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姿よりさきに匂い立つ

上京する前は、都内といえばどこもかしこもコンクリートとアスファルトで覆われた灰色で硬質な景観だろうと思い込んでいた。けれども私が住むことになった東京の下町は、ひしめいて居並ぶ住宅地のそこかしこに穏やかな小さな緑が覗いていて、この土地をすぐに好きになった。

庭の多くはほどよく手入れされ、季節の花を植えた鉢が並んでいる。植物も多様で、春の球根に花のきれいな樹木、常緑のグリーン、本格的なイングリッシュガーデンのようなつるバラのアーチ、ハーブのプランターや、塀や柵からこぼれそうなコデマリやあじさいの花壇などなど。しばらく放って置かれているような鉢にも、無邪気で愛らしい野の花や威勢の良い草が咲いている。おかげで、散策のみならず通勤経路までもがとても楽しい。

私は、季節に先駆けて鼻をくすぐる花の香りが好きだ。1月の蝋梅、2月の梅の、柔らかい春の初めの香り。
個人的には3月の沈丁花が春本番を告げ、4月のハゴロモジャスミンが初夏へ橋を渡すように感じている。

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連休が近づきツツジが咲く頃になると、毎年不思議に思うことがある。とくに夕方ごろ漂う、湿った土のような香り。きのこのや朽ちた葉を思わせる、どこか懐かしいその香りは、どこからやってくるんだろう。(本当にわからないので、ご存知の方に教えてもらいたいです)

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さて、今の家に住んで6年。園芸種と野草、近所の植物の分布をけっこう覚えてきたと思っていたのだけど、今年初めて認識した香りがある。ジャスミン系の芳香に似ているのにまったく思い当たらない、この香りはいったいどこから?
いちど認識してしまえば、あちらこちらの庭から香りが放たれていて、このような強い香りをなぜ今まで逃していたのだろうと、とても不思議なのだった。

やや怪しくキョロキョロと周囲の緑(よそのお家の庭先なので、あくまで控えめに)に目を走らせて香りのもとに検討をつけた。5つの花弁を持つ、紫色あるいは白色の一重咲きのつる植物のようだ。

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子どもが通う保育園の近くで写真を撮ることができた。さっそく調べるとこれは「ニオイバンマツリ」、通称「アメリカジャスミン」と呼ばれる植物だそう。はじめ香りを辿ったとき、「ジャスミン(?)で源平咲きってすごい!今年出回った新種?」と驚いた。しかしじつは、花はまず紫色で咲き、褪色して白くなっていくのだそう。それに加え、新種でもなくずっと流通している人気の品種なのだった。

世界をこんなふうに彩る花があることを知らなかったので、とてもわくわくした。好きな植物を知っているつもりでいるけれど私は、まだまだまだ知らないことばかりだ。

来年からはニオイバンマツリの香りが風物詩に加わる。たくさんの素敵なことを自分いっぱいに詰めて生きていけたらいいなと思う。


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