算数におけるかけ算の順序について(単位のサンドイッチの正しさとは)

(注:これは学校教育におけるかけ算の順序の固定について肯定する意図はありませんが、その成り立ちと意味について理解を深めるためのものです)

小学校2年生の問題です。

【問】4人の子供に8枚ずつシールを配るには何枚のシールが必要か。

【解】
☓4×8=32枚
○8×4=32枚

多分、大多数の人は「なんだこれは、子供がかわいそう!」って思うんじゃないでしょうか?(私はそう思ってなかったんですが、Twitterを見ると阿鼻叫喚だったので)

ではなぜこんな採点になるのか?

答えは、算数と数学の違いにあります。



まずはじめに、算数とは、文部科学省が出している小学校学習指導要領によれば、

「日常の事象を数理的に処理する技能を身に付けるようにする」

ことが学習目標として定められています。

対して数学は、

「事象を数学化したり,数学的に解釈したり,数学的に表現・処理したりする技能を身に付けるようにする」

ことを学習目標と定めています。


次に、数学におけるかけ算には交換法則というものがあり、

4×8と8×4はどちらも同じもの(32という数値)を表します。

じゃあやっぱりどっちでもいいじゃないか!って思いますよね。

今回これが×になった理由は、「これが算数の文章問題だから」です。



どういうことか説明するために、まず数学のことは一度忘れて、算数の考え方(一部の学校においての)について書きます。

かけ算とは、あるものが何倍かに増えてある数になることを言います。

 これは、(かけられる数)×(かける数)=(ぜんぶの数)

と表すことができます。

他に (ひとつ分)×(いくつ分)=(ぜんぶの数)とも表します。

(かけられる数よりと書くよりひとつ分と書く表現の方がわかりやすい人が多いと思いますが、かける数という表現は乗数を表しているため、より正しい表現はかけられる数です)

この考え方はどちらも被乗数×乗数=答えの順番となっています。

被乗数とはつまりxになる数字だと思ってください。

8×4=32は、8x=32でもあり、4x=32でもあります。

どちらもxになれるのに、なぜ順番を決めるのか?ですが、

1つは単純に、8枚のx倍=32枚

は自然に成立していて、

4人のx倍=32

だと、4人が32人に増えたように見えます。

この反論としてよくあるのが、

「カードを1枚ずつ配ったとして、4人に1枚ずつ配って、それを8回繰り返した」

です。

つまり

カードを1枚ずつ持ってる4人のx倍=32枚

これは意味が通ってますが、1枚ずつ持った4人を「4」と表すのはわかりづらく、「カードを1枚ずつ持ってる4人のx倍」も子供には難しいです。

無理やり変換をすると、

(カード4枚)×(x)=32枚

となりますが、これはカード4枚が1かたまりで、それが8倍になって32枚だと表す式になってしまい、数学的な結果としては一緒ですが、問題文とは事象が全然違います。

つまり、

(カードを1枚ずつ4人に配る)×(x)=32枚

(1×4)×(x)=32

答え:32枚

となる訳です。

しかし、算数における考え方では事象を抽象化して捉える数学的な考え方ではなく、「日常の事象を数理的に処理する技能を身に付けるようにする」ことを目標にしているので、あくまで子供向けに身の回りのことだけで(算数の概念をほとんど使わずに日本語でやさしく)教えなきゃいけません。

先ほどのこれを見ると、

(1×4)×(x)=32枚

かけ算の(かけられる数字)の中にすでにかけ算がありますね。

これはかけ算の説明を表す日常的な事象として全く適切ではないので、この教え方だと×です。


まだ納得のいかない方もいるかも知れないので、もう少しわかりやすい例にしてみます。

リンゴ4個ずつが乗ったお皿が5枚あります。

これを数式に表すとき、数学では4×5でも5×4でもいいですが、単位を無視して抽象化して数字だけを拾うと、答えは5×4=20

単位は抽象化されているので、20個にも20枚にもなります。

これだとお皿が20枚ある可能性も示していますね。

一方算数では、4個のリンゴに着目すると、4個と「同じもの」が「5箇所」にあるので、4の5倍、つまり4+4+4+4+4=20個で、4×5だけが正解です。(お皿に着目すると書いてあるとおりの5枚)

