「政府支出」は経済を成長させるのか?
成田悠輔&池戸万作対談を斬る!②
さて、本日の動画のポイントは3つです!
GDP勘定における会計恒等式とは
GDP勘定における政府最終消費支出を理解する
所得支出勘定における移転支出とは
です。それでは一つ目のポイントから見ていきましょう。
ポイント1. GDP勘定における「会計恒等式」とは?
社会会計フレームワークにおいては、国連等の制定する「国民経済計算体系(SNA: System of National Accounts)」に準拠して、全てのマクロ変数を複式簿記で記録・表示します。
SNAの勘定体系の中でも、その出発点でもあるGDP勘定で文字通りGDPが計算されます。
ポイント2. GDP勘定における政府最終消費支出を理解する
会計的にざっくりと言えば、政府最終消費支出は対価性取引の一つ。損益取引として「収益(売上)-費用(売上原価)≡粗利(売上総利益)」が計算されるように、対価性取引として「総需要-中間投入≡GDP」が計算されます。
つまり、GDPを構成する政府最終消費支出は、
政府が対価を支払って消費財を購入するための支出「現物社会移転(市場産出の購入)」
政府が対価(例えば国公立大学の授業料)を受け取るが、それ以上の価値を有する財・サービスを提供(産出)する場合の差額
政府が対価を支払って投資財(資本財)を購入するための支出「自己勘定総固定資本形成」
の3種類に限定されるのです。詳しくは内閣府「用語の解説」をご覧ください。
そして、上記会計恒等式から容易に推測できるように、GDPを構成する「政府最終消費支出+一般政府の純公的固定資本形成(総公的固定資本形成-固定資本減耗)」とGDPの伸び率(1994-2021年)はほぼ一致しています。
従って、GDPの伸び率と政府最終消費支出+純公的固定資本形成の伸び率との関係は、単なる相関関係を超えて因果関係と言っても良いのではないでしょうか。
ポイント3. 所得支出勘定における「移転支出(収入)」とは?
これに対して、所得支出勘定においては非交換性取引として所得・資本を移転する直接税や社会保険料、社会保障給付の他、金利や不動産賃貸料といった「財産所得(受取/支払)」が記録・表示されます。
ここで重要なのは、同じ「政府支出」であっても、対価性のない社会保障給付等は、GDP勘定の政府最終消費支出には該当せず、むしろ所得支出勘定の移転支出(社会保障給付)として記録・表示されることです。
ところが、成田悠輔&池戸万作対談では、成田氏の次の発言によって同じ「政府支出」と言っても、政府最終消費支出ではなく、非交換性取引である移転支出(社会保障給付)に話が移っていきました。
政府が対価なく1人1億円お金を支給するのは、対価性のない移転支出(社会保障給付)です。従って、このような政府支出は社会保障給付(支払)として所得支出勘定に計上されることになります。
そして、所得支出勘定の非交換性取引である移転支出(社会保障給付)とGDP勘定のGDPとの間には勘定連絡が存在しない以上、移転支出(社会保障給付)がGDPに直接的な影響を与えることはありません。
従って、移転支出(社会保障給付)とGDPとの間には因果関係どころか相関関係すら存在しないのです。
終わりに
成田悠輔&池戸万作対談で話が噛み合っていないと感じた方は相当数いらしたと思います。
一般的には、政府支出と経済成長との間に因果関係があるのか、それとも相関関係しかないのか、という点に焦点が当てられていますが、一口に「政府支出」といってもそれが政府最終消費支出に該当するのか、それとも移転支出(社会保障給付)に該当するのか、その違いによって因果関係の有無も変わってくるということをご理解いただきたいと思います。
複式簿記を基礎とする社会会計フレームワークであれば、交換性取引(損益取引)だけでなく非交換性取引や資本取引、金融取引も含め、あらゆる取引を複式簿記と会計恒等式で記録・表示します。
また、社会会計フレームワークは、一国経済全体のフロー取引だけでなく、ストック(資産・負債・資本[国富]の残高)も含め、幅広い視野でマクロ経済学をより実用的な学問に書き換えていきます。それによって財政・金融政策の効果に関するシミュレーションもより正確な数値で実施することも可能となります。
これからも社会会計フレームワークを用いたマクロ経済分析を行っていきますので、どうぞご期待ください!!!
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