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小学時代の同級生の女の子に宗教に勧誘された話

 もう10年以上前の話になりますが、ある日mixiを開くと、1通のメッセージが届いていました。小学生のころの同級生の白石さんからでした。そのメッセージは「田中くん久しぶりだね! もしよかったら今度2人で会わない?」という感じの内容であり、当時童貞だった僕は「白石さんって小学生のころ僕のことが好きだったのでは? そして今でも好意があるのでは?」と思ってほとんど有頂天になってしまいました。白石さんのことがとくに好きだったわけでも、とくに可愛かったわけでもないのに。

 僕は女の子と2人きりで会うことに胸をときめかせながら、約束の日に待ち合わせ場所の大宮駅前に向かいました。すると、地味めな大学生といった装いの白石さんがそこに立って僕を見つめ、微笑を浮かべています。僕は酒が大好きなので、一緒に居酒屋に行きたくてたまらなかったのだけれど、白石さんが「とりあえず喫茶店に行こうよ」と言うのでしぶしぶ従いました。

 チェーン店の喫茶店の2階でホットコーヒーを飲みながら、僕ら2人は小学時代の昔話に花を咲かせました。「これはいい感じなのでは? やっぱり白石さんは僕のことが好きなんじゃないのか?」と思わずにはいられませんでしたが、白石さんは唐突に地獄について語り始めました。仏教における地獄のようです。僕は大学の思想・宗教系専修を卒業しており、仏教の地獄について造詣が深かったため、白石さんがする地獄の話に興味深く耳を傾けました。しかしながら、いかんせん地獄の話が長すぎたし、さらには「このままでは中国が日本に攻めてくるのよ」と言い出しました。

 そして彼女は人目も気にせず、明らかにヤバそうな宗教のパンフレットをかばんから取り出し、喫茶店のテーブルの上に置きました。パンフレットの表紙には、白い上下の服を身にまとった大勢の信者たちの写真が載っています。「これって、宗教の勧誘じゃん! しかもかなりヤバいやつ!」と気が付き、「白石さんは僕のことが好きなのかもしれない」と考えていたことを恥ずかしく思いました。そして僕は、そのパンフレットの表紙が店内の人びとの目に入らないように、さり気なくテーブルの端に移動させました。すると白石さんは、明らかにヤバい宗教について熱心に語りながら、そのパンフレットをテーブルの中央に戻しました。僕はそのパンフレットを覆うようにして両手を置きました。

 「僕も大学で宗教や哲学の勉強をしていたから、宗教には興味があるけどさ、そろそろ違う話をしない?」と僕は提案しました。でもそれは却下されました。「これはとても大事な話なの。田中くんが○○様を信じなければ、中国が攻めてくるの」と彼女は真剣な表情で言います。いま考えると、あれから10年以上経つし、僕はその宗教を全く信じていないけど、未だに中国は日本に攻めてきていません。

 僕は試しに「じつは行政書士試験に4回連続で落ちてるんだけど、それも○○様を信じていないからなの?」と尋ねてみました。すると白石さんは「そう。その通りよ。田中くんがその試験に合格できないのは、○○様を信じていないからよ」と答えました。しかし僕は○○様を信じないまま勉強をつづけ、その年の行政書士試験に合格しました。僕が試験に落ちつづけていたのは、単に勉強量が少なく勉強のやりかたが間違っていたからであって、○○様を信じていないからではありませんでした。

 僕は最初、喫茶店でお茶したあとは、笑笑かどこかの居酒屋に入って2人でしっぽり飲もうと考えていましたが、白石さんの宗教の勧誘があまりにもしつこいので、一刻も早く彼女から解放されたいという気持ちで胸がいっぱいになりました。喫茶店に入って2時間くらい経ったころ、「田中くん、これから私と一緒に○○会館に行かない?」と誘われました。僕は「それはちょっと…。そんなことより、笑笑にでも行って一緒に酒を飲もうよ。もう宗教の話は無しでさ」と提案しました。でも彼女は居酒屋に行く気が全くなさそうでした。僕は白石さんが僕のことを1ミリも友人として見ていないこと、宗教の勧誘相手としてしか見ていないことが分かり、大きなショックを受け、悲しい気持ちになりました。

 その喫茶店から出たあとも、白石さんは僕を執拗に○○会館に誘いましたが、「もう宗教の話をしないのであれば、どっか一緒に行ってもいいよ」と僕は繰り返し答えました。最終的に、僕は彼女を振り切るようにして大宮駅で別れました。

 それから1週間くらい経つと、白石さんは再び勧誘のmixiメッセージを送ってきました。まるで、僕が断乎として断り続けた事実なんてなかったかのようでした。僕は「もう宗教の話をしないのなら、会ってもいいよ。笑笑にでも行って酒を飲もうよ」という趣旨の返事を送りました。そしたらさすがの白石さんもメッセージを送ってこなくなりました。「どんだけ僕と一緒に笑笑行きたくないんだよ!」と思って落ち込みました。

 あと、白石さんから受け取った宗教のパンフレットを自分の部屋に置いておいたら、母親の目に留まって、「あんた、変な宗教にだけは入らないでよね!」と本気で心配されました。「大丈夫だよ。宗教には入らないよ」と言って母親を部屋から追い出した僕は、そのパンフレットを拾い上げ、びりびりに破いてゴミ箱に捨てました。

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