支援者に当事者性は必要?(月刊風テラス:2022年9月号)
こんにちは。NPO法人風テラス理事長の坂爪真吾です。
2022年度の上半期もあっという間に終わり、今月から下半期ですね。
風テラスも、10月4日で7周年を迎えました。鶯谷の待機部屋で最初の相談会を開催したことが、つい昨日のような気がしますが、あっという間の7年間でした。
NPO法人設立1年目ということでドタバタしっぱなしの半年でしたが、後半も良い意味で多動力を発揮して、夜の世界で孤立・困窮している方々に適切な支援を届けられるよう、頑張ってまいりたいと思います。
それでは、今月の月報をお届けします。
1.【今月のトピック】支援者に当事者性は必要?
支援の世界において、「当事者であるかどうか」「当事者が関わっているかどうか」という点は、しばしば議論の種になります。
特に風俗の世界においては、「当事者であること」「当事者であったこと」に、社会的にネガティブなイメージが付与されがちです。
その裏返しとして、「当事者であること」「当事者であったこと」を公言することの重みが増し、「当事者でなければわからない」「当事者が関わっていないからダメ」といった基準で物事がジャッジされてしまう傾向があります。
風テラスのインターンや社会人ボランティアに応募してくださる方からも、「自分は当事者ではないので、実際に現場で働いている人たちの気持ちはわからないのでは・・・」という声が聞かれるときもあります。
しかし、そうした負い目を感じる必要は、全くありません。
私自身、学生時代からかれこれ20年近くこの業界に関わっている、業界最長老(笑)の一人です。少なく見積もっても、1万人を超える当事者の女性と接しています。おそらく「日本で一番、当事者の女性と接している男性」の一人だと思います。
これまで風テラスで対応した8千件を超える相談記録にも、全て目を通しています。風俗や売買春に関する著書も5冊出しており、「日本で一番、当事者の置かれている背景や課題を知っている人間」の一人でもあると思います。
こうした経験や知識をバックボーンにして、「私は誰よりも当事者の気持ちや背景がわかるんだぞ!」と胸を張りながら、相談員として現場にしゃしゃり出る・・・ということは、一切行っていません。
なぜかというと、当事者を知っていること(あるいは自らが当事者であったこと)と、当事者を支援できるスキルを持っていることは、全くの別問題だからです。
実際に風テラスで相談員をしているのは、私個人ではなく、弁護士やソーシャルワーカーなどの専門職のチームです。風テラスの中では、私の役割は理事長=ビジョンや経営戦略を策定し、資金を調達して、実行すること(+たくさんの事務と雑用笑)です。
つまり、当事者を何百人、何千人知っていたとしても、あるいは自分が元当事者であったとしても、それは、当事者を支援できるスキルが高いことを意味しないということです。
実際の相談現場では、1万人以上の当事者と接している私よりも、当事者とはほとんど接したことがない、業界用語や爆サイの隠語もよくわからないけれども、ソーシャルワーカーとして対人援助のスキル(=本人が現在困っていることを共感的に傾聴した上で、これまでの過去や行いをジャッジしたりせずに、適切な制度や支援につなぐスキル)を持っている人のほうが、1万倍役に立ちます。
また当事者性のある支援者は、きちんと対人援助の訓練を積んでいないと、自分が当事者であったことの記憶や経験に振り回されてしまい、適切な支援を行うことができないケースが少なくありません。
一口に「当事者だった」と言っても、吉原の高級デリヘルで働いていた人と、鶯谷の激安デリヘルで働いていた人とでは、当事者として見ていた景色は全く異なります。経験も価値観も、全く違うものになります。当事者は、一人ひとりが極めて多様です。
そうした中で、自分が当事者であったことの記憶や経験に振り回されている人は、自分と異なる立場や環境にいた他の当事者のことを想像できない。
「自分が当事者だったときはこうだったから、あなたもこうすべき!」「風俗はこういう世界なのだから、あなたもこうすべき!」となってしまう。それは、支援でもなんでもない、ただの個人的な価値観の押し付けです。
もちろん、当事者性があることは、当事者の気持ちや置かれている環境が理解しやすくなる、という点で、支援を行う上での武器になる場合もあります。しかし、それはあくまで対人援助職としてのスキルをきちんと身に着けた後の話です。スキルが無いのに当事者性を振りかざすだけの人は、支援者には向いていません。
拙著『性風俗サバイバル』(ちくま新書)でも書きましたが、そもそも風俗の世界の当事者とは、現場で働いている女性だけではありません。
「支援者として関わりたい」「応援したい」「夜の世界の現状と課題に興味と関心を抱いており、この世界で生きている・困っている人たちとつながりたい」と考えている時点で、立派な当事者です。
その意味で、風テラスのインターンやスタッフに応募してくださる方々は、その時点で、全員当事者です。当事者性がないことに焦ったり、負い目を感じたりする必要はありません。
当事者の一人として、一緒に現場で動いていきましょう!