比較したとき、リンゴ4個ずつが乗ったお皿が5枚あるという日常事象について、より正確に数字を使ってとらえているのは算数の方ではないでしょうか?(リンゴの数とお皿の数を正確に数えている)

このとき仮に、

「リンゴが4つ乗ったお皿」が1つ増えたらリンゴは4個増えますが、

「お皿に乗ってないリンゴ」が4つ増えてもお皿は増えませんし、

「お皿」だけ増えてもリンゴは増えません。

これは理解できると思いますが、2つの計算方法では結果が異なります。

実際に順番に説明していきます。


・「リンゴが4つ乗ったお皿」が1枚増えた場合

これは上で説明したとおりです。

(算数の解き方)

=リンゴ4個×6枚=リンゴ24個、お皿6枚

(数学の解き方)

=リンゴ4×お皿6=24(個,枚)


・「お皿に乗ってないリンゴ」が4個増えた場合

リンゴ4個が乗ったお皿が5枚あって、お皿に乗ってないリンゴが4個ある。

(算数の解き方)

=リンゴ4×お皿5+リンゴ4=24個(お皿は5枚)

リンゴはお皿に乗ってないため「同じもの」ではないので、かけ算には入れません。

4×6と同じ答えにはなっていますが、リンゴ×お皿でリンゴを数えているので、4×6は作れません。

(4つのリンゴが乗ったお皿が5枚)+お皿にない4つのリンゴ

です。「同じもの」の何倍かにしないとかけ算はできないということです。


(数学の解き方)

リンゴが4個乗ったお皿×5と、お皿には乗ってないリンゴ4個がある。

=(リンゴ4×お皿5)+(リンゴ4×お皿0)=20(個,枚)

リンゴ×お皿でかけ算をすると計算がおかしくなってしまいますね。

これを正しく直すには、

お皿の存在を消し去って、これはリンゴが5か所(5グループ)にあって、1箇所増えた、または4つ増えたものとするしかありません。いわゆるアレイ図を展開して、「縦軸の場所目盛り5」と「横軸のリンゴ目盛り4」に変換したわけです。

そもそも勝手にお皿の存在を消し去るのが日常的な事象に対する考え方としてどうなんだということもありますが、とにかく4つのリンゴが5か所に置いてあるだけとしたとき、4つのリンゴを新しく1箇所に置くということは、4つのリンゴを合計6か所に置くので、縦軸の場所目盛りが1増えて4×6の式となるので、答えは24個です。

とりあえず数学的に解くことはできた気がしますが、数学としてアレイ図を用いる場合、かけ算には交換法則があるので、縦の目盛りと横の目盛りは、乗数と被乗数の区別をしないということが数学的には正しいはずです。

であれば、リンゴが4個増えたことは4×5のアレイ図に適当な4つのマスが増えて4×5+4の式ととらえることもできそうで、4×6になるようにしか並べないのは勝手な解釈な気がしますが、とりあえず触れないでおきます。


・「お皿」だけ増えた場合

(算数の解き方)

=リンゴ4×お皿5+お皿1=20個(お皿は6枚)

お皿にリンゴは乗ってないため条件が違うので、かけ算には入れません。

(数学の解き方)

=リンゴ4×お皿5+お皿1=21(個,枚)

またおかしなことになってます。

アレイ図でいうと、場所目盛りが+1になったので、合計値が1増えてしまっています。

タチの悪いプログラミングみたいになってきましたが、お皿を無視するという条件を使うと、お皿の枚数をアレイ図でカウントすることができません。

先ほどのようにお皿の枚数=リンゴを置く場所の数としても、

=リンゴ4×置く場所6=24(個,枚)

リンゴ4つが5皿分と空のお皿が1つなので、合計値24もどう考えても間違いです。

どうやらアレイ図は問題文全体を表すことはできず、1つの計算につき1つを使わないと上手く動かないようです。

(もっと良いプログラミング方法があれば教えてください)


3つのパターンをやってみた結果、

(算数の解き方)

=リンゴ4×お皿6=リンゴ24個 お皿6枚 〇

=リンゴ4×お皿5+リンゴ4=リンゴ24個 お皿5枚〇

=リンゴ4×お皿5+お皿1=リンゴ20個 お皿6枚〇

(数学の解き方)

