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物語構成読み解き物語・11

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オーソン・ウェルズやコッポラと同じ嗜好をフィッツジェラルドも持っていたようで、「グレート・ギャツビー」も「闇の奥」のほぼコピーだった。それ以外の要素もあるが、「闇の奥」の影響が非常に強い。キャラ構成戦略がほぼそのまんまである。

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ギャッビーは数冊解説書が出ている。ものすごく詳細に読み解こうとしている。作品に出てくる車の種類まで考察している。凄い努力である。しかし章立て表はつくらない。登場人物一覧表も作らない。つまりほぼ読めていない。こういうのを何度も繰り返すと、段々こっちが精神病んでくる。批判される研究者も嫌でしょうが、お願いします、二つの表さえつくれば、皆さんなら私の数倍読めますので、なんとか作成して読んでください。作り方がわからない場合にはお問い合わせください。懇切丁寧にご説明しますし、無料です。表はご想像されているよりも適当に作成します。表の美しさが目的ではありませんから。書き込む量は作品の量とはやや無関係です。多かったり少なかったりします。私も最適解発見できていません。作成の後に「表を見てウンウン唸る時間」がご想像よりはるかに長時間あります。小さなポイントで数週間とかザラにあります。下に簡単に説明します。

もっとも「ギャッツビー」だけ読んで章立て表つくっても、下敷きに「闇の奥」があると認めるには、フィッツジェラルドが「ボクが闇の奥を下敷きに小説を書いたんだ」という言質を残していないといけないらしい。絶望的な条件である。そんな言質は存在しない。そして「闇の奥」が下敷きと考えないと本文の意味が取れない。脱出不能の行き止まりである。よく人間が生存している。窒息環境の中でも理解できていない作品を「なんとか鑑賞できるように読み込もう」とする態度がある人が居る。素晴らしい。いいガッツだ。英文科はさすがに人材が豊富である。こちらはイヤミではない。

「ギャツビー」に大量の意味不明の文章がある。それらの意味を整合的に説明できると良い読み解きになる。例えば、

序の「金色帽子」
第一章冒頭の「口数以上にものを言う」
同「1万マイル先の揺れをとらえる地震計」
同「犬を飼ったが逃げられた」
同「赤と金の色彩が本棚にならんで、鋳造したばかりの貨幣のようだ」
などなど全編に渡って存在しているのだが、これらが一本の糸で結び付けられる、そのような糸を発見するのが読み解きである。だから

章立て表

このような「章立て表」作成して、「ここの意味がわからない、いやこういう解釈も可能か、しかしそうするとここの部分がすっきりしなくなる」とあれこれ考えてゆく。考えてすぐ答えが出る性質のものではないが、名作ならばかならず答えがある。作品が私達に考えることを強要してくるからである。あとはあせらずじっくりつきあってゆくことだけだ。
この場合作品の文字数に比べてかななり詳しく書いた表である。作成に手間がかかったが、密度が高い作品であり、かつ色々な要素が埋め込まれているので平均より大きな表になるのは仕方がない。この作品が記述の時系列が若干前後する(というところもコンラッド風)のだが、これくらいの表を作成してしまえば、だいたいもれなく思考できる。

「登場人物一覧表」も重要である。

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この表にいたるまでにかなりの手間をかけた。
第四章冒頭に大量の人物が登場する。「ワルプルギスである」というのが私の最終見解だが、当初は登場人物の名前に意味があるかもしれないと思って書き出した。ここは原文にあたってスペルも確認した。

ワル

書き出した結果、おそらく無意味な名前の羅列という結論の落ち着いた。ワルプルギスだからごっちゃに色んな人が登場する、というだけである。

これは努力の失敗例だが、解説書書かれた方たちがこのような努力をしたか。おそらくしていない。地味にテキスト内の情報を拾い出して整理することが読み解きである。解説者たちの原文を直接読める語学能力は大変尊敬する。周辺の情報の収集能力は私の万倍だろう。しかしながら文学作品なのだから、作品の意味を取ることも重要だろう。こういう手間をかけないもので全体の意味がつかめずラストの「緑の灯火」が議論になったりする。「闇の奥」が下敷きならば解釈はわりと簡単である。「闇の奥」の闇とは、緑の闇である。アフリカのジャングルだからである。「緑の闇」の対として「緑の灯火」がある。水の向こうにあるのである。「闇の奥」を下敷きと考えないならば、永遠に到達できない理解だが。

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以上偉そうに読み解きを説明してきたが、最後に衝撃の発表がある。読んだ長編がギャッツビー一本では流石に気がとがめたので、図書館で「夜はやさし」を借りてきた。分厚かった。1/20読んで放棄した。だから私が完読したフィッツジェラルドの長編はこれのみなのである。研究本を書く碩学の研究者を読解不十分と言って馬鹿にし、かつ並の文学ファンレベルの完読能力もない。自分でも変だなあと思う。


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