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山田杏奈を泣かせてほしい 【僕の心のヤバイやつ Karte.60】
Karte.61 の二週前予告が話題です。
次回!いちかーッがんばえーッ pic.twitter.com/HhftyIBT82
— 桜井のりお@僕ヤバ④2/8発売 ロ⑦発売中 (@lovely_pig328) December 22, 2020
雪の舞い落つ寒空に、叫ぶ市川、泣く山田。
僕の知ってる「極甘青春ラブコメディ」とは思えません。
誰かが「劇場版」と評していましたが、そんな喩えがしっくりきます。特別なエピソードの予感ありです。
山田が泣くこと自体は珍しくありません。現時点での既刊コミックス、どの巻を見ても泣いています。
でも、今回のような状況での泣きには、特別なものがあると思うんです。
今回言うところの「泣き」は、涙が零れ落ちたり、それを拭いたり、嗚咽したりと、明らかなものだけに限定しています。
それ以外のものは悲しみや混乱をマンガ表現したものと捉えました。
南条にチョロく扱われたことに気づいた小林、断腸の思いでツーショットを辞退した市川、山田の怪我に大騒ぎした後輩などは、目に涙が浮かんでいますが対象外としています。
☆ 山田杏奈にとっての「泣き」
山田は9回泣いています。
他は、市川、小林、金生谷が各1回。
コミックス既刊、3冊内での話です。
よく泣くんです。山田。
視点人物の主たる観察対象であることはもちろん考慮すべきですが、その市川の9倍泣いているので、圧倒的に涙もろいと言っていいでしょう。
親友・小林の反応からもそれが窺えます。Karte.15「僕は抱きしめたい」から。
(以降の画像は秋田書店・桜井のりお「僕の心のヤバイやつ」各エピソードより)
小林、不意にスイッチが入った山田を、ルーチンワークのように受け入れるんですよね。似たようなやりとりが、作品外で何度も繰り返されていることが示唆されています。Karte.17で金生谷が泣いた時の山田の反応とは、えらい違いです(受け止めが山田だからというのはあるでしょうが)。
この泣きがあったKarte.15は、山田が鼻を怪我したkarte.14の翌日。前日の怪我の恐怖や、仕事がキャンセルになった悔しさが甦り、それに堪えきれなくなって涙した格好でした。
心の容量超過による泣きと言っていいでしょう。
頑張って作ったグループ発表資料を完全リライトされてしまった時や(Karte.2)、駅に市川と二人取り残されてしまった時(Karte.27)、市川の心の壁を感じた時(Karte.43)。それぞれの泣きも、この容量超過だと思います。全9回の泣きのうち、7回はこれでしょう。
あとの2回は、緊張緩和からくる泣きですね。Karte.39直後のスキットがまず1回。見舞い中に倒れてしまった市川の風邪が深刻なものでなかったと知り、緊張から解き放たれた結果、涙していました。
残りの1回がこれ。僕の感覚ではこれも同じカテゴリです。
Karte.6「僕は嫌だ」のワンシーン。直前、小林に自転車投げを問題視された市川が、アクセルとブレーキを間違えたのだと言い訳したのを受けての涙です。
笑いのツボがずれている山田ですが、ただこの言い訳だけで、泣くほどに笑ったりはしないでしょう。
学年的にも肉体的にも優位な南条にナンパされ、腕を掴まれた山田は、やっぱり怖かったんだと思います。諦めてLINEを教えざるを得ないところまで追い込まれていました。
それが自転車の投入で蹴散らされ、更に、とぼけた市川の言葉があった。だから緊張から解き放たれて、泣き笑いしてしまった。そう解釈できます。
容量超過と緊張緩和。
いずれの類型でも言えるのは、泣きが心のリセットを伴うということ。現実世界でもそうですよね。山田はそこらへん物凄く極端なんですが。
たとえば、容量超過の例で挙げたKarte.2。
授業中に涙する山田を発見した市川は、ヘリコプターの飛来に俄かにざわつき、窓際の山田の方を見遣るクラスメイトを、疎ましく思います。
そこで、好奇の目から山田を守るため一計を案じ、発表直後のグループ発表模造紙にカッターナイフ一閃、切り裂いて見せるのです。これで注目を奪えば山田の泣き顔は発見されないという、捨て身の一手。陰キャの市川には大冒険です。
しかし、山田は次の瞬間、無邪気に関根(今回、山田が泣く原因となったリライト主)と談笑しているのでした。
リセットが早いんです。もちろん、マンガならではのフレーバーは込みでしょうが、山田の切り替えの早さは他にも随所で描写されており、大きな特徴であると言えます。
以前、山田について「容姿に優れ、愛される気質を持つ彼女は、劣等感や挫折と縁が薄かったのでしょう」と書きました。
周囲から赦されやすいから、イージーモードで日常をエンジョイでき、決定的な劣等感や挫折を味わうことは少なかろうという推量です。
