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増改築プロジェクト 申請どうする?

今回のプロジェクトは申請のハードルがとても高かった、だがこのノウハウは同じような難しい物件で活かすことができると思う。同じやり方が全ての物件に適用できるわけではないというのが建築設計の難しさだと思う。もし似たような問題がある物件であっても解決のアプローチは微妙に違ってくるのだと思う。マニアックな話題になるけれど今回の経験を記してみる。たぶん長文になります。
こういうことを言うのはよくないのかもしれないが、今回のように苦労して法的な整理をせずに増築したり、新築したりしていることは正直あると思う。その全てをダメだと言うつもりはない、それぞれの事情にあったやり方をするというのがリアルな現実だからだ。しかし、法律の取り扱いが厳格になってきている昨今でそうしたグレーな部分を残すことは将来世代の負担になるということを自覚しておいてほしい、自分の世代で困らなくても次そしてその次の世代が苦労をするかもしれない、その苦労についてここで詳細に記すつもりがないが、建築士にリスクを含めて説明してもらってほしい、そのリスクに納得して行うことは施主様がやろうと言うならばある意味それは正義だと思っている。(建築士がそれに同行できるかどうかは別の話だが)

問題は何か

今回、申請上の問題は大きく分けて2つある。この2つのうち1つの方がとても大きいのだが、2つのことは同時に絡んでくるので、2つ並列に並べてみる。
1つめは増築したい建物の確認済証、検査済証がないということ。今回は10㎡以上の増築を目的とするので、増築をする建物に「確認申請」という法的に問題ない計画の建物であることのお墨付きをもらう必要があるのだが、増築したい建物に「検査済証」「確認済証」がないということが発覚した。要は増築したい建物が合法であるということが証明できないのである。
この時点で多くの設計者が10㎡を超える増築を諦めるかもしれない。しかし今回はお施主様が今ある建物を残したいという強い希望があった。そこで、何か方法はないか探し回った。
2つめは敷地を分割する必要があること、この方法については私自身、経験がありそこまで難しいことでない場合も多いのだが、今回の場合は1つめの問題と絡み合う。なぜ敷地を分割するか、それは1つの敷地に2つの家が建てられないからである。この敷地は現在母屋があり、離れとしての門屋を住居に変えようとしている。建築基準法で家と判断されるのは、キッチン・トイレ・風呂の3つがそろっていることだ(※)。1つの敷地に水回りが整った家を2つは建てられない。だから、敷地を分割する必要がある。(分割とは分筆ではないこと、要注意)

確認申請までどうもっていくか

上記のように既存建物に確認済証がないことに対してどういう方法で申請を進めたか、結果を先に言います。いくつかの段階を経る必要があった。
①現行法規に適合するように改修
②民間確認審査機関による法適合チェック
③特定行政庁に法適合確認の報告
④民間確認審査機関による確認審査
⑤増築の確認済証
このやり方にたどりつくまで本当に苦労しましたが、改修を行う前に役所と民間審査機関と調整し、上記の順序で進められることを確認を取りました。ここでのポイントはいくつかあるのですが、(これは日本全国ほぼ共通と思うのですが)確認審査などの民間への移行がポイントになります。現在は民間審査機関でも例えば検査済証がない建物の法適合調査が行われています。
それを踏まえると、上記の③は必要なの?と思うかもしれません。今回は民間のノウハウをうまく活用し、民間だけではできないことを行政にも協力してもらって行っています。
回りくどく書いてしまいましたが、今回の順序での③特定行政庁に法適合確認の報告、これがなければ④に進められないということがあります。民間だけで済ませられればと思う方も多いかもしれませんが、今回は無理でした。この③があることで、調整が多いのはもちろんのこと、様々なハードルを抱えることになりました。

法適合改修について

古い建物を現行法規に適合させるためにはたくさんのハードルがあります。構造的な部分について今回は構造設計者に協力してもらい、民間審査機関と方向性を検討しながら進めました。現況の図面と法適合のための改修図面を作成し、民間審査機関にチェックしてもらいます。今回の重点的な改修は基礎を作り柱と土台を緊結させること、耐力壁を追加して壁量を確保することでした。設備的には24時間換気や火災警報器の設置が必要になります。

苦労をする価値があると考えられるか

今回の法適合をざっくり書きました。協議・設計も苦労しますが、現況建物の法適合改修など、それなりにコストがかかります。それを良しと思えるかこれはお施主様によると思います。設計者として思うことは、未来のことをよく考えて計画してほしいということ、建物や土地という不動産は継承することもあるし、資産として売買したりすることもあると思う、その度に専門家に相談してほしいと思います。法的に中途半端なものを買ってしまったり、今簡単にできるからといってごまかしてしまうと後で困ることもあり得ます。専門家は色々なケースを踏まえて相談に乗ってくれると思います。将来世代に明るい未来を残すことが現役世代の使命だと思います。

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