=リンゴ4×お皿6=合計24(個,枚) リンゴなら〇

=(リンゴ4×お皿5)+(リンゴ4×お皿0)=合計20(個,枚) × 

=リンゴ4×お皿5+お皿1=合計21(個,枚) ×

このようになりました。

算数より数学の方が高度なことをやっているのに、算数の方が勝率が高いしリンゴの数もお皿の数も正確に数えることができています。


これはなぜか、答えは

「そもそも問題文を抽象化しない考え方は数学におけるかけ算じゃかったから」

です。

そのため、事象を抽象化したとき、それは日常的な解釈とは捻れが生じてしまったのです。

数学的な正しさと算数的な正しさは違うということです。

これを足し算として見たとき、リンゴを数えるときにはお皿5枚は関係なくて、ただ4個のリンゴが5個ずつあるだけです。
(お皿を数えるときは1+1+1+1+1)

足し算の場合は数学も算数も解き方は同じで、

「(リンゴが4つ)乗ったお皿」が1つ増えたらリンゴは4個増えます

(4+4+4+4+4)+4=24

「お皿に乗ってない(リンゴが4つ)」増えてもリンゴを数えてるので変わらずリンゴは4個増えます。

(4+4+4+4+4)+4=24

「お皿」が増えてもリンゴの数には影響しません。

(4+4+4+4+4)=20

このことからわかるように、算数の解き方は実際は足し算の集合体について答えていただけに過ぎません。数学的にはかけ算ではない解き方を、かけ算かのように見せていました。

何故かそんなことをするかと言うと、算数は「日常の事象を数理的に処理する技能を身に付けるようにする」ことが学習目標として定められているからです。

日常には乗数なんて存在しませんし、×も存在しません。(便宜的に事象を抽象化してxを使うことは可能です)

究極的には、日常に「4」は存在していません。

あるもの1つを数えて4回数えられたから「4つ」とは言えますが、1の積み重ねではない「4」はありません。

だから算数では8×4は、(8つが4つ分)か(4つが8つ分)にしかならないんです。

このとき、〇つ分は常に乗数になるということです。

日常のかけ算は、あるものが〇つ分に増える事象がかけ算としか言えないのです。

そのため、日常に起こる足し算の集合体を便宜的にかけ算とすることで、数字という概念を使う数学への足掛かりとしているのです。

それこそが、4+4+4+4+4=4×5ということです。

これまで説明してきたように、日常的なかけ算は足し算の集合について話しているのに対し、数学では事象を抽象化した概念を使っているので、厳密には同じものではないのですが、便宜的に同じものだとして教えているのです。

では、先ほど数学的なかけ算で解けなかった文章問題に戻ったとき、数学としてのかけ算を理解するために、日常の足し算を便宜的に数学的なかけ算に近づける方法はないものでしょうか?

それが、「かけられる数(ひとつ分)」と「かけられる数(いくつ分)」です。

リンゴ4個×お皿5枚=20(個,枚)

これだけだと、リンゴとお皿の合計が20なのはわかりますが、リンゴが20個なのか、お皿が20枚なのか見えてきません。

問題文さえ解ければいいのであれば、問題文は必ず最後に「~は何個か?」などのように単位の指定があり、これに合わせた単位のもの(個)をかけられる数として回答をすればいいわけです。

リンゴ4個ずつが乗ったお皿が5枚あります。リンゴは全部で何個?

と聞かれたとしたら、リンゴがかけられる数なので、

リンゴ4個(かけられる数,ひとつ分)×お皿5枚(かける数,いくつ分)=リンゴ20個

になりました。

「個」という単位でかけられる数(乗数、x)を挟むことで理解をしやすくしています。

いわゆる単位のサンドイッチという理屈です。

しかしそれでも「リンゴ4個分×お皿5枚分ってなんだ?」ってなりませんか?

先ほどの(算数の解き方)では算数ではリンゴの数とお皿の数をそれぞれ数えていたので、矛盾は生じていませんでした。算数を数学に近づけると矛盾が生じるのでしょうか?

