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真鍋呉夫の怖い俳句

残暑がきびしいからでしょうか。ある方から、「怖い俳句はないか」という質問を受けました。

突堤に指のかかりし月夜かな/真鍋呉夫(まなべくれお)

釣りが趣味の方でしたので、これをあげました。

『真鍋呉夫句集』

宋左近 編

芸林書房 2002年 111頁

情景は、明瞭です。月光が、隈なく照らしています。ホラー映画の冒頭のシーンのようです。何が海から上がってきたのでしょうか。何の情報もありません。読み手は、自分のもっとも怖いものを、想像してしまうでしょう。

作者の真鍋呉夫は、小説家、エッセイスト。第二句集『雪女』で歴程賞と読売文学賞を受賞。引用は、この句集から。

千葉県の港町に、太平洋に突き出たコンクリートの大きな突堤がありました。海が荒れると、波をかぶります。危険なので、立ち入り禁止になっています。それでも、入る人が、あとを絶ちません。魚の宝庫なのです。釣り師には、たまらない場所です。

風光も明媚です。先端までいくと、360°の海の紺青のパノラマが、堪能できます。

しかし、「落ちると命がない」と言われていました。だれも助けられません。海面までの高さは、人間の背丈の数倍はあります。テトラポットが、積み重なっています。フジツボなどの貝類が、密集して生えています。波が押し寄せては引いていきます。人間の皮膚など、ズタズタにされてしまいます。

地元の友人に誘われました。軽い気持ちで、でかけていきました。借り物の釣り竿を右肩にかけて、左手にバケツを下げていました。

イシダイの大物が、かかることもあるそうです。ひっぱられます。足が滑れば一巻の終わりです。潮と魚の力の両方と戦っていました。友によると、イシモチとアイナメを釣り上げました。海釣りの醍醐味を感じました。

気が付くと、海の色が灰色に変わっていました。少し風が出てきました。突堤の陸から半分ぐらいのところのコンクリートが、波をかぶって黒く濡れています。波の合間をぬって、走ってもどりました。危ないところでした。

四十年前の話です。あの突堤は、どうなっているでしょうか。あの夜は、揺られているようなぐらぐらする感覚が、布団の中に入っても、まだ大脳と手足に残っていました。

突堤に指のかかりし月夜かな/真鍋呉夫

作者には「去年今年海底の兵光りだす」116頁、 「蹼(みづかき)の生えてめざめし月夜かな」23頁 などの句もあります。


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