これを書いた時には、文脈の都合から由来を容姿、気質に限定していましたが、本来的にはさっき挙げた「リセットの早さ」も横並びでしょう。(良くも悪くも)決定的な劣等感や挫折を味わう前に気持ちを切り替えてこられたんじゃないか、ということです。
言い換えれば「よく泣き、よくリセットするのが、山田のバイタリティの源泉の一つである」ともなります。
☆ 山田杏奈を泣かせてほしい
4巻収録分以降の山田は、作中、一度も泣いていません。
コミックス未発売なので確認し尽くすことはできませんが、そう記憶しています。
正直、そのココロは分かりません。踏み込んで解釈するならば、年末年始の “ハレの場” ゆえに気を張っていた、というところでしょうか。
普段はあの頻度なので、感情の赴くまま泣いているんでしょうが、この勝負どころばかりは気を張って心が溢れないようにした、と。それゆえ、緊張緩和できる機会もその場では無かった、と。
実際、普段なら泣いてもおかしくないような出来事がいくつかあったんで、無風だったからというわけではないと思うんですよね。
いずれにせよ、そんな久しく泣きの無い状況で迎えた最新エピソードが、Karte.60「僕は楽しいのに」でした。
【更新】思春期ラブコメ「僕の心のヤバイやつ」最新話が更新されました。軽薄になれたなら
— 桜井のりお@僕ヤバ④2/8発売 ロ⑦発売中 (@lovely_pig328) December 22, 2020
続き→ https://t.co/WdYVzaulRe #僕ヤバ
最新④巻は2/8(月)発売!
特装版https://t.co/jwZOZFLn0A
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ここでの山田も泣きません。
しかし笑うことも、ほとんどありません。
市川負傷後でも、公園デートや初詣はハレの場でした。始業の日や調理実習はその後夜祭。
全て終わった今回は、普段どおりの “ケの場” になりました。
地味な日常は、楽しいだけでない「営み」の連続です。
そこで市川を介助したい。でも、しきれない。これまでのエピソードでも再三描写されてきた行動の雑さが、一斉に邪魔をしてくる。
そんな状況に、山田は気落ちしていました。ごめんと謝り続けるしかないようでした。
コミックス3巻までの山田を考えるなら、ここで泣いていいはずです。得意のリセット、再起動の一択でしょう。
実際、かつて市川が山田とのツーショットを辞退した時のような、目に涙が浮かんでいるコマまではありました。
でも、泣くまでには至らないんです。
やっぱり、相手が市川だからですよね。
いや、市川というか、山田の中に内面化されて彼女を見つめている “理想の市川” ですかね。優しいところもあるけれど、クールで厳しい市川です。
その眼鏡にかなう介助となればハードルは高くて当たり前。こんなことでは泣けない。泣いてリセットする自分が、赦されるかどうか分からない。
そういう呪いに縛られているんじゃないでしょうか。
Karte.57で市川姉に介助を託され請け合ったことも、Karte.58で「なにがごめんなの?」と自分を頼らない市川にマウントを取ってみせたことも、結果として呪縛を強くしているはず。
あれで泣き言を言うわけには行かない、頼れる存在であることを証明したい、そう思い詰めてしまっているのかもしれません。
なんだか、自家中毒の深みにはまっているような気がします。
だとすれば、山田は市川が見えていない、ということになるでしょう。山田に内面化されている方でない実物の市川は、そんなに多くを求めていないし、彼女のごめんを重く感じています。Karte.46で彼女が言った「実物も見て」は、今まさに、彼女本人が受け止めるべき言葉かもしれません。
市川もまた、内心に浮かぶ「そんなに気にするな そばにいれるだけで楽しい」を言えないという一点において、山田が見えていないのと同じです。彼女に必要なのは「ハンカチは持っといた方がいいな」なんて親身だけど無意味な助言(そんなことは一番本人が身に染みている)ではないでしょう。
ふたり、距離だけ近づいて、心はすれ違ったままなのかもしれません。
そんな状況で、市川の怪我の遠因が自分にある、と山田が知ってしまったのだから最悪です。
問題解決のためには、どちらももう少し相手を知る必要があると思われます。
“個人的には” 市川の方に、より頑張ってほしいところ。
山田が思いきり泣いてリセットできるような振る舞いを、そして本当の彼の気持ちを知ってもらうための努力を、市川に率先してもらいたいと思うわけです。
今回、山田が泣いているシーンばかりチェックし考えてきた僕は、気になって仕方がない。Karte.43での市川の仕打ちと山田の辛さが、ハグで有耶無耶になっていること、改めてモヤモヤする。
結構ひどかったのに、彼、ごめんも言えてないですからね。
だから市川にはこの分も含めて山田の思いに報いてほしい。この不均衡は解消してもらいたい。そう、勝手に思っているわけです。