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3代目の闘い①〜創業者を超えてゆけ〜


「もし今祖父と話せたら」

ふとそんなことを思う時がある

健常であった祖父と過ごせたのは18年間

若くして両親を亡くし、戦争にも行き、
紆余曲折を経て株式会社淵本鋼機を創業した

持ち前の堅実さは、「超絶的に地道な積み重ね」を要求される機械工具商にあっていた

筆舌に尽くしがたい青春時代を過ごし、
生死をかけた経験をした祖父と、生まれてこの方全てが揃っていた温室育ちの私とではまるで次元が違うと感じる

ある酒席でこんなことを言われたことがある

「あんたを見てるとお爺さんや、お父さんが築いたものに胡座をかいているだけだね(笑)」

返す言葉もなかった・・・

しかし私も苦労知らずというわけでもない 

14年前

2代目である父が急逝し、28歳で事業を承継することとなる

順風満帆とは言えない人生となった

100%苦労知らずのボンボンというわけではなくなったわけだ

一般的に創業者は、2代目、3代目が持ち得ない圧倒的なカリスマ性をもち、ブルドーザーの如く組織を牽引するイメージがある

私の祖父もご多聞にもれずと言ったところか

当社のベテラン社員は祖父の「手荒な薫陶」を受けた者も多い

「祖父とて永遠に生きれるわけではない」

そう実感できたのは大学入試を直前にした高三の冬であった

近所に住んでいて毎週当たり前のように会っていた祖父

何かもうすぐ遠くへ行ってしまいそうな気がして急にせつなくなったことを憶えている

大学入試を終え、新たな旅立ちに想いを膨らませていた矢先、祖父はたおれた

その数日前だったか、私の進学祝いを催してくれた祖父は、その席で私にこう言った

「強くなれ 精神的にも肉体的にも」

妙に胸に響いた重力を感じる言葉だった

シンプルな言葉ながら、
ある種の具体性と真実味を帯びている


今思えばこれが、
祖父が私に施した今生最後の教育だったのだろう



「強くなれ」

これは他者から何かを奪うためのそれではない

何かを守るための力だ

祖父の今までの生き方からすれば、
それは説明されなくても感じることはできた

あれからもう20年以上も経つ・・・

不惑を超えた私も
髪の毛に白いものも目立ち始めた


毎朝社長室に入ると、
祖父と父の写真に敬礼するのが日課だ

株式会社淵本鋼機3代目代表取締役社長

祖父と同じ土俵に立ったなどと
大それたことを言うつもりはない

永遠に追いつけない何かを感じる

もし今祖父と私が話すことができたら

私の考えに祖父は全く理解を示さず、
口論の末、殴り合いに発展するかもしれはい 

だがそれがいい

祖父はそれを望んでいるはずだ

それだけの「強さ」を私に求めている

私もかなりの頑固者だ
人様の意見などに耳を貸そうともしない

でもそんな俺を許してくれ

もう少し貫かせてくれ

そして見守っていてくれ

あなたが築き上げたものを守りそして破壊し、
新たな何かを産み出す覚悟で闘っている

あなたには永遠に追いつくことはできない

だが私は

あなたを超えてゆかなくてはならないのだ













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