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【僕ヤバ】 目黒の第十二中学校 2年3組担任はヤバイのか問題

 Karte.58でちょっとしたサプライズだったのは、担任(前田先生)が市川と山田の関係を認知していたこと。ネット上でも、少しどよめきが上がっていました。

 怪我で活動しづらそうな市川に、”一番仲の良い”山田の介助を受けてはとサジェストしたんですよね。
 恋愛的な関係と認識されているのかは分かりませんが、頬を赤らめ伝えた担任の姿からは”されている”可能性も感じられました。

 二人、教室での目立った交流は無かったように見えましたが、描かれてない部分で匂い立つ何かがあったんでしょうか。担任にも伝わるような何かが。

 まさか、あの定点カメラが本当に設置されてたわけではないんでしょうが。



 まあ、プルーチェ事件や養護の先生の目撃情報で、職員室内周知の事実になっているのなら、それは納得できる話。教員ネットワークを舐めてはいけないということでしょう。

 あっ、そういえば職員室でのお菓子問答もありましたね。市川が山田をチートで救った、あのお手柄エピソード(Karte.20「僕は弁護した」)。あるいは、あれで近い関係を認識できないなら担任として問題あり、という話なのかもしれません。

 ただ我々読者からすると、ちょっと裏をかかれた感があったわけです。

 小林や足立などのクラスメイト、あるいは山田の母親や、まだ見ぬ山田のマネージャー(諏訪)。
 彼ら彼女らが二人の関係を知っているのか、いつ知るのか、また知ったあとどうなるのかといった議論は、これまでネット上で頻繁になされてきました。

 しかし、担任はどうかという議論は(僕の観測範囲では)見かけたことがありませんでした。本編への登場機会も、それなりにある人なんですがね。つまりは死角になっていたということでしょう。

 我々は、ラブコメを見るときラブコメ脳になっているので認知にバイアスがかかります。次はどういう展開かと考える際に、過去のラブコメ事例から答えを探してしまうのです。
 また、作品内での過去の描写から展開を予測しようとしたり、伏線の回収機会を見いだすことに躍起になる傾向があったりもします。

 そのため、過去に印象的に描写されていないことやラブコメとしてあまりドラマ化されないこと(担任バレ)は、思考の外に置かれがちです。現実には当たり前に起こることであってもです。

 そこに死角ができます。(僕ヤバやラブコメを)分かっているがゆえに分からなくなってしまっている状況と言えるでしょう。死角は語られないので、多くの語られることの蓄積にまぎれ、ますます死角になっていきます。

 そういう死角を、ポンと今回のように呈示されるとサプライズです。伏線回収とはまた違った新鮮な驚きがあります。同時に(ドラマティックばかりでない)リアルな世界との通底も感じられます。視点がいったんリセットされて、より状況が分かる感覚が起こるんです。

 さて、僕ヤバという作品自体にもそういう死角があるのかもしれません。
 ふだん本編の中でことさら語られることなく、ラブコメ脳の網もすり抜け、サプライズの源泉として温存されているもの。改めて呈示されると視点がリセットされるサムシング。

 桜井のりお作である、ということです。

 最新作である本作ではその片鱗も感じさせませんが、過去作は怪しい大人の伏魔殿。ラブコメ無用のスラップスティックで、好事家たちをフィーバーさせていました。そこにスポットが当たれば今回の担任を見る目も変わります。


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「山田に対する熱い思いを頬を赤らめながら吐露するヤバイ教師と、それに衝撃を受けるツッコミ役の生徒」
 そういった構図に見えてしまいます。昔よく見ましたよ、こんな絵面。実際そういうつもりで描いたのではと、実は初見でも思ってしまいました。
 擬音もポロリで語感がアレですし、もう本当に何をか言わんや!


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 遡って見返すと、上の画像の手書きキャプション「先生」も気になります。桜井とヤバイやつ(本来の意味)を描きたい衝動との、闘いの痕跡に違いありません。
 この男が「先生」であることを忘れてしまわぬよう、原稿に覚え書きし、自分を戒めていたのでしょう。「先生」なのだから間違っても暴走させてしまうぬように、と。

 だってこれ、普通ならいらないですよね。ちょこちょこ登場してるうえ、お菓子問答では敵キャラとして降臨、市川が山田を「さん」付けで呼ばなくなった陰の立役者でもあるんですから。対読者だけを考えるならノーキャプションでも通じるはず。今回本編初登場の山田の友達とはわけが違うんです。

 あるいは、考えすぎと思う人もあるかもしれません。おまえがヤバイよと思う人もあるかも分かりません。でもまあ、それはさておき、未読の人のために過去作の大人たちを振り返ってみましょう。

(以下、僕ヤバ・ネイティブの読者にはセンシティブな内容)




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森繁博士(画像右 登場作品:ロロッロ
 主人公・ちとせ(画像左)の父。サイエンティスト。精巧なロボット・イチカ(画像中央)を発明した天才だが、ちとせからは少女誘拐犯と思い込まれてしまう。普段からこの風体なので、なにかを誤解されてもしょうがない。
 なお、このマンガも僕ヤバ同様に中学校を舞台にしているが、同じ心づもりで読むと度肝を抜かれる。惹句の「ハートフルすぐ脱ぐJCロボコメ」もマッドネス。

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丸井草次郎(画像右 登場作品:みつどもえ
 ひとは(画像左)ら三つ子主人公の父。見た目が不審者という一点で、気づけば職務質問や連行をされている。でも中身は常識人の範疇。本当はこの括りに入れたら申し訳ない人だが、扱いがぞんざいなのに慣れてそうなので、まあいいかなと。
 画像は椅子と二人三脚の練習をした結果、半裸でロッカーに隠れるまでに追い込まれていたところ。基本こんな扱い。

画像5

緒方一郎太(画像左 登場作品:みつどもえ
 主要登場人物・緒方愛梨(小学生。実はこっちの方がヤバい)の兄。とんでもないシスコン。見た目は好青年の警察官だが、今回紹介の三人の中、いや両作品全ての男性キャラの中でも群を抜くクレイジー・ガイ。まずは本編を見てほしい。
 画像は、愛梨が狂信的に恋焦がれる佐藤(小学生)の父親(サンタクロース)を射殺しようとした瞬間。さっき、見た目は好青年と書いたんだが……。


 どうです、この大人たち。
 大人か子供か思案する山田も、これならずっと子供でいい、と思うはず。


 
 果たしてこんな大人たちが出てきたら、僕ヤバはどうなってしまうのでしょう。 ……って「桜井のりおの過去作脳」になってますね。長いこと取り乱して、すみませんでした。
 まあ、


桜井:はい、『僕ヤバ』は荒唐無稽にしないように意識してます。「こんなヤツ、現実にいないだろう」って思ってほしくなくて、リアル感を強めに。外見でも、変な見た目の人を出さないようにしてます。


 実際はこんな感じということなので御安心あれ(マッチポンプ)。

 でも三十路が市川山田に絡むのとか、夢の番外編として見てみたいところ。

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