深夜徘徊老人を交番に連れていった話
先日の土曜日、僕は夕方頃から友人2人と一緒に、大宮ソニックシティ前公園で飲んでいました。コンビニでビニール袋をもらい、それに缶ビールを入れたまま飲むなどしました。なぜそんなアル中のおっさんみたいな飲み方をしていたかと言うと、酒を飲んでいるのを見られると警備員に怒られるからです。どうしてさいたま市の公園で酒を飲んでいて警備員に怒られるのか、その法的根拠は不明ですが、とにかく怒られます。それがめんどくさいので、僕らは酒をうまいこと隠しながらちびちび静かに飲んでいました。
友人2人は、終電前に電車に乗って家に帰りました。僕はそのあと、マンボウ下でも酒を出して朝までやっている、とあるガールズバーに行きたい気持ちになったけれど、行きませんでした。マンボウ下でそんな店に行ったことがバレたらインターネットの正義たちに叩かれると思ったからです。そのガールズバーには行かなかったのだけれど、ふと気が付いたら、僕は午前1時半くらいに泥酔した状態で大宮駅前をフラフラ歩いていました。
ちょっと休憩しようと思った僕は、ファミリーマートの前のベンチに座りました。しばらくすると、60台半ばと思われる男性が暗闇から現れ、微笑を浮かべながら僕に話しかけてきました。「北浦和に行きたいんだけど、こっちで合ってる?」と。その初老の男性が指差している方向は、北浦和の真逆でした。僕は苦笑いしながら、「いや、真逆ですよ」と教えました。
男性はオレンジ色の帽子をかぶっており、大宮アルディージャのグッズかと思ったけど、よく見たらただのオレンジ色の帽子だったので「違うんか~い!」と心の中で突っ込みました。その男性は僕のとなりに腰を下ろし、「マスクしてなくて悪いねえ」と言います。「僕がしてるから大丈夫ですよ」と答えました。僕のスマホで大宮駅から北浦和駅までの距離を調べてみたところ、歩いて1時間ほどでした。まあ一人で歩いて帰れない距離ではないな、と思ったため、途中まで一緒に歩くことにしました。
歩きながら、彼は「寅さんみたいな生き方がしたいものだねえ」と言います。僕は「僕もそう思います。男はつらいよが大好きで、全作品観たんですよ!」と自慢げに語りましたが、彼は特に何の反応も示しませんでした。初老の男性は酔ってはいないらしいのに、泥酔している僕と同じくらいフラフラ歩くし、少し歩いただけで「疲れたからちょっと座りたい」と言って大宮駅前の花壇に腰かけました。僕は思いました、「この調子じゃあ、北浦和まで一人で歩いて帰るのは難しそうだな」と。さすがの心優しい僕も、こんな深夜に北浦和まで1時間も歩くのはしんどいです。
そして僕の頭に浮かんで来たのは、「警察」という言葉でした。「警察」という言葉を使うと拒否されそうなので、できるだけ「交番」という単語を使って、「おじさん、その調子じゃ一人で帰れなさそうだから、一緒に交番に行きましょうか」と提案しました。おじさんは最初は軽い拒否反応を示したけれど、「我々は税金を払っているんだから、こういうときには交番に頼るべきですよ」と優しく説得しました。おじさんは僕にかなり心を開いていることもあってか、納得してくれました。
僕はおじさんの手をとって、大宮駅西口の交番に向かいました。このご時世だから、誰かと手を繋いだのは久しぶりでした。おじさんの手は温かく、アイドルとの握手会の思い出が頭によみがえりました。酔ったいきおいで交番に突入すると、僕はことのいきさつを男性警察官に説明しました。すると他の2名の警察官がおじさんに向かって矢継ぎ早に「お名前は何て言うんですか?」「ご家族はいらっしゃいますか?」「身分証明書は持っていますか?」などと尋ねるので、「もっとこう、こち亀の両さんみたいな対応はできないものですかね? せっかく僕が彼の心を開かせたのに、心を閉じてしまうじゃないですか!」と思いました。
僕は男性警察官に身分証明書を提示して、携帯番号を教えたところ、「もう帰って頂いて大丈夫ですよ」と言われ、残念に思いました。というのは、泥酔していたため、相手は誰でもいいから構って欲しかったからです。初老の男性は「私も帰っていいの?」と警官に言い、「おじさんは残ってもらいますよ!」と言われていました。僕はおじさんに「じゃあ、またね」と告げて手を振りながら交番を出ました。それから、「僕も泥酔していたのだから、警察に保護してもらいたかったなあ」と思いながら、自宅までふらふら歩いて帰りました。
いまとなっては、あの初老の男性はいわゆる「深夜徘徊老人」だったんだろうなと思います。軽い認知症が入っていたのかもしれない。僕があのとき神対応して交番に連れて行かなかったら、大変なことになっていたかもしれない。翌日ひどい二日酔いで苦しんだけれど、深夜に泥酔してあのベンチで休んでいたのは、結果的には良かったのだろうな。ガールズバーに行って酒を飲んで良かった。おっと、間違えました。ガールズバーには行ってないんでした。気が付いたら駅前で泥酔していただけです。いやほんとに。いつかまたあのおじさんと会えたらいいな、せっかく仲良くなれたんだし。また寅さんの話などをしたい。深夜徘徊状態ではないときに。
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