オアシスポケット

 インターネット黎明のころ、パソコン通信のBBSへの書き込みした方からその当時どんな雰囲気だったかを聞きます。

gomi(202/550) 93/09/22 02:05 オアシスポケットユーザですが。。。
 携帯端末にはあまり使えません
 600行読み込んだら、あとの受信データは捨てられます。。。
 やたらメッセージが長くてボードまで到達するのに1分ぐらいかかる
 ネットやったら悲しい。。。

1993/9 BBSの書き込み より

 1993年9月、現在多くの方が一般的に使っているスマートフォンが登場する前、モバイル用の機器としてオアシスポケットという情報端末が使われていたようです。独自の親指シフトというキーボードを採用していて、モノクロ液晶表示ながら、アルカリ単三電池2本だけで数時間動作するという、とても意欲的なものです。オプションのモデム接続にて通信が可能だったようなのですが、300 / 1200 / 2400 bps 全二重と、かなり速度的にきびしいものであるだけでなく、600行読み込んだ後は受信データが捨てられる!かなり限定された用途になっていたのではないかと思われます。
 ノートパソコン未満、キーボード付き、白黒表示とリソースの選択しつつ、持ち歩ける小型の情報機器が当時は色々あったようで、使う側も試行錯誤しつつ利用する時代だったようです。

■オアシスポケット(初代)とわたくし

 大学4年の時に中古で安かった……といっても5万円程で買ったヤツだ。どうして相場より安かったのかといえば”親指シフトキーボード版”だったから。今となっては採用デバイスも無くロストテクノロジー同然なので、親指シフトについては割愛しよう。でもな、結構覚えたんやぞ、ワシの青春返せよっ。

 オアシス名なのでワープロではあるがシリアルポートを備えてテキスト入出力可能で、変換ケーブルを用いてパソコンとの連携も比較的容易だった。卒論の文章を電車の中で打ち込むのに非常に重宝したのである。

 PCMCIAスロットを2基備え、片方にモデムカードを装着していればパソコン通信にも対応するスグレモノで富士通ということもあって当時はNIFTY-Serveに接続するハンドヘルド機としてコアな人気があったのだ。
 同時期に同じく単3電池2本で動くFMR-CARDというハンドヘルドパソコンもあったけど、より携帯性に優れた(そしてより安い)OASYS Pocketの方に人気が出たのであろう。

 それで、だ。看板となっていたNIFTYや草の根BBSの接続にもさぞかし重宝すると思っていたら通信速度が2400bpsであることを差し引いてもとろくさい上に600行読んだら本体記録の方には残らずにデータが流れるだけである。
 直近分が残る(FIFO)などという気の利いたものではなく、600行より後のデータだけがバッサリと切り捨てられるのでログ保管の用向きには全くの役立たずである。
 もっとも、NIFTYでの書き捨てレスバトルなんてのは

 ”ふりむくなアムロ~ただあしたへと永遠に~”

 なのでログなんて不要なのだろう(謎)
 FMR-CARDが買えない貧乏人にはお似合いの仕様とはいえ、これでよく文句が出なかったなと。OASYS Pocket 2や3では改善されているか確認する前にモバイルギアに逃げたけど。(普通のユーザーはメールチェックと返信ぐらいで、フォーラムに潜るヤツが悪いのか)

 そうそう、モデムカードを使ったら電池は2時間程しかもたないのでニッケル水素電池は重要、超重要。

 後年、就職先で真っ先に扱ったのがV25プロセッサにPCMCIAスロット2基の産業機器マイコンであった。これ、偶然にもまんまOASYS Pocketの構成なのだ。先輩からおいらがOASYS Pocketを持っていることを嗅ぎ付けられ、ちょっとだけ分解させてくれと渡したが最後……

「バックアップ電源断」と表示されて立ち上がらなくなってしまった。

 あ……なんやこれ、システムってSRAM内で内部バッテリー保持やったんか。クリーンコンピューター思想(それはシャープや!)かくあるべし、こうして代理店経由でサービスセンター送りにされたのであったorz

