実施される1回だけです。

その結果、テストや宿題、選抜や競争が幅をきかせる国よりも子供たちは楽しくリラックスして自由に過ごしています。
しかも子供たちは、楽しく過ごしているだけでなく、高い成績を収めています。OECDが毎年実施している生徒の学習到達度調査(PISA)によると、フィンランドは国語の読解で世界4位、数学で世界で5位となっています。
また生徒の93%が高校を卒業します。(カナダでは78%、米国では75%)

フィンランドの教師は全員が博士号を持っており、長期的に教師として教育に従事します。教育政策は長期的な取り組みであり、教師は長く働く機会を与えられるため、安定した良い質の教育が子供たちに届けられます。

教育制度は生きることに対する社会の相対的なアプローチの一部です。
フィンランドは世界的にみても富と収入の格差レベルが最も低いレベルの部類に入ります。対照的に、イギリス、米国、シンガポール、香港は格差のレベルが最も高い部類に入ります。

真の知性

競争や選抜、試験を活用する市場理念の周りに築かれた教育制度は、社会全体に漂う分離や不平等、不安や不正義の一因になっています。
この古い教育システムから、新しい真の知性が花開く教育システムを創造していく必要があります。
特定の何かを達成したり何かになったりしなければならないというプレッシャーもなく、子供たちが「ありのままそのまま」の「Being」でいることが出来るような環境です。そうした環境の中でのびのびと「在る」ことができたら、知識の限界を超越した真の知性が花開く可能性があります。

この可能性は、人間は本来、生まれたときから完全で、すべて完璧に備わっていて、それをいかに引き出していくかとい考えに基づいています。

今の教育は、人間は生まれたときは不完全で、色々なものを足して補っていかなければいけない、という考えにあります。

人間本来の完璧さを損なわずに、存在そのもの=Being として表現できる世界を創造することが、いま教育に求められています。

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