2.【9月の活動報告】にいがた夜食便スタート!
1.上半期の活動報告会を実施!
9月30日(金)20時~、風テラス上半期の活動報告会をオンラインで行いました。
日々風テラスにご支援をくださっている寄付者の方々とお話することができ、たくさんの元気と勇気を頂きました!今後も、定期的に活動報告会を開催して参りますので、ぜひご参加ください。
毎月の継続寄付=マンスリーサポーターとして風テラスの活動を支えてくださる方、随時募集しております。12月31日までに、180名の方にサポーターになっていただくことを目標にしております。
月額500円からのご寄付頂くことができます。皆様の温かいご支援、お待ちしております!
Amazon欲しいものリストでも、食料支援に必要な食品のご寄付を募っております。野菜ジュースやパックご飯、オートミールやinゼリーが女性の方々に好評です。こちらも1000円~2000円からご寄付可能です。
2.「にいがた夜食便」スタート!
9月から、昨年に引き続き、新潟県内の風俗店に食品を届ける事業=「にいがた夜食便」がスタートしました。
今年は、お店に届けるだけでなく、女性個人の自宅に直接お米などの食品を発送する、というコースも追加いたしました。
新潟県内のナイトワーク(風俗、水商売、コンパニオンなど)で働かれている女性の方であれば、どなたでもお申し込み可能です。
LINE公式(@ngt4649)から簡単にお申し込みできますので、ぜひ友達申請して、困った時にご活用ください!
上記のチラシを県内各所に配布したいと考えておりますので、「うちの事務所・お店に置いてもいいですよ~」「行きつけのお店の子に渡してもいいよ~」という心ある方がおられましたら、風テラス事務局(info@futeras.org)までご連絡を頂けるとありがたいです!
3.【10月の目標と課題】助成金とインターン
1.まずは助成金を一つ通す!
NPO法人化した春先から、各種助成金に申請しまくっているのですが、なかなか良い知らせが聞こえてこない状況です。むむむむ・・・。
14年前にホワイトハンズを立ち上げたときも、最初の一年目はあちこちの助成金に申し込みまくったのですが、ことごとく落ちてしまい、「こうなれば、自己資金&自主事業だけでやったるわ!!」と開き直ってしまったのですが、今にして思えばそれが良くなかった=死のワンオペロードへの片道切符だったのかなと(汗)。
風テラスは、受益者(相談者)からお金をいただくタイプの事業ではない=100%自主事業の売上だけで運営する、ということが、少なくとも現時点では難しいので、当面は、きちんと助成金を獲得しながら事業と組織の基盤を整備していくしかないと考えております。
風俗という賛否の分かれる分野ではありますが、事業内容は至極真っ当+過去7年間の活動実績もあるので、きちんとPDCAを回して試行錯誤を弛まずに繰り返していけば、いつかきっと報われるはず、ということで、10月も引き続き書類と格闘したいと思います。
「こんな助成金があるよ」「ここでも募集していたよ」という情報がありましたら、ぜひお寄せ頂けると嬉しいです。
2.スタッフ1名&インターン2名を新規に採用する!
先月から募集開始した相談受付スタッフ(ソーシャルワーカー)の求人、早速ご応募を頂きました!(拍手&大感謝)
「風テラスにずっと参加したかった」というありがたいお言葉を頂き、代表として身が引き締まる思いであります。ご期待を裏切らないよう、頑張ります・・・!
そして学生インターン、あと2名ほどご応募があると嬉しいな・・・と願っております。
特に法学部生や法科大学院生の方にとっては、夜職同様の完全自由出勤で、弁護士の相談員とSlackでやり取りしながら&ソーシャルワーカーの相談員の傾聴スキルを間近で聴きながら、司法と福祉の協働についてお手当をもらいながら学べる、という理想郷のような世界(当社比)なんじゃないかな・・・と思いますので、我こそはという方がおられましたら、ぜひ風テラスの門を叩いて頂けると嬉しいです。
それでは、今月も閑散期に負けずに頑張りましょう!
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