BBS書き込みした方による現在のコメント

 オアシスポケットはオアシスの名がついている通り、ワードプロセッサ専用機としてカテゴライズされており、富士通ミュージアムサイト( https://www.fujitsu.com/jp/about/plus/museum/products/computer/wordprocessor/oasyspoket.html  )に簡単な解説があります。初代が好評だったのか、その後バージョンアップされたOASYS Pocket3まで発売されています。

OASYS Pocket(1991年) 富士通ミュージアムより

 1991年はシステムを入れられるようなフラッシュメモリがまだ十分でなかったのか、S-RAMにシステムが格納されているようです。このため、間違ってコイン電池を抜いてしまうとコメントにある通り「バックアップ電源断」と表示され、起動しなくなってしまう仕組みです。これは初代だけでなく、OASYS Pocket3まで続く伝統のようで、富士通のサービスセンターにおいてシステムの注入をしてもらう必要があるそうです。サービスセンターには、OASYS Pocket 起動&システム転送用RAMカードがあって、カードを刺して電源を入れれば書き込んでもらえるみたいです。(OASYS Pocket バックアップ電源断の対処方法 http://chimaki29q.com/ct/mono/pc/op_bu.htm より)
 フラッシュメモリにシステムとアプリケーションが入っている機器が当たり前になっている現在からすれば、システムがS-RAMに入っていて電池がなくなるとシステムプログラムもデータもすべてが失われて使えなくなってサービスセンター行きというのは想像するのが難しく、コイン電池のエネルギーをたよりに保持されるソフトウェアで動き続ける製品を梱包して出荷するというのは、なにかフワフワしたところを歩き続けるような不思議な感覚がします。

用語

・オアシスポケット
 1991年に富士通から発売された、ポケットサイズワープロ。
 225mm×114mm×26mmというポケットに入るサイズ、530gの重量、単3アルカリ電池2本で約10時間動作するという携帯端末。ディスプレイは反射式LCDで、16×16ドット 40字×11行、80字×20行(縮小表示)。
 本体価格12万8千円。

・V25プロセッサ
 NEC μPD70320 / V25 シングルチップマイクロコントローラー。16bit CPUであるNEC μPD70108 / V20プロセッサ(データバスが8bitであるi8088相当で、拡張命令がある)、RAM、シリアルインターフェイス、タイマ、DMAコントローラー、割り込みコントローラー等がワンチップになっている。

・FMR-CARD
 1992年に富士通から発売された、FM-R系のノートパソコン。
 210mm×294mm×24mmというサイズ、940gの重量、単3アルカリ電池2本で約8時間動作する携帯端末。ディスプレイは反射式LCDで、CPU 80C286 8MHz、ROMにMS-DOSを内蔵。
 参照:https://www.wdic.org/w/TECH/FMR-CARD

・モバイルギア
 1996年から続くNECから発売された携帯端末のシリーズ名称。入力しやすいキーボードに定評があり、初期のころ主として単3アルカリ電池2本で動作し、反射式LCDのモデルが多い。
 参照:https://support.nec-lavie.jp/product/mobilegear/mgvitamin/age/

・PCMCIAスロット
 PC Cardともよばれるパソコン用 小型カード型インタフェース。クレジットカードサイズ 85.6mm×54.0mmで、電源を入れたままの抜きさしが出来るという、当時はまだ一般的でなかったプラグアンドプレイ、ホットスワップに対応するハードウェア規格。ただし、本体動作中の抜きさしはハードウェア的に問題なくとも、ソフトウェア的に出来るとは限らない。OASIS Pocket用としてはストレージ系のS-RAMカード、フラッシュメモリカード、フロッピーカードや、通信系のモデムカードなどがある。

 インターネット黎明のころの草の根BBSももりこみつつ、いろんなエピソードをつめこんだ「ちょっと偏ったインターネット老人会へようこそ」を同人誌として頒布予定です。
参加予定イベント
 11月6日 おもしろ同人誌バザール@神保町2022秋
 11月20日 第七回技術書同人誌博覧会

同人サークル BLACK FTZやってます twitter @black_ftz

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