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「ハムレット」あらすじ解説【シェイクスピア】【Q1】

シェイクスピア6本目です。やはり名作でした。「ロミオとジュリエット」はアバウトな魅力ありますが、「ハムレット」はひたすら優秀なスキの無い作品ですね。

あらすじ

場所はデンマークです。王様が急死して王様の弟が即位します。旧王の王妃は新王と再婚、ここまでが初期設定です。

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旧王の息子ハムレット王子は、ひょんなことから父の亡霊を見ます。亡霊は語ります。「私は弟に殺された。王位と妻を簒奪された」

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敵討ちを志すハムレット、まずは狂気に陥ったふりをします。そして宮廷で上演される劇を工夫します。新王の旧王殺害シーンを挿入、それを新王と王妃(つまりハムレットの母)に見せます。

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動転する新王は、ハムレットを殺害しようと、ハムレットとレアティーズの剣術試合をセットします。レアティーズの剣には毒が仕込んでいます。念の為毒入りの飲み物も用意しておきます

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しかし試合中ハムレットは飲み物を断ります。知らぬ王妃(ハムレット母)が飲んでしまって即死です。ハムレットは毒入りの剣で傷つけられますが、剣を奪って逆襲、相手も殺します。勢いに乗って新王も刺殺し、やがて毒が回ってハムレットは死にます。

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結局、新王、王妃、ハムレット、みんな死んでしまいます。(終わり)

死亡劇

劇をドラマティックにしたいのならば、登場人物には死んでもらわにゃなりません。最後にバタバタ死ぬのがこの劇の魅力の第一です。もっとも昆虫のような人格のないキャラですと、感情移入できませんから死んでもドラマになりません。本作ではハムレットは十分悩んでみせみますし(だから「生きるべきか、死すべきか」の名台詞が必要でした)、王妃は真相を聞かされひそかに息子を応援しますし、新王も罪の意識から神に祈ったりして、可愛げがあります。親しみが持てるのです。そういう人間たちが悲劇の渦に飲み込まれてゆくので見ごたえが出ます。
もっとも、王家の三人の死亡だけでは悲劇としてのパワーが足りませんので、ボローニアス一家を足しています。これが効果抜群です。

「ボローニアス家」あらすじ

ボローニアスは王家の家老です。息子レアティーズと、娘オフィーリアがいます。王子ハムレットはオフィーリアにご執心です。ボローニアスは、誘いは断れと娘に命令してあります。

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という状況でハムレットが、新王への復讐のために狂気を装います。困った新王から相談されますが、ボローニアスは御家老の定番通り少々マヌケです。てっきり娘への恋の病と思い込みます。しかし外れでした。狂気の理由がわかりません。困ったボローニアス、新たな策を練りますがこれまた少々マヌケな策です。

「演劇が終わり次第王妃(ハムレット実母)は部屋にハムレットを呼び王妃が悩みを問いただす、安全のためにボローニアスは隠れて控えている」

実際上演後ハムレットは王妃の部屋に行きますが、父殺しシーンを見たあとですので興奮しています。王妃を害しかねない勢いです。たまらず声を上げるボローニアス、興奮したハムレットにあっさり殺されます。
父ボローニアスを殺された娘のオフィーリアは発狂してしまいます。ハムレットと違ってこちらは本当の発狂です。最後は水辺で足を滑らせて溺死、水漬くかばねとあいなります。

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事態を聞いてハムレットへの復讐のために王宮に乗り込んできた兄のレアティーズは、新王と相談してハムレットに剣術試合を挑みます。毒を塗った剣で切りつけますが、剣を奪われて切られて死にます。

結局、ボローニアス、オフィーリア、レアティーズ、みんな死んでしまいます。(終わり)

