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宮崎〜日本のひなた〜 vol.4

 みなさん、おはようございます。こんにちは。こんばんは。食トレンド研究センター研究員の、片岡です。

 前回の“食文化探訪”では宮崎の地場産業『焼酎』はどんな要因で宮崎に根付いていったのかを深堀りしていきました。今回は、現在、宮崎の郷土料理と呼ばれている料理の中でも弊社に関わりの深い4つの料理について、少し深掘りしたいと思います。


チキン南蛮

発祥の地は延岡

 からりと揚げた鶏肉を甘酢に漬け、タルタルソースをかけて供されるチキン南蛮。近年、全国区の人気メニューとなった料理ですが、その発祥の地は延岡のべおかだと言われています。しかも「チキン南蛮」のスタートはタルタルソースをかけていなかったのをみなさんはご存知でしたか?

 昭和30年代、同市に洋食の名店として知られた「ロンドン」というレストランで、賄い料理として作られていたものが「チキン南蛮」のルーツとされています。正式な名前もなく、タルタルソースもかかっていない「鶏から揚げ甘酢漬け」とも呼ぶべき料理でした。

元祖チキン南蛮 直ちゃんのチキン南蛮

 その「ロンドン」で修行をしていた故後藤直さんが、昭和39年頃、経営する居酒屋「直ちゃん」でオリジナルに独自の工夫を加えてメニュー化。常連さんと相談の後、アジの南蛮漬けと同じ甘酢を使っていることから「チキン南蛮」と名も改めてようやく、名実ともに「チキン南蛮」の誕生となります。これが本当の元祖「チキン南蛮」と言われています。

2系統あるチキン南蛮

 そして同時期に「おぐら大瀬おおせ」を開業した故甲斐照幸さんが、タルタルソースをかけ、サラダなどを添えるスタイルが、現在のチキン南蛮の主流となりました。

おぐらのチキン南蛮

 延岡発祥のグルメ「チキン南蛮」。タルタルソースをかけた一般的なチキン南蛮と、こだわりの甘酢ダレだけで味わうシンプルなチキン南蛮の2系統があるのが、発祥のまちならではの特徴です。

大根の漬物

宮崎・冬の風物詩

 宮崎の冬の風物詩といえば、「大根やぐらと大根干しの風景」です。宮崎県宮崎市の田野町、清武町、高岡町などを中心とする地域は、日本でも有数の加工用(漬け物など)の干し大根の産地として知られます。弊社に関わり深いところで言うと道本食品が田野町にあります。例年12月になると「大根やぐら」と呼ばれる、竹で組まれた巨大な櫓に、収穫後の大根が干される風景を見ることができます。

大根やぐらと大根畑(出典:JAPAN WEB MIYAZAKI

 大根やぐらは、高さ6メートル、幅6メートルという巨大なもの。長さ(奥行)は50メートルから大きなものだと100メートルにも及び、畑の広さにして30アール分(6m×6m×50mのやぐらの場合)の沢山のダイコンが干されている様はまさに圧巻です。

 田野・清武地域の土壌は黒色火山灰で、黒ボクが多く、肥沃な弱酸性の土壌が大根栽培に適していること、冬季に「わにつかおろし」という乾いた南西の風が吹き、この風が大根の乾燥に適していることで、干し大根日本一の生産量を誇っています。その土と風を活かし、産地化が進みました。

やぐらの中(出典:道本食品公式webサイト

道本食品の「日向漬ひなたづけ

 先述した道本食品は、50年以上にわたり、宮崎の冬の豊かな日照と「わにつかおろし」の寒風が生みだす気候の特性を生かし、天日干したくあん「日向漬ひなたづけ」を作り続けています。2021年2月、大根の干しやぐらをシンボルとした宮崎県田野町、清武町の畑作が日本農業遺産(未来に残したい産業)として農林水産大臣によって認められました。それほど、宮崎にとっては文化的にも経済的にも大切な産業になっています。

冷や汁

忙しい農家のファストフード

 キュウリやシソ、ミョウガなどの夏野菜を浮かべた味噌ベースの冷たい汁を、熱々の麦飯にかけて食べる宮崎の夏の風物詩、「冷や汁ひやじる」。最近は都会のレストランのメニューにも加わり、新宿にある県の物産センター「宮崎館KONNE(こんね)」でも冷や汁の素が人気を呼んでいます。本場では、イリコにゴマ、味噌に野菜といった食材を使い、忙しい農家の即席スタミナ料理として親しまれてきました。

冷や汁(出典:農林水産省Webサイト

 冷や汁は元々農民食(陣中食)と言われ、農家が朝の忙しい合間をぬって、井戸水で味噌を溶かした汁に、庭先の夏野菜を刻んでいれ、ご飯にかけてサッと食べ、野良仕事に出たのではないかと言われています。昭和40年代までは宮崎平野(宮崎市周辺)を中心とする地域の郷土料理であり、宮崎県北地域や県西地域ではほとんど食されていなかったようです。

飫肥天

 「飫肥天おびてん」とは、宮崎県日南市飫肥おび地区の郷土料理で、魚肉練り製品です。飫肥藩領おびはんりょうであった江戸時代に領民たちによって考え出され伝わってきた料理で、もともと飫肥周辺では味噌を使う料理が多く、南西諸島からの移住者を中心に、19世紀半ばにサトウキビの栽培がはじまったことなどを背景に、味噌と黒砂糖を使う「飫肥天」が誕生したと考えられています。

飫肥天(出典:元祖おび天本舗

 イワシ、アジ、シイラ、サバ、トビウオ、サワラなど日向灘の近海でとれる大衆魚を、丸ごとすり身にしたものに豆腐を混ぜ、味付けに味噌醤油黒砂糖を加え揚げてつくります。見た目は薩摩揚げに似ていますが、豆腐が入っているため薩摩揚げに比べて柔らかく、ふわりとした食感で、少し甘めで独特の味わいがあります。ちなみに「おび天®️」は、(株)元祖おび天本舗の登録商標となっています。

まとめ

 宮崎県の郷土料理と呼ばれるものはまだまだありますが、今回は弊社にとってなじみの深い4つの料理について書いてみました。大根の漬物(日向漬)などは、以前取り上げた気候や土壌の影響もありました。今回で、一旦宮崎県についての記載は終了したいと思います。全4回、お付き合いいただきありがとうございました。


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