そこで、かける数とかけられる数の性質を正しく使って解決していきます。

問題文を、次は「かける数」から先に探して読んでみます。

「リンゴ4個ずつが乗ったお皿が5枚」とあるので、

これはリンゴについて問われているので、xは4ではなく「5」の方です。

つまり、

(リンゴ4個分が乗ったお皿1枚)×(5枚)と解くことができます。

これを(いくつ分)の概念にあてはめると、

(リンゴ4個=お皿1枚分)×お皿5枚分

とすることができ、、リンゴ4個で1枚分に対して、お皿は5枚分あるので

リンゴ4個に対して1枚×5枚=リンゴ20個に対してお皿5枚

となり、先ほどと同じようにりんごもお皿もちゃんと枚数が出ています。

もう少しわかりやすく言うと、

ひとつ分(リンゴ4個が乗ったお皿の数がひとつ)×いくつ分(5枚分なので5つ分)

お皿が5倍に増えたので、リンゴ4個が乗ったお皿は5つになり、リンゴ4個×5つとお皿1枚×5つで、合計20個のリンゴとお皿5枚です。

これはxで表すと4x=20とすることができます。

(リンゴ4個=お皿1枚分)×(x枚分)

このとき4個のリンゴが乗ったお皿の数が1枚増えるということは、4個のリンゴが乗ったお皿の数が×1から×2に、xが1つ増えることを示します。

(4個のリンゴが乗ったお皿1枚分)×(6枚分)

これにより、

4×6=24

とすることができ、(x枚分)の数字を1つ増やすしたとき、リンゴは4つずつ増えるので正しいです。


これを交換法則で5×4=20個とした場合は5xとなりますが、その場合の式は

5枚分×(リンゴ4個=お皿1枚分)

ですが、5枚分というのは「いくつ分」を表しているので、これは

x×(リンゴ4個=お皿1枚分)

が正しく、「リンゴ4個が乗ったお皿」は常に被乗数です。

ゆえに、乗数と被乗数を固定して計算することは文章問題としては正しくなります。



ではあらためて、冒頭のテスト問題を振り返ります。

4人の子供に8枚ずつシールを配るには何枚シールが必要か。

何枚か聞かれているので、xは枚数以外の部分、つまり4人の部分です。

8枚ずつのシール(ひとつ分)×4人分(いくつ分)

これで意味が通るので計算できます。

1人につき8枚のシールがあるので、

(1人分=8枚)×4人分

4人分=32枚

答えは4人分で32枚なので、正しく解けました。

念のため、交換法則も試してみましょう。

4人分(ひとつ分)×1人8枚ずつのシール(いくつ分)

4人分×(1人分=8枚)

4人分=32(枚,人分)

答えとしては完璧に合っていますが、これは

4人分x=32枚

について答えていて、事象として4人分が32枚に変わったわけではないので、乗数と被乗数の意味がわかっていません。

4人分×8枚の式は、32枚という答えはでるけど、そこには問題文では問われていない32人という間違った数字も含まれているということです。

さらに突き詰めると、

4人×8枚=いくつ?(単位は不明)

というだけの式があったとき、何が聞かれているかは不明ですが、

数学は4×8=32(人,枚)しか表せないですが、算数ではそこに4人と32枚のものがあるということが計算できます。

今回のテスト問題では、全部で何枚か聞かれているので、答えの32枚が合っているので〇ですが、その途中式で4人分=32枚ではなく、4人分=32枚(32人)という数字が出る式と同じ式を使ってしまったので、文章を数式に表す能力としての評価に✖がついたという訳です。

ちなみに、カード配りの概念で「4人に対して、1人につき1枚ずつ配ることを8回したら4×8になる」という説明をするケースが見られますが、

これを式で表すと乗数は8回、被乗数は(4人に対して1枚ずつ配る)で、

(4人に対して1枚ずつ配る)×(8回)

(4人に対して1枚を1回)×(8回)

(4人に対して,1枚×1回)×(8回)

(4人に対して,1(回,枚)×8回)

(4人×1(回,枚)×8回)=(32人、32(回,枚)、32回)

になるので、これもやはり正しくありません。

算数の文章問題を日常に置き換えて正確に解くためには、かける数とかけられる数の順序が大切になります。

ヨーグルト4パック×3パックが欲しいと言われたら、4個入りが3つ欲しいと考えるのが算数的な解釈で、合計12個というのが数学的解釈。

4パック×3パックの品物の注文を受けたら4パックと3パックのどちらが被乗数なのか確認するべきと言うのが算数で、合計数が12であればどちらでも良いというのが数学的解釈。

