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映画よみとき

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イラン映画のご紹介

物語能力は民族により差が有る。外交能力、戦略能力は物語能力にだいたい比例する。日本は文化的に豊かな国です。豊かですから、他国を評価すると実は点が辛くなる。しかしあんまり悪口言うと、言う本人が人間的ランクが下がる感じがあるから、言いづらい、だから他国の文化についてはさほど比較して論じた文章見たことないのですが、各国の文化の程度は物凄く差が有ります。どうにもならない超えられない壁なのです。そして文化の程度は必ずしも一人当たりのGDPに比例しません。 文化の中で最も重要なのは「物

「8½(はっかにぶんのいち)」あらすじ解説【フェリーニ】

イタリア映画です。イタリア人といえばスチャラカキャラが相場ですし、本作は特にスチャラカな意味不明映画として有名です。しかし細かく解析してみると、明快な意味と厳密な構成を持った作品でした。 逆に言えば、明快な意味と厳密な構成を持っていながら、実際観るとスチャラカな意味不明映画なのです。ついてゆけません。 あらすじVer.1映画監督グイドは映画の製作に行き詰まり、人々の冷たい視線に耐えきれずに、ロケット人間になって空中に飛び立つ夢を見ます。 その後色々あって、映画製作は中止し

「ミッション: 8ミニッツ(Source Code)」解説【ダンカン・ジョーンズ】

監督はダンカン・ジョーンズ(1971生まれ)。デビット・ボイウの息子というほうがわかりやすいですね。寡作ですが、大変優れた映像作家です。 あらすじ場所はシカゴ。主人公はアメリカ人。といってもアフガンに派兵されて瀕死の重傷を負い、上半身だけの存在です。栄養チューブをつながれてギリギリ生きています。 ところがギリギリ生きているだけのように見えながら、夢を見ます。列車に乗っている夢です。女性と楽しくお話しています。 しかし8分間の夢の終わりには列車が爆破されて、目が覚めます。

「シャッター アイランド」あらすじ解説【マーティン・スコセッシ】

例えばですが、あなたの周りのひとたちが、財政破綻論を信じてまして、信じないのはあなただけ、周りは必死に説得しますが、あなたは絶対認めない。あなたはだんだん嫌われはじめて、モンスター扱いされだしました。 その時あなたはどうしますか?人間関係重視しますか?自分の信念重視しますか? あらすじ患者脱走の報告受けて、犯罪者専用の精神病院の島に渡った連邦保安官デカプリオ(エドワード・ダニエルスという役の名前がありますが、面倒なのでデカプリオで統一します)。 なにやらあやしい病院でし

「戦場にかける橋」あらすじ解説【デビット・リーン】

1957年の作品です。ナショナリズムとグローバリズムについての先駆的な考察を進めている作品です。 あらすじ硬骨漢ニコルソン大佐 ニコルソン大佐はイギリス軍人。男です。 日本軍の捕虜になります。将校も労働しろと言われます。ジュネーブ条約をたてに拒絶します。殴られます。でも屈しません。 怒った日本人軍人にプレハブに閉じ込められます。 死ぬほど暑いです。「オーブン」と言われているくらいです。干物みたいになっちゃいます。 でも屈しません。自分たちの文明の価値を信じているか

「ライダーズ・オブ・ジャスティス」・ヨーロッパのアメリカ批判映画

アマプラで観れる「ライダーズ・オブ・ジャスティス」 Amazon.co.jp: ライダーズ・オブ・ジャスティス(字幕版)を観る | Prime Video デンマークのアメリカ批判映画でした。表面的な皮肉だけでなく、根源的な部分まで踏み込んでいるので取り上げます。出来は非常に良いです。内容関係なく映像美だけで十分見れます。 あらすじ父はアフガンに派兵されています。 母と娘は家を守っています。 ところが列車事故で母が死にます。 事故に遭遇した数学者、およびその友人の

黒澤明監督作品案内

黒澤明は大谷翔平でした。スケールが大きすぎて、日本人はおろか、世界的にも十分には理解されなかったのです。黒澤は東京生まれですが、お父さんは秋田の人です。東北にはそういう人間を輩出する土壌があるのでしょう。晩年は「黒澤天皇」と呼ばれて、左翼映画人から忌み嫌われていました。もっとも左翼の本拠地ソヴィエト連邦で映画を作ったのは黒澤なんですが。 黒澤映画の特徴をあえて列挙すると 1、絵が綺麗(構図が良い) 2、時々素晴らしい音楽との結びつきがある 3、俳優をダイナミックに動かせる。

