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ろうそくの物語

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非日常のろうそく屋さんで販売されているキャンドルの物語。 商品説明欄に書くには長すぎる、少しダークでファンタジーなお話。 短編小説メインです。 ファンタジーが好きな方、キャンド… もっと読む
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2022年12月の記事一覧

【短編小説】10.こびとのはなし【その角を通り越して。】

←前の話 そんな事が起きてしばらくたった ある日の昼下がりのこと。 僕は毎日を気ままに過ごし 暇をつぶすようにろうそくを作って暮らしていた。 と。 小屋の扉がキーと音を立てて開いた。 僕はぴくりと肩を震わせ硬直する。 誰だ?あの小さな生き物か?いやあれは飛んでいたな… 怖くてドアの方を振り返らないでいると 「いつ戻ったのだ?ろうそく屋の店主」 妙に高くて聞き取りずらい カサカサとかすれた声がした。 「腕は確かなようじゃの、ろうそく屋の孫よ」 その声はどんどん続

【短編小説】11.ゆらめく、あかり【その角を通り越して。】

←前の話 「これくらい作れれば問題なかろう。  そのうちばあさんを慕っていた者共がここを訪れる。  仲良くしてやってくれ」 「ちょっと」 よくわからないけど、 そのドワーフは僕のお気に入りのソファーに よいしょ と言いながら腰かけた。 「あぁ。懐かしいわい。覚えておらんか?  ばあさんがここでろうそくを作っていた時のことを。  おぬしも時折、来ておったろう」 「ここは一体…」 小さいころの記憶がよみがえる。 おばあちゃんの横顔。 ろうそくの揺らめく灯りに照らされ

【短編小説】12.ひとりぼっち【その角を通り越して。】

←前の話 「この世界は第3の世界じゃ。非日常の世界と呼ぶ者もおる。  おぬしは長い間、人間界にいすぎた。少し休むがよい」 「休むって…何なんですか?ここは」 僕はおかしくなったんだろうか。 この状況を受け入れているのか。 もう別に、人間の世界で生きていかなくてもいいんだと思うと 気が楽になったのは何故だろう。 「もう家族もおらんじゃろ。  こちらの世界で悠々と暮らせ。人間界とのやり取りは  専門のやつがいる。そやつに任せておけばよい」 両親はもう、とうの昔にいない

【短編小説】13.どこだ、どこだ【その角を通り越して。】

←前の話 暗くなった小屋の中では いつの間にかドワーフのレリオンがランプに火を入れていた。 それはとても当たり前のように作業をしていて 扱いずらいこのランプのホヤをいとも簡単にずらす姿を見て 目の前にいる小人は昔からこの部屋に通っていたのだと実感する。 と。 彼は見頃の時間になったと言いながら 僕の作ったお気に入りのグラデーションのキャンドルを灯し始めた。 勝手にお気に入りのものを触られているのに 嫌な思いがしないのはなぜだろう。 構わず、僕はおばあちゃんの日記を読

【短編小説】14.はじめてのなかま【その角を通り越して。】

←前の話 「成功だね、これでやっと元通り」 また聞いたことのない声と一緒に キーとドアが開いて 今度はスラリとした背の高い男が入ってきた。 「こんばんは、便利屋のサトウです」 「便利屋?」 もしかしたら僕より若いか、同じくらいか。 黒縁メガネのその男は 片手で名刺を差し出しながら 「やっと見つけました、行方不明のお兄さん」 そう言って、胡散臭いくらいの作り笑いをしてきた。 この人も、計り知れない闇を抱えている… メガネの奥にある目は少しも笑っておらず つかみどこ

【短編小説】15.さいごの、はなし【その角を通り越して。】

←前の話 僕は「非日常のろうそく屋さん」店主。 僕の家系は代々 不思議な力で星空を作る者として 人間界と、この非日常の世界の 両方の世界を行き来しながら暮らしていた 特殊な種族なんだそうで。 僕は相変わらず引きこもりで 誰かと一緒にいるのが苦手だ。 だけど、人間の世界から逃げて来れてよかった。 逃げることは、悪いことじゃない。 自分で道を切り開く事だと、僕は思った。 合わなければ合うものがあるまで探せばいい。 それを怠っていたから、僕は嫌われていたのかもしれない。