腕立て10回×2回と書いてあるとき、

10回を2回繰り返すべきで、2回を10回でもいいとか、20回を一気にやらなきゃいけないと思わないのは、この数式の意味を日常における情報として捉えているからです。

数学的に2×10は10×2でもいいんだよと教えると、この意味の違いの説明ができず、子供はじゃあ腕立て2回×10回って書いてもいいんだって間違えてしまいます。

腕立て10回を2回繰り返すことをかけ算の式で表すなら

(腕立て10回)×(2)
なんです。

腕立て「10回×2回」と「2回×10回」は数学的には同じ20回ですが、
(腕立て10回)×2
(腕立て2回)×10
で意味が違うことを、どれが乗数なのか、順番をつけて教えているのがかけ算の順序指導です。



上記の説明も小学生に説明するには難しすぎますが、だからと言って抽象化して文章問題のかけ算の式も交換法則が成り立つ(4人×8枚=32枚でもいい)と教えることも、日常生活における解釈としては正しくありません。

だからあくまで便宜的に「かける数(乗数)とかけられる数(被乗数)を見つけて解くんだよ」、「答えと同じ単位のもので挟む(〇個×いくつ=〇個)んだよ」、と教える訳です。


ひとつ分×いくつ分=答え

という話も、正確には、

ひとつ分=「ひとつあたり(人)=どれぐらい(枚)」

であり、これを整理すると

(ひとつあたり(人)=どれぐらい(枚))×いくつ分

になるのです。

これは大人なら理解できるかも知れませんが、正直小学2年生に教えるのはかなり骨が折れると思います。

そのため、「算数における定義」を作って、それに従わせることにしたのです。

例えば、

「8×4は8+8+8+8にしかならなくて、4×8だと4+4+4+4+4+4+4+4だよ」と教えたりする訳です。

これは数学的には交換法則ができるので誤りですよね。

しかし、そうすると被乗数と乗数の意味を教えるのが難しくなります。

最初の問題文に合わせる場合、

(1人分=8枚)×4人

4人分=(8枚×4)

4人分=32枚

この問題を解くときに出てきた(8枚×4)については交換法則が使えるので、4×8枚にしてもいいはずです。

そこで、算数では単位に着目して、ひとつ分×いくつ分の順番で表すことを決めました。

4が8枚分あるのではなく、8枚が4つ分あると書くということです。

交換法則が使えるのは

8個×4個

などのように、単位が同じなど、事象の中でも乗数と被乗数の区別がつかない式の中だけです。

かける数とかけられる数が固定されているのであれば、事象の確認は足し算で簡単に行うことができるメリットもあります。


もちろんこれはあくまで便宜的なものであって、これだけではかけ算には交換法則があるということを教えることができません。

これらの説明は厳密には数学の説明ではなく、日常生活(文章問題)を「ものの持つ単位の意味をそのまま」に数字に置き換えたときの解釈です。

まず日常の算数的な考え方を身に着けたあとで、次は日常から離れて、「数学の世界」で、何枚ある、何人いる、というものはx枚いる、y人いる、などと抽象化できることを学んでいくのです。

極端に言えば、人間の住む世界と数学の世界は違うもので、算数は人間の住む世界について、数学は数学の世界について学ぶ勉強だということです。


ちなみに、文部科学省の小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説では、算数の順序について、

『被乗数と乗数の順序は,「一つ分の大きさの幾つ分かに当たる大き
さを求める」という日常生活などの問題の場面を式で表現する場合に大切にすべきことである』

とあり、これはまさに人間の住む世界の話です。

さらに続きの、

『一方,乗法の計算の結果を求める場合には,交換法則を必要に応じて
活用し,被乗数と乗数を逆にして計算してもよい』

これは、数学の世界における話です。

つまり、文章問題においては順序(被乗数と乗数の順序)を理解することが大切(8枚×4人)で、計算式においては8×4と4×8は逆にしても良いのです。


ただし、これは学習指導要領の「解説」であり、強制力はありません。

順序を理解することが大切だからと言って、この理屈を覚えさせる必要があるのかという疑問もあります。

結論としては、かけ算の順序については明文化せず、どう教えるかのやり方は現場に任せる、という趣旨が文科省の見解です。

任された現場は、

文章題ではかける数とかけられる数の見つけ方を順番を作って覚えさせるのか、

もしくは、

文章題だろうと順序はどうでもいい(日常生活についての問題を抽象的にに捉えて、問いに対する合計値だけが合っていれば良い)というどちらかになるわけです。(32枚32人はどちらも32という数値であるという回答でOKとする)

