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ウィドウメーカー

2022-08-13 08:42:15

正直、(現在の)日本銀行のようにまともな機関が日本政府にあることに、驚くほどです。4月11日の参院決算委員会における、日本銀行の西田昌司参議院に対する答弁、

『現在の状況についてお答え申し上げます。ウクライナ情勢を受けました供給不安に起因する資源・穀物価格の上昇は、短期的にはエネルギー・食料品を中心に、物価の押し上げ要因となる一方、家計の実質所得の減少や、企業収益の悪化を通じまして、国内需要の下押し要因となります。このことは感染症からの回復がなお道半ばにある我が国経済に悪影響を与え、長い目で見れば、基調的な物価上昇率の低下要因ともなり得ます。』

には、もはや感動を覚えました(皮肉ではありません)。そう、コストプッシュ型インフレはデフレ化要因です(当たり前ですが)

 ちなみに、わたくしは2013年初頭の、
「日銀がインフレ目標2%を掲げ、目標達成までの量的緩和をコミットすれば、期待インフレ率が上がり、実質金利が下がり、企業や家計が借り入れを増やし、消費や投資という需要が増え、デフレ脱却できる」
 という、「いわゆるリフレ派理論」を支持したことはありません。(ついでに「私はリフレ派です」「私は保守派です」等は、言論活動開始当初から意識し、絶対に言わないようにしてきました。「保守派のくせに」といったカテゴライズによる批判は通用しませんからね)

 そもそも、我々経営者は実質金利など見ていないというか、用語としても知りません。見るのは、銀行が貸してくれる際の名目金利です。名目金利は、十分に安かった(もはや名目金利を引き下げられないが故に、フィッシャーの方程式を利用し、実質金利を引き下げるといったアイデアが生じたのでしょうけれども)。

 名目金利が低かろうが、我々は投資をしない。理由は、デフレで儲からないから。

 2012年末の第二次安倍政権発足以降、唯一、借り入れと投資が激増した分野が、メガソーラ。

 何度か三橋TVで語っていますが、わたくしのところにも何度も、
「利回り7%を保証します。投資しましょう」
 という勧誘が来ましたよ(やってませんが)。7%の利回りが保証されるならば、何しろ名目金利は1%程度。みんな、やりますよ。

というわけで、
「デフレ(総需要不足)で十分なリターンが見込める投資先がない状況で、我々の「借り入れ」を増やすことでデフレ脱却を図る「いわゆるリフレ派政策」は失敗する」
 と、主張していたわけですが、案の定。というか、当たり前。

 正直、「日銀は気の毒・・・・」と思っていました。何しろ、金融政策だけでデフレ脱却など不可能であるにも関わらず(2012年以降の日本が証明しました)、責任だけは押し付けられ、ひたすら国債を買い続け(帳簿を書くだけだけど)、挙句に「財政政策の不足」による円安、コストプッシュ型インフレまでもが日本銀行のせいにされる。

 ここで、日銀が「じゃあ、金融引き締めに転じる」と、狂気の金融政策転換を決断し、日本は令和恐慌、という懸念があったわけですが、日銀は金融緩和の姿勢を崩していません。

 理由の一つに、いくつかのファンドが日本国債の金利上昇(価格下落)にベットしていることがあるのではないかと。ウィドウメーカー(未亡人製造機)への挑戦者たちです。つまりは、奥さんを未亡人にするリスクを取った勇者たちですね。

日本銀行は2016年9月、十年物国債金利の目標値を設定し、国債買い入れを通じてイールドカーブ全体を望ましい水準に誘導するYCC(イールドカーブコントロール)を導入しました。「人類」の中央銀行がYCCを導入したのは、1942年のアメリカFRB以来、二度目です。

 イールドカーブとは、縦軸に債券の金利、横軸に償還までの残存期間を取ったもので、利回り曲線とも呼ばれています。

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【図 2022年7月末時点のイールドカーブ(%)】

図は、2022年7月末時点の実際のイールドカーブになります。日本銀行は、十年物国債金利を0.25%未満に維持するYCC政策を採用しています。

 このYCCを、円安進行を受けて変更せざるを得ない、と「予想(あるいは妄想)」したいくつかのファンドが、日本国債の空売りを仕掛けてきたわけです。

 例えば、ヘッジファンドのブルーベイ・アセット・マネジメントは、現在も日本国債の値下がりを見越した取引にコミットしています。同ファンドのCIOのマーク・ダウディング氏は、

「インフレ率が上昇し続け、政策乖離に伴い円が一段安となる中で日本銀行が9月に政策を転換すると考えてきた。この見方は変わらない」
 と語っています。

日本国債は、過去にファンドの予想を散々に裏切り、彼らに大損害を与え「ウィドウメーカー」と呼ばれているのですが、今でもチャレンジャーたちはいるんですね。

『主要閣僚続投で日銀緩和継続との見方、首脳人事もバランス重視か
 岸田文雄首相が実施した内閣改造では、鈴木俊一財務相や松野博一官房長官ら主要閣僚が留任となり、当面は金融緩和の継続で経済を支える日本銀行の政策運営に大きな影響はないとみられている。
 第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、主要閣僚の続投は「現状維持のフォーメーション」とし、経済政策に変化はないとみている。少なくとも黒田東彦総裁の下では現行の緩和策が維持され、為替について「急速な」円安は望ましくないとの認識が引き続き共有されるとの見立てだ。(後略)』

そもそも、現在の輸入物価上昇、円安に起因するコストプッシュ型インフレに対しては、政府の財政政策で対処するべきです。具体的には、消費税、ガソリン税を廃止し、エネルギー・食料関連に政府が補助金を出すのです(唯一、ガソリンに対しては出していますが)。

 日銀が利上げを決断するべき時期は、「我々(民間)がカネを借りまくり、需要が拡大しすぎ、インフレ率が健全な範囲を超えて上昇して言っている時期」のみです。為替レートは関係ありません。

それにも関わらず、緊縮財政の継続で国民がコストプッシュ型インフレに苦しみ続けるとなると、日銀は頭の悪い連中から、
「円安を是正するために、利上げしろ!」
 との圧力を受ける。となれば、日本国債の価格は下がる。となれば、今のうちに空売りしておけば・・・・。と、ファンドの連中は考えたのでしょう。

 日銀が政治的圧力を受け、強引に「利上げ」をさせられると、それこそ日本国債の空売りを仕掛けるファンドにビジネスチャンスを与えることになってしまう。日本国債が「ウィドウメーカー」でなくなると、今後の金融政策の不安定さは増さざるを得ない。

 これもまた、日銀がYCCを堅持し、コストプッシュ型インフレについては「政府の財政政策で対処しろ」と主張している理由だと思うのです。


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