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惑星ソラリス 解読【タルコフスキー】

実写映画の最高峰というと、実は決まっていまして、ソ連の監督アンドレ・タルコフルキーの作品です。タルコフスキーはとりつきにくい作品が多いですが、攻略は簡単です。恐ろしくスローテンポで、おそろしく密度が薄いからです。つまり普通のテンポにすれば普通の内容の普通の映画です。ちょっと哲学的ですけど。


芸術映画の最高峰

「芸術映画」と呼ばれるジャンルがあります。最初はあんまり興行収益稼げない、しかし何十年後でもみんな記憶している映画です。該当する監督は、たとえば小津安二郎、キューブリック、エリセ、アンゲロプロス、タルコフスキーなどです。
その中でも最高はタルコフスキーです。他の監督は、絵は素晴らしいですが、耳がわりとパーです。タルコフスキーは、素晴らしい耳があります。内容がとっつきにくく、見たけど退屈してやめた人も多いと思いますが、コツさえつかめば簡単に楽しめます。

攻略ポイント1、実は密度は薄め

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徹底的に映像にこだわります。映像にこだわるのでセリフが少なくなります。タルコフスキー監督の父親は詩人ですので、本人も脚本感覚が良く、磨き上げたセリフで組み立てられています。だから単位文字数あたりの情報量は多めです。

しかし、そもそも脚本の文字数自体がものすごく少ないのです。ということは結果的に、映画全体での情報は少なくなります。ようするに内容が深いかもしれないけれど、密度は薄い映画です。ほとんどなんにもおきません。そしてなにもおきない部分を想像と思想で補う必要はありません。単になにもおきていないだけなのです。

攻略ポイント2、スローすぎるテンポにつきあわない

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見ていて眠くなるのは、テンポが遅いからです。だいたい芸術映画は遅めのテンポになります。特にタルコフスキー(ソ連の監督)とアンゲロプロス(ギリシャの監督)は遅いです。そしてソ連もギリシャも経済破綻しました。スローな作品製作していると国家は破綻する、ということです。どうせ字幕での鑑賞です。1.4倍くらいに早廻しして、快適な速度で鑑賞しましょう。よその国の、死んで久しい監督です。義理立てする必要ありません。

攻略ポイント3、ガチのキリスト教映画

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昔、安土城の信長の前で、仏教のお坊さんとキリシタンが議論をしました。議論の主題は、「魂はあるか、無いか」です。

仏教は実は、「魂なんぞ無い」というのが建前です。キリスト教は、魂の救済と永遠の生命が売りですから、魂が無ければ商売になりません。そしてタルコフスキー映画はガチガチのキリスト教映画です。
人間には魂がある→魂とは良心のことである→良心は神に直結している、とむりやり信じこんで鑑賞すると、わかりやすいです。

見どころ

最悪、ワンシーン見れば、実はソラリス制覇と言ってもさしつかえありません。無重力シーンです。映像的には普通のシーンですが、バッハの音楽と合わせたのが画期的でした。このシーンだけは1倍速での鑑賞お願いします。


例えばキューブリックは「2001年宇宙の旅」で「ツァラトゥストラはかく語りき」と「美しく青きドナウ」を使っていましたが、音楽としての格が、バッハと違いすぎるのです。もっともソラリスでのオルガン演奏は聞き取りづらいです。耳ならしには以下のピアノ演奏どうぞ。

宗教的な曲です。自分の内面を見つめているような雰囲気があります。いかにもバッハです。これをお聞きの上、今一度映画にシーンに戻って御覧ください。

バッハは、格調が高いです。しかしタルコフスキーのつくる映像も、それに十分バランスしています。つまり、映像の品格が高いのです。この映像に見慣れると、映画のランクがだいたい分かるようになります。不愉快な画面切り替えなどが、耐えれなくなります。目が成長するのです。ですので折にふれて鑑賞するのをお勧めします。

あらすじ解説

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惑星ソラリスの海は、思考能力を持った海です。人間が行くと、その人間の思考を物質化します。子どもを持った人間が行くと、4mの巨大な赤ちゃんが出現します。

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主人公クリスは、そんな報告を馬鹿にしてソラリスに宇宙旅行します。しかし、行ってみてびっくり、自殺したはずの妻が出てきます。クリスの思考が物質化したのです。

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怖くなって妻をロケットに積んで宇宙に発射します。永遠のさようならのつもりです。でも、人間は自分の記憶からは逃れられません。いつのまにか妻は自分の部屋に居ます。

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過去、妻はクリスの母との不仲から自殺しました。クリスはそれを悔やんでいました。だからそれが実際の妻ではないとわかっていても、クリスは妻を愛します。妻は夫の良心に感謝します。しかし同時に自分がクリスの思考が物質化したものに過ぎないことにも気づきます。クリスの心の負担になっていることも気づきます。

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そしてクリスは夢を見ます。死んだ母が汚れた自分の腕を洗ってくれる夢です。目が覚めると、妻はいなくなっています。妻からの置き手紙には、自分から別れる道を選んだと書いてあります。

クリスは流石に疲れませす。呆然とします。同僚から「もう地球に帰ったほうが良い」と言われて頷きます。

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最後のシーンは、最初のシーンと同じく地球の自分の家です。でも窓の外から家の中を見て、クリスは呆然とします。家の中に雨が降っているのです。地球とほとんど同じですが、地球ではありません。そう、ここはソラリスの海の中に出来た小島、小島の中に自分の故郷が再現されていたのです。クリスは自宅から出てきた父に抱きつき、映画は終わります。

みなさんでしたらどうでしょうか? ソラリスに行ってみたいですか?
ソラリスでは、自分の心の中が物質化します。しかし自分の心の中のどのイメージが物質化するかは分かりません。死んだ人に会えるかもしれません。なぜか汚い虫がざくざく出てくるかもしれません。自分が正直爺さんか、いじわる爺さんかは、ソラリスに行ってみないと分かりません。

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「汚い虫なら別にそれでもいいじゃないか」そう考えたあなたは日本人です。その部分を物凄く気にするのが、キリスト教文化圏の人なのです。

タルコフルキーは別の映画「ストーカー」で、このような考えを掘り下げています。

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希望が何でも実現する「ゾーン」という場所に、弟が死んだ人が行きます。弟に生き返って欲しかったからです。そして自宅に帰ります。

しかし自宅には弟の姿は無く、大量にお金があります。彼が本当にのぞんでいたのは、弟の復活ではなく、お金だったのです。「本当の自分自身は、これほど醜かったのか」。

彼は絶望して首を吊って自殺します。

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みなさんでしたらどうでしょうか?

私なら「ああ、やはり弟は復活はできんかったが、それでも神様は供養料をくださったんやな。有り難い有り難い」と、立派なお墓のひとつでも造ってあげて、残りのお金はおのれの贅沢のために使わせてもらって幸福に暮らします。日本人に生まれてよかったです。

しかしなんだか品格が足りないような気がするので、たまにはバッハを聞いたり、タルコフスキーを見たりして品格を補っています。


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