これでも問題を解くことができる方法ではあるのでやり方としては間違いではないですが、乗数と被乗数の関係をはき違えている(何の意味があるかがわかってない)可能性があるので、正しいやり方とは言いにくいです。

つまり、算数を取ったら数学的に正しくはなく、数学を取ったら日常の事象として正しくないわけです。

であれば、便宜的にどっちを取ればわかりやすいかというだけで学校が選ぶことになります。

手段としては、

①便宜的な算数のやり方をとにかく形式的に覚えさせる
(子供に正しく説明することは難しいが、日常の事象を正しく式で表せるようになる)

②日常生活を数学で表すことはあきらめて、事象を数学化させる力を養う

のどちらかになります。

このどちらかを選ぶことが、

「やり方は現場に任せる」

という意味です。

このとき、

①を教えるのであれば、突き詰めれば子供には理解が難しいかもしれませんが、大人になっても日常生活における乗数と被乗数の意味が正しく理解できます。(ヨーグルト4パック×3パック)

②を教えるのであれば、事象を数学化させる力がつきますが、それは数学の世界の話であって、人間の住む世界についての話ではないことを理解できないままになってしまう可能性があります。(腹筋2回×10回)

文章問題は日常の事象を数学化させる手段に過ぎない、と捉えているのであればそれは数学的には正しいですが、あくまでそれは数学の世界で正しいというだけです。

算数は日常を数学で表すことによって、数学と日常の関わりを覚えていくことが大切なので、日常においては4×8と8×4は同じではない(4個入りの卵8パックと8個入りの卵4パックでは同じ32個でも何人に対して配りやすいかという事象が違う)ことを理解をすることが大切という趣旨が算数です。

例えば1学年の生徒が20×4で80人、と言われたら1クラス20人×4クラスと常識的に理解できますが、このとき4×20人で80人とは言わず、20人×4で80人です。

なぜなら、生徒が90人いた場合は、30人×3クラス、81人いた場合は20人×3クラス+21人などとなり、1クラス=ひとつ分になることがないからです。

日常を式で表すということは、1学年の生徒は20×4+1人で81人です、と説明すれば1人はクラスとは別の存在だとわかるということです。

もちろん、算数とは別に数学の世界というものがあり、4×8と8×4は同じ計算であるということを理解することも大切です。

この理解がないと、中学以降の数学で急に抽象化されて難しくなったとつまずいてしまう子が出てくるわけです。

この2つの考え方は本来は同時に身に着けることができるもので、日常における算数の理解と数学の違いを身につけるためには算数の解釈を身につけなければならないし、それだけ覚えても数学の世界では通用しないので、学問として数学の世界についても勉強をしないと、事象を抽象化して計算することができなくなってしまうということです。


※筆者は「文章題の途中式における」かけ算の採点指導はなくすべきだと考えています。ガイドラインとして禁止すれば、算数も数学も日常とは違うけど便宜的に使っているんだなぁといつか理解できると思うし、わからなくてもそれほど困らないです。

被乗数の意味については、数字に単位をつけたままのかけ算をやらせたり、文章の穴埋めだったり、言葉や絵で答えさせても良いかも知れません。

一方、

数学と日本語は等しく変換できる←×

日本語で数学を表現できることがある←◯

数式を日本語として使うことができることもある←◯

文章問題は数学じゃなくて日本語で書いてある←◯

この理解ができない人が多すぎるので、算数としての考え方と数学としての考え方が違うことも教えるべきだと感じます。

そもそも数学は「ものの数」を数える概念で、単位が違うもの同士(枚,人)をかけ合わせて同じ単位にまとめようということ自体が無理があると感じます。

(結果的に入れ替えても問題のない単位同士もありますが)

4人×8枚が表すのは32という数値であり、32人,32枚という日常における事象ではありません。

一方、算数の考え方は32人や32枚という日常の事象を数学の4×8という概念に置き換えているに過ぎません。

日常生活の世界と数学の世界は別物で、日常生活のものの数を数えるときに数学は有用というだけです。

また、筆者は教育関係の人間でも数学の専門家でもない一般人です。

なんなら文系で数学は好きじゃないし、今となってはセンターレベルの数学なんてまともに解ける気がしません。

あくまで、一般人の感想を自分なりに論理的に述べただけであり、間違いやご指摘があれば優しく教えてくれると嬉しいです。


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