効果ダブル

王家、ボローニアス家、いずれも三人死んでいます。王家だけでもドラマとして成立していますが、ボローニアス家を加えることによって、バタバタ死んでゆく惨劇の迫力が倍増しています。オフィーリアは事件がなければハムレットの妃になっていた人物です。レアティーズはゆくゆくボローニアスにかわりに王家を支えたはずの人物です。若い人たちが死んでいって、デンマーク王家の未来は閉ざされます。

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はじめにキャラがあってドラマにするというより、ドラマの狙いたい効果が先にあって、キャラを充足させていっている感じですね。ボローニアスの、いかにも御家老らしいマヌケさが生きています。若い人のハイテンションなだけでは飽きが来ますから。

外国勢力

劇の最初に説明されるのですが、過去に旧王は「フォーティンブラス」というノルウェー王と戦って勝ちました。ところが今は、同じ名前のフォーティンブラスという息子が王族として再びデンマークを狙っています。劇の最後に皆死んだ後、息子フォーティンブラスがデンマーク王宮に来て事後処理を開始します。普通にデンマークは乗っ取られるのです。戦闘力のある旧王を毒殺した時点で、こうなる運命だったのかもしれません。

しかしよく考えると旧王もよくありません。毒殺されたのは無念だったでしょうが、息子の前に幽霊になって出てきて無闇にけしかけるから、結局王室が滅びたのです。いかに非業の死とは言え、我慢できなかったのでしょうか。黙っていれば息子のハムレットは王位を継承、オフィーリアと結婚して王家は栄えたはずです。
とにかく内部で殺し合いだけではなく、外国勢力も描写されています。内部でエグい闘いしながらも、常に外国を意識できるヨーロッパ人の政治的優秀さがよく出ています。


劇中劇

外国勢力描いて外側の世界の広がりを見せた反面で、劇中劇で内部をまとめています。王と王妃の前で上演される劇は、新王の旧王殺しの現場を生々しく再現します。劇中劇は、劇中の人物と観客が同時に劇を見るのですから、劇中人物と観客が同列になります。つまり観客をズブズブと劇の中に入りこませる効果を持ちます

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旧王毒殺の惨劇をハムレットやオフィーリアと見ることで、ハムレットやオフィーリアが現実に近く感じられます。外国勢力の影響を意識することでスケールは大きくはなりますが散漫にもなりがちな本作を、劇中劇の求心力がきっちり締めています。

構成

その劇中劇は、物語のちょうど真ん中に来ます。今回使ったバージョンはQ1という、通常使うF1より先に出版されたものです。正式出版ではありません。書誌的な探求は私にはできませんが、短く読みやすく、最初に読んで構成把握するには最適なバージョンです。

章立て作ってみますと、Q1には2幕17場と分類しています。

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しかし整理すると実際には5幕ものとわかります。そしてちょうど中心に劇中劇が来ます。外国勢力の話題は途中にもありますが、冒頭と末尾にきれいに配置されています。

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この構造は実は「ロミオとジュリエット」と同じです。冒頭近くと末尾近くに天変地異の話題、中心はロミオの殺人事件です。

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「中心に殺人」という意味では「ジュリアス・シーザー」も同じですが、冒頭、末尾の対が弱いです。

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「ヴェニスの商人」は冒頭、末尾の対はしっかりしていますが、中心が「デュパルの翻弄」というコミカルな会話ですのでインパクトが弱めです。

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「マクベス」は明快な中心がなく、

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「夏の夜の夢」にも明快な中心がありません。

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シェイクスピアの作品では、一番人気が「ハムレット」、二番手が「ロミオとジュリエット」らしいのですが、この二つは、明快な中心と冒頭末尾の明快な対を持っています。面白いですね。

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まだ6本目ですが、シェイクスピアの構成見えてきた気がします。38本あるそうで、先は長いのですが。

追記

より徹底的に探求されるかたがいらっしゃいました。ご覧くださいませ。海外研究者がシンメトリー構造に気づいていたようです。

https://symmetricalhamlet.hatenablog.com/







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