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時系列倒置の研究 5・「イワン・イリイチの死」【トルストイ】

作品の解説はこちらです。

最初から恐縮ですが、書くことありません。時系列倒置の究極シンプルスタイルです。

という時系列を

としただけです。倒置回数1回。トルストイという人は大貴族の生まれです。いいところのボンです。いいところのボンの最大の美点は、いらんことをしないことです。生まれが悪いほどいらんことをします。無駄にこねくり回して結果を台無しにします。差別ではありません。残酷な現実です。トルストイはいいところのボンだから究極シンプル倒置ひとつで完成作にできる。人間苦労してスレちゃうとそういう度胸はなくなるのです。セルジオ・レオーネも、コッポラも、タランティーノも、そういう意味では生まれが悪い。もっともトルストイほどの苦労知らずの人間なんて、おそらく現在地球上のどこにも存在していないのですが。

本作の倒置の目的は、倒置させた箇所を強調するためではありません。冒頭の葬式シーンは、実はどうでもよいのです。作品の末尾を強調したくて、それに続く葬式を倒置させています。そうしたほうがイワンの死のシーンが印象的になる。「死がない」という作者の主張が明瞭になる。

最初私は「強調したい部分を倒置で前に持ってくる」と単純に考えていましたが、そう単純なものでもないようですね。研究の結果として判明しつつあるのは、どうやら少々の研究ではどうにもならないほど時系列倒置は奥が深いようです。残念なような、楽しいような。

次回は夏目漱石「彼岸過迄」の予定です。


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