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過去のテキストファイル

以下は、すっかり忘れていた過去のテキストファイルから

どんな思いで書こうとしたのか憶えてなくて、書いた時のきっかけが思い出せない
こういう小説めいたものを書こうとして、書き出したはいいものの気持ちが乗らずに投げ出すことが多い
削除せずに残っていたのでアップしてみたい
特別、太宰系統が好きだという訳ではないけど、思い出した頃にたまに読むせいか微妙に影響があったのかなと思う

※以下、推敲してないのでクオリティは高くないです
あと、短いです


「終日日記」

あなたが現在、平凡で、また幸福であるのなら決して読むべからず。
もしあなたがまだ若く、人生の終焉を想像し得ないなら同様である。
若さを終え、孤独に生きるサバイバーに捧げるものとする。

1 筆
----これから私は、筆をとる。
筆といっても。
それは所謂「例イ」であり、実際に使用するのはサインペンであったり鉛筆であったり、またはボールペンであったりする。
筆と云ったほうが表現がサマになるので、用いてみた。
この凡庸な書き出しのアイディアに関して、浅はかだとか格好付けだろうと感じる方も多いと思うが、私の頭の中の状態を端的に示す場合、この古風な表現は適度に適当であり、何より私自身の錆びれた感性に相応しいと感じる。
私は少しの絵を描くこと意外にこれといった取り柄がなく、こういった文章を書くことも、また何かを表現することに関しても特別秀でた能力を持ち合わせていない。このような表現で出だしを飾れば、もしかしたら自分が才ある存在であるかのような錯覚ができるのではないか。幾分心地良い気分に浸れるのではないかと思えたのだ。
----だが、やはり無理は良くないだろう。
こんなふうに最初から自分を飾って書き始めたのなら、私と私自身の本質などはまったく書ける筈がないだろう。
「本当に」
----「筆」を捨てよう。

2 本屋
私は極度の対人恐怖症を患っていたため、あまり好き好んで家から出ない。
仕事はできたりできなかったりが続き、周囲の仕事仲間からは敬遠されてきている。
現代社会に蔓延る様々な人間関係、いじめ、事件、理不尽、不信----。
長く生きていれば、誰しもそうしたものからは逃れられないが、そうした人間社会の中で周囲を蹴落とし上へ上へと伸し上がる者もいる。
そう。
私がこんなふうに底辺に転げ落ちる前には、私も同様に周囲を蹴落とし、そして伸し上がり、より良いポジション、より高い地位を目指して、またより多くの報酬を稼ぐために震えるこころを抱えながらあらゆるハッタリを遣って社会にしがみついてきた。
私は画業の分野、主に形式は個人事業主として働いていた。
家ではどうしても身が入らず集中力を欠いてしまうので、仕事を請けた会社から机を借りることが常だった。
私は自分の画力、力量、技量に自信がなかったため、休日も会社に出勤し、年に幾日も休まず働き続けていた。納期が迫ってくると一ヶ月以上会社で寝泊りをした。そうやって20年以上に渡りしがみついてきたのだ。
----何とかしがみついてきた。
仕事をこなせばこなすほどこころは安定したし、徹夜が続けば続くほど充実感を得た。
私は典型的なワーカホリック症候群で、また同時に燃え尽き症候群だったのかもしれない。
そしてある日、立つことも上手に歩くことも、会話をすることもままならなくなった。
----それはまた後の話、今は取り敢えず内緒にしておく。
     
           *

先日、久しぶりに勇気を出して下界へ降り、ひょんなことから本屋へと入った。
前方から向かってくる人の群れとすれ違うのを避けるため、一時的に書店へ身を寄せた。
咄嗟に入ったので、不審に思われないよう、雑誌などを物色する振りをした。
どの雑誌も自分とは別世界。望めない豊かさの象徴に感じられ、悲しくなった。
カラフルな雑誌類、そして洗練されたデザインの表紙で並べられた新刊の小説達。そのどれもが決して手にとることのできない大量の紙の束に思え、私のこころを打ちのめすには十分な風景だった。
その新刊の小説達の中で、一冊だけ一際目立っていたものがあったので、私はその本を手にとった。
その書物にはタイトルはなく、作者の名前すらなく、ただ無色の分厚いハードカバーの書籍だった。
パラパラとめくってみる。中身も同様に文字がなく、ただ隅に小さくページ数が印刷されている。そして最後のページにのみ版元や発行、初版----などの情報が印刷されていた。
この本は、小説家志望の方のための企画的なものなのだろうか。それとも日記などを書いてくれということだろうか。
私はこの中身のない奇妙な本が、まるで現在の自分のように思えて、気がつくとそれを抱えレジへと向かっていた。
「か、カバーつけてください」
私は蚊の鳴くような小さな台詞を発した。

私はこの書籍に私の半生を記そうと思う。 
これはそういう類のものだろうから。
私は私自身の哀れで小さな人生を誇張し、そしてその表紙にはせめて可愛らしい幸薄そうな女の子のイラストを描こうと思う。
誰からも手に取って貰えなければ、あまりに切な過ぎると思うからだ。
表紙で釣ろう。
----私の死後、何処かの誰かに私を見つけて貰うために。

           *

ここでこのテキストファイルは終わっていた

私は一人称の小説が好きで、内向的な感情の描写が好きだ
人のこころの揺れにかなうアクションはないと思う
こと文章に限っては、特に🍀

※基本フィクションだが一部、実体験が含まれている


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