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緑色をした謎のおだんご事件

 僕は子供のころ、食べ物を食べるスピードが遅かったため、給食の時間はとてもつらい時間でした。小学5年生のとき、「緑色をした謎のおだんご事件」というのが校内で発生して大騒ぎになりましたが、実はその犯人は僕でした。

 給食が終わったあと、掃除の時間になりました。階段の掃除を担当していた子供たちが、先生に報告をしました。「階段の踊り場の手すりに、緑色をした謎のおだんごが置いてあります」と。その報告を耳にした子供たちは、こぞってその謎のおだんごを見に行き、「うわ! なにこれ! 気持ち悪い!」と口々に言って顔をゆがめていました。僕はその様子をドキドキしながら遠くから眺めていました。何をかくそう、その謎のおだんごを置いたのは僕だったからです。

 僕は給食の時間に給食を食べながら、「このままだと時間内に食べ切ることができないかもしれない…!」と思って焦りました。そして目の前の皿に乗っている食べ物を口いっぱいに詰め込みましたが、噛んでも嚙んでもなかなか飲み込むことができません。そこで僕は考えました。「この口の中の食べ物を、こっそりどこかに捨ててこよう」と。僕は口の中が食べ物でいっぱいになったまま、担任の先生に「ちょっとトイレに行ってきます」と言って席を立ち、教室の外に出ました。

 しかしなぜか僕はトイレには行きませんでした。トイレの個室に入って口の中の食べ物を吐き出して流してしまえばいいのに、なぜかそうはしませんでした。なぜなのかは分かりません。たぶんアホだったからだと思います。僕はなぜか階段を上って一番上まで行って、口の中の食べ物を両手の上に吐き出しました。そして、おもむろに踊り場の手すりの上にそれを置きました。それこそが、掃除の時間に発見されて大騒ぎになった「緑色をした謎のおだんご」です。

 緑色のおだんごを吐き出した僕は、何食わぬ顔で階段を下りて自分の教室に戻り、給食の残りを食べました。口いっぱいの食べ物を吐き出したことで、なんとか給食を時間内に食べ切ることはできました。しかしながら、そのあとの掃除の時間は、まったく生きた心地がしませんでした。軽い気持ちで吐き出したおだんごが、これほどの大事件になるとは思わなかったからです。

 僕が給食の時間に「ちょっとトイレに行ってきます」と言って教室の外に出たことを知っていた担任の先生は、僕がおだんごを置いた犯人なのではないかと疑っていました。その40代くらいの女性の先生に、「あれって田中くんが置いたんじゃないの?」と問われました。でも僕は白を切りました。「知りません。僕じゃありません」と。「僕がやったという確固たる証拠はどこにもないのだから、白を切りとおすことはできるだろう」と思っていました。そして実際、その「緑色をした謎のおだんご事件」の犯人が判明することはありませんでした。もう時効だと思うから言いますが、犯人は僕でした。食べ物を粗末にした上、他人に掃除までさせてしまって本当にすみませんでした。

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