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」あらすじ解説【セルジオ・レオーネ】

1984年の映画です。難解です。わけがわかりません。難解な作品はたいてい、難解にしなければならない事情があるものです。 あらすじ Ver.1無茶な強盗を計画している友人の命を救うために、主人公ヌードルスは警察にタレコミます。 苦渋の決断でした。しかし救えませんでした。友人は死にます。35年後、主人公ヌードルスはその友人が、別名で生きているのを知ります。政府高官になっていました。別人になりすまして出世していたのです。 無常の35年でした。虚しい人生でした。(あらすじ Ve

映画から見るアメリカの没落

「フライト・クルー」アマプラで見れる「フライト・クルー」 https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B073G77M5X/ref=atv_dp_share_cu_r ロシア映画です。ご都合主義の設定です。かなり無理があります。でも面白い。ロシア悪ノリズムです。派手なシーンも十分うまく撮影しています。 音楽の感覚が、古きよきヨーロッパ映画でして、 父の提案シーン およびラストの雨の空港シーン 音楽とあいまって非常に美しく仕上がっ

「市民ケーン」解説【オーソン・ウェルズ】

有名作品ですのであらすじは省略します。 「闇の奥」と「短刀を忍ばせ微笑む者」役者オーソン・ウェルズは映画を作ろうと思いました。最初に検討したのはコンラッドの小説「闇の奥」です。しかし検討するとどうも予算が2倍くらいかかりそうです。断念してニコラス・ブレイクの冒険小説「短刀を忍ばせ微笑む者」にしようと考えました。女性が大活躍して反政府組織をつぶす話なのですが、ヒロイン候補の女優に断られます。これも断念して、最終的に新聞王ハーストをモデルにした、「市民ケーン」を作りました。

ロシアの戦争映画

「フロンティア」 https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B08CY8S6TL/ref=atv_dp_share_cu_r 2018年の映画。ベタベタ愛国である。現在の情勢の参考にはなる。十分面白い。テンポが良い。内容は時をかける実業家である。 背景になっているレニングラード包囲戦は、膨大な犠牲者を出した戦いである。大多数が餓死だったとも言われているが、そこの描写はあまりない。しかし犠牲を払いながらも、当時のソヴィエトは耐えきった

「サクリファイス」あらすじ解説【タルコフスキー】

もしも核ミサイルが飛んできたら、どうしますか。そんな時の対応法が描かれた映画があります。芸術映画の最高峰ともいえる映画です。対応法が実用になるかどうかは別にして。 気の遠くなるスロー映画 タルコフスキー監督作品は芸術映画の頂点です。芸術映画は娯楽映画とは違います。つまらないのです。おもしろくないのです。退屈します。最大の原因はテンポにあります。全編気が遠くなるほどスローです。内容的には1時間15分くらいの脚本量です。でもなぜか2時間30分あります。つまり差し引き1時間15

森田芳光監督「それから」について

前回記事 で使った画像は、森田芳光監督の1985年作品です。出来はよいです。 https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B012S0SI7Q/ref=atv_dp_share_cu_r 森田監督は「セリフ師」です。監督の中には俳優がどういう演技をすればよいか明快にはわからないが、なんか違うという直感だけでダメ出しするタイプが多いです。溝口健二がそうですし、小津安二郎もそうです。森田は違います。俳優がそのシーンでどのようにセリフを発

アンゲロプロス ギャラリー

アンゲロプロスでは「エレニの旅」が一番画像が良いと思う。全てのシーンが絵になっている。どういう筋なのかは知らない。早送りでしか見ていない。見る気がしない。スローすぎるのである。アンゲロプロスは映画作家ではなくどちらかと言えば画家、写真家である。漱石が小説家ではなく詩人であるように。つまり映画作家として「古い」。原始的すぎる。せめて動きに緩急あればよいのだが、緩のみである。それは動いているとは言わない。滑っているだけである。いくら踊りシーンがあっても運動がない。小津レベルの人形