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ろうそくの物語

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非日常のろうそく屋さんで販売されているキャンドルの物語。 商品説明欄に書くには長すぎる、少しダークでファンタジーなお話。 短編小説メインです。 ファンタジーが好きな方、キャンド… もっと読む
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2022年8月の記事一覧

非日常の物語【短編小説】

ろうそくの物語店主の気まぐれグラデーションキャンドル ろうそくの妖精 芯をさけるくん まずそうな林檎 こちらの世界の月 北の魔女のボタニカルキャンドル 北の魔女のボタニカルキャンドル2 ウンディーネとジェルのろうそく ドワーフの焚き火キャンドル 焚き火のキャンドルと人魚姫 ドワーフの鉱物症候群 ドワーフの焚き火キャンドル―秋保石のラビリンス― スターダストホリック 黄昏の燭台-たそがれのキャンドルスタンド- その角を通り越して。はじまり、はじまり

【短編小説】1.はじまり、はじまり【その角を通り越して。】

キャンドルの灯りに照らされた作業場の 乱雑に置かれた道具たちをゆっくりと片付ける。 いつものように、 キャンドルの炎がゆらゆらと揺れた。 炎の上の空気もまた、ゆらりと揺れる。 いつもと変わらない今日が また終わろうとしている…そう思った瞬間。 穏やかだったキャンドルの炎が とても大きく揺らぎ、 僕は振り返って辺りを見回した。 その一瞬で、 何となく部屋の空気が変わったような気がした。 いや、そんな事があるわけがない。 と、僕は一人で大きく頭を振った。 ここはただの

【短編小説】2.こどものきおく【その角を通り越して。】

←前の話 この部屋には秘密があるんだよ。 あの鏡の向こうに、見たことがない扉が映ることがあるんだ… 小さかった頃の記憶がだんだん蘇ってくる。 僕は、古い木でできたテーブルから 頭の半分を覗かせて、 窓際にいるおばあちゃんを見上げていた。 照明は部屋の中央から垂れ下がる 小さな裸電球と 部屋中に置かれたろうそくの明かりだけ。 薄暗いのに、温かい。 やわらかい空気の部屋の中 ろうそくの灯りが おばあちゃんの横顔を照らしていた。 口元にある大きいイボや 顔に刻まれた深

【短編小説】3.かがみよ、かがみ【その角を通り越して。】

←前の話 めらめらと、炎が揺らいだ。 過去に飛んでいた僕の頭の中が、一気に現実へと引き戻される。 僕は古びた椅子に腰掛け、窓の横に掛けられた鏡を見据えた。 古い額縁にはめ込まれた鏡は所々が白く曇っていて、 いくら拭いても美しい銀色には戻らなかった。 古い燭台や作業台。 壁には、埋め込まれるように古い本棚が並び いつの時代の物かわからない茶色い本や 古びた雑貨に埋め尽くされていた。 古びた鏡越しに見るいつもの部屋の中。 ほんの一瞬鏡から目を外した。 瞬きをしただけかも